二周目モブは死にたくない ~お腹の中から鍛え続けたらバケモノだと勘違いされる話~

馬路まんじゟ@マンガ色々配信中検索!

第一章:胎児、改造編

第1話 死と、再誕(ステータスあり)


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 氏名:空鳴そらなきカナタ

 年齢:23歳(聖暦2030年4月1日生まれ)

 職業:霊奏師

 所属:霊奏機関・渋谷支部・霊戦課

 階級:参號さんごう

 霊性:属性・風 霊力量・D 霊奏経絡量・C

 技量:巫術・C 付術・C+ 符術・C 負術・D

 憑霊:【人形】の概念霊、【空砲】の概念霊、【一反木綿】の概念霊


 備考:空鳴家(従三位)の第三子。出雲霊奏学園卒。


   その他、特になし。

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 プロフィールをまとめるとこんなところか。


 ぶっちゃけると、俺はモブだ。もう少し頑張れって感じのモブだ。


 霊奏師の血筋とはいえ、家の位は最下級。才能もからっきしで、子供の頃から修行の日々だったのに、下から二番目の参號級になるのが精いっぱいだ。


 情けないよなぁ。すごい奴らは十代の頃から無双して、テレビやネットでタレント扱いされてるのに。俺の姉貴と兄貴がいい例だよ。


 波長が合った概念霊も、【人形】【空砲】【一反木綿】とかいう殺傷力ゼロのハッピーセットだし。

 しかもあんまり霊力あげれてないせいで、髪とか引っ張ってきやがるし。たぶん舐めてるんだろう。


 そんな雑魚モブな俺だ。結末は……敗北に決まっているだろう。



『レ廻レ廻レ廻レ廻レ廻レ廻レ廻レ廻レ廻レ廻レ廻レ廻』


「……うるせーよ」



 目の前にはバケモノがいた。

 突然、街中に出現したという概念霊だ。


 何の概念を司っているかは不明。【鋏】の概念霊は頭が鋏の魚になるとか、姿形でなんとなくわかるんだが、コイツはわけわからん。


 人間の脂肪で、無理矢理に天使の像を作ったような黄ばんだバケモノだ。気持ち悪い。



「なぁおまえ……もう満足しただろ? 昇天してくれよ」


『レ廻レ廻レ廻レ廻レ廻レ廻レ廻レ廻レ廻レ廻レ廻レ廻』


「散々暴れたんだから、もう十分だろ」



 概念霊は、宿した概念をある程度達成すると消失する。

 たとえば【縄】なら人間を何人か絞め殺すとか。【火】なら火事を起こすとか。

 まぁ、そんなことをさせないために、俺たち霊奏師が出動するんだが……。



「俺の仲間、おまえのせいでこんなに死んじまったよ……」



 目の前には、死体の山が広がっていた。

 バンカラスーツの老若男女。彼らこそは霊奏師。

 概念霊と波長を合わせ、肉体や武装に宿して戦う同僚たちだ。


 そんな彼らが死んでいた。頼れる先輩も、俺をコキ使う先輩も、仲のいい同期も、見下してくる同期も、可愛かったり生意気な後輩らも……。


 霊奏機関・渋谷支部の三十六名。

 その全員が、首が蛇のように細くなって窒息死していた。


 みんな喉を押さえていた。

 血流も寸断されて脳圧が上がり、みんな目玉が飛び出ていた。

 決死の形相で、息を求めて、ものみなひとしく死んでいた。

 目の前の概念霊に一睨みされただけで、みんなこうなってしまった。


 良い人も悪い人もいたけれど……こんな哀れな死に様を迎えていい人は、流石にいなかったよ。



「なぁ肉天使。おまえの概念は何だ……【縮小】か?」


『レ廻レ廻レ廻レ廻レ廻レ廻レ廻レ廻レ廻レ廻レ廻レ廻』


「いや違う。みんなが放ったおまえへの攻撃は、全部がどこかに消えていた。ならば【抹消】なのか? いや、だがそれなら殺し方は……」


『レ廻レ廻レ廻レ廻レ廻レ廻レ廻レ廻レ廻レ廻レ廻レ廻』


「なあ、おまえ」



 俺は、黄ばんだ天使のバケモノに問う。



「おまえ――なんで、俺みたいなモブだけを生かしたんだ?」



 その質問に、天使はぴたりと止まり、



『……廻レェ……❤』



 脂肪の歯を見せ、微笑んだ。その笑みは、〝嗜虐心〟に溢れた嘲笑だった。



「ああ……そうか」



 おまえは俺を嬲りたいのか。猫がネズミを転がすように、ちょうどいい雑魚だから遊びたいと。

 ははっ、なるほどな。



「ふざけるなよ……!」



 一気に怒気が魂に溢れた。

 馬鹿にされたことは山ほどある。兄貴や学友や同僚から、『パッとしないヤツだ』と散々に言われてきた。

 だが、命を軽んじられたことは初めてだ。俺は全身の経絡に霊力を滾らせ、肉天使に駆ける――!



『レ廻レ廻レ廻レ廻レ廻レ廻レ廻レ廻レ廻レ廻レ廻レ廻~!?』



 遊ぶように笑う肉天使。その腕を巨大な鞭のように変化させ、俺に叩き付けてきた。しかし、



「巫術【人形】発動!」



 俺は肉体に【人形】の霊を宿す。瞬間、俺の足は関節が砕けかねないほどの曲がり方をして、肉鞭を寸でのところで回避した。

 巫術――肉体に概念霊を憑かせる術を用い、【人形】のように操作させた。


 さらに、



「付術【一反木綿】発動」



 巻いていたマフラーが急激に伸びた。そして肉天使を締め付ける。

 付術――概念霊を関連物体に憑かせる術で、マフラーに【一反木綿】を宿して異常化させた。



『レ廻ァ!?』


「【一反木綿】は絞殺を得意とする伝承存在だ。少しは同僚たちの気持ちを理解しろ」



 恨み言ついでに概念の説明をしてやる。

 それにより【一反木綿】の絞める力が僅かに強まった。概念霊は相手が概念を意識すると、その力量が微増する。



「そして、これで終わりだ……!」



 俺は懐からありったけの呪符を取り出した。

 死罪人の皮膚から作った特殊な紙だ。それを肉天使の周囲にばらまき、剣印を結び、



「符術【空砲】、乱れ撃て!」



 数十枚の呪符から、【空砲】の衝撃が放たれた。



『レ廻ァァァァァ――!?』



 塵埃の中に消える肉天使。幾度と響く轟音の中、喚き声が消えていく。


 符術――【概念霊】を呪符に分散憑依させることで、一時的に遠隔かつ複数の攻撃を行うことが出来るのだ。



「はぁっ、はぁ……っ」



 やれることは、全てやった。


 もう霊力は空っぽだ。俺はその場に倒れ込んだ。



「もう……動け、ないな……」



 霊力――魂魄より溢れた熱エネルギーを使い切ったことで、魂が、肉体を離れようとしているのだ。

 耐える方法は気合のみ。時間経過で魂魄というエンジンが熱を取り戻すまで、必死に『生きる』と念じるしかない。



「はぁ……疲れたけど、ははっ……。俺は、やれたぞ」



 強敵を、倒すことが出来た。

 数十人の霊奏師を殺すようなバケモノを倒せた。

 参號級のモブでも、偉業を成すことが出来た。


 ああ、やったぞ、と。そう思った――瞬間、



『レ廻レ廻レ廻レ廻レ廻レ廻レ廻レ廻レ廻レ廻レ廻レ廻』


「ぐぅッ!?」



 塵埃を裂き、飛び出した肉槍が俺の腹を抉った……!


 そしてヤツは姿を現す。



『レ、廻ァァァ❤』


「ははっ……無傷じゃん」



 肉の天使は、一切傷付いていなかった。


 多少擦れたような部分はあるも、それだけだ。皮膚を掻いてやったことを攻撃したとは言えまい。



「げふっ、ごほっ」



 口から面白いほど血が溢れた。喉がぐぷっとせり上がり、大量の血と、破裂した胃の断片を噴き出した。


 ああ……。



「俺は……所詮、モブだったってことか……」



 偉業なんて一つも成せず、誰かのサポートであることがせいぜいの、脇役。

 それが俺か。



「きっと今回の戦いも……ごほっ、カメラ映像を通して……壱號級や特號級の天才共に、『なんて強敵なんだ』とか、リアクションを取らせるための、ものなんだろうな……」



 まさに主役のような連中。溢れる才能で最後はどうにかしちまう連中を、一時期的に悩ませる要因の被害者モブ。

 俺の配役はそんなところか……。



「なぁ、肉天使よ……」


『レェェェ?』



 首を捻る肉天使。〝なんだ、恨み言かぁ?〟と、馬鹿にしたように口元を歪めていた。

 ムカつく野郎だ……。

 俺は、【人形】ら慿霊に『さっさと逃げろ』と思念を送りながら、最期にバケモノに言葉を残す。



「俺の名は空鳴カナタ。いまいちパッとしないモブ霊奏師だ」


『レレェ?』


「パッとしないモブ、だったけどさ……」



 でも、命の危機とか怒りとか。そのおかげで最後はなかなか戦えたから……。



「お前とやれて、ちょっと、いい気分だったよ……!」


『……!?』



 俺の言葉に、肉天使は目を見開いた。

 そして数秒固まり――、



『ソラナキ、廻、レェェェ……ッ!❤』



 ヤツの両目から閃光が放たれる。それを浴びた俺の身体は、まるで分解されるように消えていき、



「あぁ……死にたく、ねぇなぁ……」



 そんな言葉を残して、この世から消え去るのだった。




『マタ、アソボウ、ネ……!❤』





◆ ◇ ◆



 そして。



「ごぽっ……!?」



 目を覚ますと、仄暗い水の中だった。



「ぉ、え、ひん、ぁう……!?」



 俺、死んだんじゃ――と言おうとするも、喋れない。


 水の中だから当然というのもあるが、妙に舌が回らなかった。


 それに……なぜか、息苦しくない……? 水の中にいるのに酸素が身体を巡っている、あまりにも不思議な感覚だった。



「こぉ、ろ、こ……?(ここは、どこだ?)」



 病院か? だとしたら俺はどんな状態なんだ? あれからどうなったんだ?


 そう疑問に思っていた時だ。どこかから、声が響いた。



『あら、アナタ……カナタが動きましたよ』


「あ?(は?)」



 それは、母さんの声だった。間違いない。俺の名前を呼んだし。

 そして、



「おぉそうか。上の二人のように、立派に育つといいのだが……」



 父さんの、声が響いた。


 空鳴家の当主で、霊奏師で――子供の頃に戦死したはずの、父さんの声が。


 




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【Tips】


霊奏師:概念霊と戦うために、概念霊を利用して戦う霊的職業。国家公務員。

己が慿霊とは『魂の波長』を合わせなければいけないことから、霊『奏師』と名付けられた。


憑霊:己が手持ちとする霊。

霊奏師とは波長が合わなければ協力できないため、一体しか所持しない霊奏師も多い。

三体はちょっと多い。


巫術:自身の身体に霊を宿らせる術。

付術:関連する物体に霊を宿らせる術。

符術:人肉製の呪符に霊を宿らせる術。

負術:相手に霊の悪性効力を押し付ける術。詳細は後程。


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