第29話 幼女先生VS不良キング・カナタ!

 


「ふふ……(姉さんと兄貴、だいぶやばかったなぁ)」



 十歳の頃のヒナミとミチオ。彼らと離れてから、そのアレっぷりを思い出して苦笑した。


 当時の俺はガチ0歳のベビーだったからな。

 二人があそこまで荒れてたとは知らなかったよ。


 まぁ、



〝おいザコカナタ。弱いのはいいが、変なことして僕らのブランドを傷付けるなよ?〟


〝そーそー。よわよわな弟くんは可愛く脇役に徹してな~?〟



 ……大人になってからもだいーーーぶ性格はアレだったので、想像の範囲だったがな。


 一周目では、ミチタカ父さんにブチキレられるなんて経験は、一度としてなかったんだろう。

 父親が、文字通り死ぬまでな。



「――あぁ、うん、そう……ああ、任せるよ、ごめんね。それじゃあ」



 で、当のミチタカ父さんはどこかに電話していた。


 それから俺が見上げていることに気付いて、苦笑を浮かべた。



「ごめんね、カナタ。本当はお兄さんとお姉さんに会わせようと思ったんだけど」


「仕方ありませんよ」



 弟を紹介できる空気じゃあるまい。


 てか、あの状態の二人と会っても絶対いいことなかったろうしな。



「目の前でぶってしまった。カナタには怖いところを見せちゃったね……」


「それも含めて仕方ないですよ」



 俺は背後をちらりと見て、セツナさんにあやされているシャロちゃんを見た。


 それから父さんの背中をぽんぽんと叩く。



「いじめられていた女の子と、そのお姉さん。そんな二人の前で甘い対応してたら、それこそ示しがつかないでしょう?」


「カナタ……」



 縁を結んだ霧雨家当主・カゲロウって爺さん相手にはなお悪いだろう。


 下手すりゃ関係崩壊だ。

 ぶっ飛ばして論破して泣かすくらいが正解だわ。



「お父様もおっしゃられていた通り、ここは社交パーティの場でもあります。そこで当主が奥様ごと軽んじられ、それで厳しい対応を見せないようなら、社会的にも笑い者かと」



 ぽんぽんした後は、父さんの背中を優しく撫でる。


 色々あるよな。大人って大変だよなぁ。

 俺も社会人だったからさ、多少はわかるよ。


 元々の心が脆いと、特につらいよな。



「あれくらい拗れた子供にはキツい一発が必要ですよ。それに」



 最後に、俺は父さんに微笑みかけた。



「愛する奥様のために怒れたお父様は、模範とすべき『お父様』でしたよ? とってもカッコよかったです」


「っ……!」



 父さんは目を見開いた。

 それから、ちょっと震えて、



「なるほど……」


「?」


「あの【緋々色金ヒヒイロカネ】が、カナタをママと呼んだのもわかるかもね」



 ってファッ!? なぜそこでそうなるっ!?



「お父様……!?」


「はははっ。ごめん冗談。ただ、全部をわかった上で褒めてくれる相手なんて、戦死した両親以来だったからちょっとね…………」



 父さんは軽く目元をこすった。



「ありがとうカナタ。キミに出会えて、私は本当に救われたよ」



 そう言って微笑む父さんに、俺もなんだか救われた気持ちになる。



「いえいえ……(死ぬ予定のこの人の運命を、二周目で良くできてるかはわからん)」



 ――弱気が消えた結果、敵に突撃して早死にするかもしれない。

 ――最初の人生では出来なかった双子の叱責をした結果、本当に関係が切れてしまうかもしれない。


 そう不安ではあったけど、



「ミチオとヒナミのことはなんとかなるさ」


「どっしりしてますね」


「なんとかならない時は、まぁ、養育費が減るってことで」


「どっしりしすぎてますね……」



 冗談めかして笑う父さんを見て、俺も笑みを深める。


 未来は知らない。

 だが本人が言っていたように、胸を張って〝今〟を笑えてるんだ。

 それでいいってことにしておこう。



「ふふふ、マロさんみたいになれてきたかな?」


「マロさんみたいになっちゃダメですよ?」



 ◆ ◇ ◆




「元気になったでごじゃるッッッ!」


「シャロさんよかったですね」



 いつものシャロちゃんに戻ったようだ。



「ぎゃはははは! ミチオとヒナミのやつ、涙目だったでごじゃる~! ざまぁ!」


「シャロさんよくないですね」



 いつものシャロちゃんに戻ったようだ……。



「セツナさん、お姉さんとして何か言ったほうが」


「アナタのお兄さんとお姉さんを殺す!」


「殺害予告じゃなくて」



 そうして父さんや霧雨姉妹と駄弁っていた、その時だった。



「すぅぅぅっ――おぬしら聞け~~~~~~! 時間じゃぞぉ~~~!!!」



 広場にキンキンと甲高く、幼女の声が響いた。 



『!』



 その声に、闇会話をしていた霊奏師一同がピクッと反応する。

 そして全員でそちらを見ると、いつの間にか機関のエージェント『黒服』らをバックに、台が設置されていて……、



「本日の霊奏師資格試験はこのわらわっ、鳥羽モヨコが監督を務めるぞ~~~!」



 そこには、ミニスカ和服の三歳くらいの女の子が立っていた。


 特徴的なのは地に付くほどの長い黒髪。そして、明らかに作り物なキツネ耳と、五本のふわふわなキツネ尻尾を生やしていることだ。

 


「おぉ(この人は!)」



 このチンチクリンな容姿、間違いない。


 ニホンの七大最高戦力――『特號級霊奏師』の一人、鳥羽モヨコ。

 一周目の世界でも有名な人だ。



「ふふんっ。初めて会うガキどもも多いか。このモヨコを決して舐めるでないぞ? こー見えて特號級の上、実質300歳なのじゃ! 超年上としてうやまえよ? うやうやしろ?」



 などと世迷言を言っているが、事実だ。

 彼女は最上級概念霊【九尾の妖狐】の魂魄契約者。

 それにより、〝老化の否定と、九回までの蘇生復活が可能になる〟という破格の異能を持っていた。


 それと、



「むむむむむっ。そこにいるのは土井家の坊ちゃんではないか。すっかりお父さんになったのぉ。今日は子供が試験を受けるのかえ?」


「ど、どうも、先生っ!」


「お~嵐山家のお嬢さんは、今や立派なママさんになったのぉ! 困ったことがあれば言うがよい!」


「はいっ、先生……!」



 霊奏師らに声をかけていくモヨコさん。


 すると陰鬱な会話をしていた彼らが、毒気を抜かれたように初心な反応を見せていく。



「ぬっはっはっは。遠慮することはないぞ。なにせこのモヨコ、霊奏学園『超・学園長』として、おぬしらの曽爺さんから世話してたからのぉ~」



 そう。

 この人は特號級であるのと同時に、『超・学園長』という無茶苦茶な職にいる人物だった。


 要するに、全国十二の霊奏学園の学園長の、さらに上となる総代長ってわけだ。


 それであちこちの学園を飛び回って子供を相手していたため、歪んだ大人に育った霊奏師らも、思わず素直な反応が出ちゃうってわけだな。


 何歳になっても、記憶の中の先生は先生だもんなぁ。



「モヨコ先生。多忙な先生がなぜ本日は監督を?」



 大当主っぽいお爺さんが彼女に問う。


 すると幼女先生は、「うむむっ」と難しそうな顔をして、



「そ、それにはふかぁ~い事情がのぉ……」



 と、そこで。本部ビルからのビル風が強く吹き荒れた。

 それにより顔にかかったベールが捲れてしまう。



「む(うわ、目にちょっと埃入った)」



 突然のダメージを受け、思わず霊力制御『気配遮断』が切れてしまった。

 それどころかこの身体で痛みを受けるのは久々だ。防御反応で、咄嗟に霊力をバカみたいに滾らせてしまう。


 結果、マイナスだった俺の霊力は一気に膨れ上がり、衝撃波さえ伴って広場中に吹き荒れた!



「うわああああああーーーッ!? そ、空鳴カナタァァアアアーーーーーッ!?」

「一体なにがっ、って、いつの間にそこにっ!?」

「霊奏師界の、鬼子……!? 見かけず安心していたらっ!」



 ……周囲に俺のことがバレてしまった。


 途端に騒ぎ出す霊奏師たち。

 子供や若い霊奏師らは怯え、概念霊の何体かが逃げ出しそうになり、海千山千といった者らも瞠目して俺のほうを見た……!


 あちゃー、やっちゃったよ……!



「うぎゃああ~~~~なんじゃああああ~~~~~~~!?」



 俺の霊力圧に吹き飛ばされ、背後に控えていた黒服の一人にモヨコさんはぶつかる。

 そして俺のほうを見てギョッとしてきた。



「って、ひえぇええええ出たのじゃ~~~!?」



 素っ頓狂な声を上げるモヨコさん。

 三歳程度のちっちゃな身体で、黒服男性の足元に縋りついた。

 黒服は嬉しそうな顔をしていた。



「出たなぁ~~空鳴カナタ! 派手な登場しおってぇ!」



 いや、それはたまたまで。



「わらわが見てきた中でも、トップクラスのド級不良めぇ!」



 って、ド級不良!?



「誤解ですよ。自分は至って善良なのですが?」


「嘘を吐くな! いきなり人をぶっ飛ばしおって!」



 それはそうなんですが……。



「このモヨコにはわかるぞ……おぬしは登校してから放課後まで授業全部サボって、ずっとタバコを吸ってるタイプじゃろ!」



 肺がんになるわ。



「ふん。今回はおぬしがいるからこそ、オウマのトンチキボウヤに試験監督を任されたのじゃ」



 あーなるほどな。


 モヨコさんは超・学園長の上、多忙を極める特號級霊奏師だ。ニホンはもちろん、大東亜圏の同盟国まで強力な概念霊を狩りに向かわなければいけない。

 そんな彼女が駆り出されるとなれば、そりゃぁオウマ総帥に睨まれている俺絡みになるか。



「まぁよい。安心しろ、不良キング・カナタよ」



 不良キングに出世していた。いつの間に。



「わらわはどんな不良も99%更生させてきたパーフェクト先生じゃ。おぬしも真人間にしてくれるわ」


「1%はどうにもならなかったんですね」


「うるさい!」



 プンスカするモヨコさんが可愛い。

 こりゃ、色々歪んだ霊奏師らも心を開くわけだわ。


 でもこんな妖狐で幼女なフワフワ先生にもどうにもできない1%っているんだな。

 どれほどのカスたちなんだか。


 

「ちなみにその1%っていうのはどんな?」


「ウジマロとシャロとおぬしの兄貴と姉貴じゃぁ!」



 全員身内だった。すんませぇん……。



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空鳴ミチオ&ヒナミ:出雲霊奏学園・初等部五年生。十歳。

一卵性双生児(希少な男女の組み合わせであるため、正確には準一卵性)。

よく似通った可愛らしい風貌をしているが、その性格は極めて傲慢。

凡庸な空鳴家の生まれでありながら、将来的に壱號級霊奏師になるほどの才能を持ち、学園カーストのトップに立っている。

逆に、名家・霧雨の生まれでありながら、不器用な剥けエビのシャロを徹底的に小馬鹿にしている。



霊奏師資格試験:霊奏師になるための登竜門。受験者数は、毎年平均三百人ほど。


そのほとんどは、

『出雲、伊勢、高野、霧島、寒川、日光、巌島、恐山、箱根、鎌倉、洞爺湖、せーふぁうたき』

に点在する、霊奏学園の生徒たち。


霊力の才を持つ者は限られるため、一学年は二十人~三十人ほど。

それが十二の学園より、初等部一年から高等部三年までが全員出るとしたら、本来の受験者数は三千人を超える。


しかし、試験を受けるには霊力の才だけでなく、『契約した概念霊』も必要。


そのためいくら霊力が多かろうと、魂がとことん霊と合わない者は、試験すら受けることができない。

それゆえ受験者は三百人程度となる。


ちなみに霊奏資格を持たない霊力持ちは、霊奏機関の裏方である『黒服』になるのが常である。



鳥羽モヨコ:「問題起こすなよカナタ!? モノ壊したりするなよ!? 絶対じゃぞ!?」


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