第49話 オウマ総帥とお話ししよう!/老執事の悲しさ/ロウガくんの精神崩壊リミット(番外編)


 オウマ総帥に対する食事会の提案。

 せっかくなので、俺は父さんに携帯を借りて自分ですることにした。



「もしもしオウマ総帥?」


『貴様、空鳴カナタか……!』



 飼い犬から電話です! おんおん!



「実はかくかくしかじかで」


『……かくかくしかじかではわからん』



 ぶっきらぼうな声が帰ってきた。俺のことが嫌いか。しかし、



「冗談です。わざと言いました。総帥とはちょっとでも長くお話したかったので」



 ザイオンス効果ってあるらしいじゃん?

 接触回数を増やすことで、相手に対して好意的な印象を抱くってヤツ。

 俺、総帥に好かれたいからね~。


 特に二周目ボディの俺の声、【空砲】に音響レベルで改造されてるからめちゃ綺麗なんだわ。

 セツナさん曰く〝……ちょっとクラクラする感じ〟って言われたし。



「大丈夫。怖くないですよ。いっぱいおしゃべりしましょう?」


『……貴様。この不知火オウマまでも洗脳する気か』



 ってなんでそうなる!



「そうじゃないですよ。実はお宅のお子さんがやらかした件で」


『!』


「空鳴家への贖罪案として、極めて平和的な提案をしにきました」



 というわけで〝自分と総帥と、『八咫烏』みんなで食事会をしましょう〟と伝えた。

 すると、



『ッッッ…………いいだろう。今宵、晩餐の準備をしてやる……!』



 とオッケーの返事が!

 おぉ~頼み込んだその日に催してくれるとは嬉しいね。



「好きなオカズはすぐに食べちゃうタイプです?」


『殺すぞ』



 なんでだ!



「まぁ断られなくてよかったですよ。総帥って人気者ですし、よくお食事に誘われたり?」


『……ああ。特に、ある二人からはよく、な。それを断り続けた結果がコレだ』


「?」



 コレだってどれだよ。ある二人とか言葉濁さないでほしいんだが。

 俺、策謀とか自分への危険が伴うものだと首筋ピンッとしてすぐわかるけど、無駄に持って回った語り口はわからんぞ。



『貴様、わかってて言っているだろう。俺を言外になじっているな』


「さぁどうでしょう(いや知らんて)」



 こちらも返答を濁しておいた。

 するとオウマ総帥は鼻を鳴らした後、『貴様だけは……俺を……』と何やらぶつくさ呟いた。どしたん?



「よくわかりませんが、美味しいご飯をたくさん用意してくださいね」


『ああ、執事に頼んでおこう』


「食べ歩きも出来るようなビュッフェ形式がいいですね~。『八咫烏』のみなさんとお話したいですし」


『フン、この不知火オウマの眼前でヤツらと、か。……帝国リベルタリアは隠密刃の如き策を弄してくるというのに、貴様はいつも、見せるように手を打ってくるな』


「よくわかりませんね(それも知らんて)」



 策なんてねーよ!



「あぁ、それと最後に」


『なんだ……』



 恥ずかしいけどオウマには伝えておかなければいけない。



「自分は身長が140cmもないので、高すぎる椅子は困るんですよね。子供用の椅子ってあります?」


『ッ!?』



 ぎしっ、と。なんか携帯が握り締められるような音がした。

 俺の低身長告白に笑いでも堪えたんだろうか?



『……廃棄予定だったリルのものがある。使うがいい』



 おお、悪いね!



 ◆ ◇ ◆



「あああ……旦那様……」



 不知火オウマの屋敷にて。老執事・タナカは、ティーセットの載った銀皿を手に、主君の私室に向かっていた。



「旦那様が朝からご在宅なこと……。本来ならば、喜ぶべきでしょうが」



 この日、オウマは一日、休暇を取っていた。霊奏機関全体が震撼する事態だった。

 なぜなら彼が霊奏師となってから二十年以上、無休で働き続けていることで有名なのだから。

 ……一周目の世界では、二十三年後まで四肢が捥げても働き続けたというのに。



「旦那様、失礼します」



 私室の前に辿り着いたタナカ。まるで割れ物に触れるよう、静かに扉をノックした。



「お茶をお持ちしたのですが……入っても、よろしいでしょうか……?」



 気遣わしげに声をかける。


 ……全ては休暇の理由にある。

 オウマが休みを取ったのは他でもない。養子・ロウガとリルが重犯罪人となった件で、親権者であるオウマは様々な手続きを行うことになったからだ。


 亜人の兄妹――二人の『人権』は停止した。


 死刑に次ぐ罰の一つである。

 律令制における『五色の賤』の下、彼らは最低格の犯罪奴隷へと転落。

 ロウガは明日も保障されない死罪人部隊『八咫烏』に堕ち、リルは奴隷オークションにかけられることになったのだった。



「旦那様……どうか、一日と言わず、長期のお休みを……」



 ゆえにオウマを気遣うタナカだったが、



「必要ない。入れ」



 平然と声を返すオウマ。

 ――その声音にタナカは思った。『昨日よりもどこか……通る声をしている?』と。



「どうしたタナカ。茶が冷めるだろう」


「はっ、ははぁ。失礼いたしますっ」



 入室するタナカ。朝日に照らされ、私物など一切ないオウマの部屋が目に映った。

 その窓際で、ラフなシャツ姿のオウマは、乱暴に携帯をしまい込んでいた。

 珍しい。何か苛立つことがあったのだろうか。だが、



「なんだ、何を見ている」


「いえ……旦那様、なんだかお顔が、すっきりとされているような……?」



 ――まるで意味が分からなかった。

 子供たちの暴走以降、オウマは赫怒の雰囲気を纏っていたはずだ。


 何も知らぬ信者たちは〝流石はオウマ様、絶対正義! 子供だろうが罪人は許さないか!〟と持て囃しているが、老執事タナカにはわかる。


 彼は、教育を怠った自分自身のことを、縊り殺さんほど恨んでいるのだと。


 ゆえに気を遣い続けたのだが――。



「空鳴カナタにな……なじられたよ」


「なっ」


「散々煽られた上、自分と『八咫烏』の連中を招いて晩餐を開けと言われてしまった」


「はぁ!?」



 タナカは思わず「なんてことをっ」と小さく叫んだ。

 


「き……鬼畜すぎる……! アナタ直属の死罪人部隊『八咫烏』。彼らは全員、アナタのことを恨んでおります。何が起きるかわかりませんぞ」


「ああ。こんな晩餐は初めてだ」


「それにっ、今やあの部隊には、ロウガ様がいるのですぞ……!? 顔を合わせたら、お互いにどんな思いをするか……!」



 酷い。あまりにも酷すぎる。

 不知火オウマは苛烈だが人間だ。悲痛を感じて悼む心はもちろんある。

 それなのに空鳴カナタは、弱った彼をなじった上、そのような催しを開くことに決めたと?



「なんて、なんて邪悪な……」



 なぜ傷を抉るような真似をしたのか。自分のように気遣うのが人情だろうに。


 ……様々な理由で老執事は空鳴カナタに感謝しかけていたが、その気も失せた。


 やはりアレはバケモノ。最悪の存在だと思ったが――しかし。



「フッ。ああも痛烈に責めてくれるとはな……」


「!?」



 不知火オウマが、一瞬笑った。

 半年に一度でも笑えば珍しい男が。

 以前も、カナタの話題で笑ったというのに。また。



「旦那様……?」


「タナカ。おまえの心遣いは喜ばしい。だが俺は求めているのは、罰だったのだ」


「!?!?」


「空鳴カナタは腹立たしいが……今は、ヤツの邪悪が心地いい」



 そんな――と、タナカは手の銀皿を落としかけた。



「わたくしめは……筋違いをしていたのですか……」



 ある理由で奴隷に堕ち、そこを少年時代のオウマに買われたタナカ。

 以降、三十年近くに渡って彼を支えてきた。

 ゆえに自分こそが、『オウマお坊ちゃま』に一番必要なモノを用意し続けられると思っていたのだが……。



「は、はは……さようでございましたか。旦那様はもう、大人ですからね……」



 必要なのは慰めではなく叱咤だった。

 傷を慰撫することではなく、炎で焼いて二度と忘れられぬ火傷を刻まれることこそを、不知火オウマは求めていたのだ。



〝わたくしめは――盲目な信者たちと変わらなかったのか〟



 不知火オウマの心の澱がわずかに晴れた。

 それは嬉しいことなのに、悔しい。

 空鳴カナタは主君を不幸にしていくはずなのに――なぜか同時に背中を押していく。本心に寄り添っていく。



「ふん……重ねて俺は愚か者だな。悶々と胸中で後悔など、思えば一人遊びに過ぎなかった」



 埼玉の方角を見る不知火オウマ。

 その表情はどこか晴れやかだった。 



「真に己を悔いるならば、ロウガという俺が生み出した罪の証と、どこかで向き合う必要があったのだ。よもや空鳴カナタにその機会を作られるとはな……」


「……」


 老執事が見るに、空鳴カナタは邪悪である。

 今回の策もオウマを苛むために仕掛けたのだろう。

 賭けてもいい。あれで〝みんな仲良くご飯食べたいね!〟とか考えていたら、タナカは女装して三輪車で東京一周してもよかった。やつは邪悪だ。

 だが。



「タナカ。肉類を多めに用意しろ。俺もヤツに負けぬべく、より精を付けねばならない」


「ははァッ……!」



 そう。空鳴カナタは邪悪なはずなのだ。


 だが……だが不知火オウマは、老執事の手ぬるい優しさよりも、真っすぐな悪意こそを必要としていたのだ。



「ふく、ふふふ……」



 気付けばタナカは笑っていた。

 主人が幸せで嬉しいのか悲しいのか、よくわからない笑いが零れてしまう。



「オウマ様」


「なんだ?」


「なんだか、嫁をいびってしまう姑の気持ちが分かりましたよ……」


「……そうか(ボケたか?)」




━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【Tips】


ザイオンス効果:オウマと仲良くなるべく、空鳴カナタ(身長140cm以下)が使った心理戦法。

〝繰り返し接すると、印象や好感度が高まり関心の度合いが高まる〟というもの。

それ自体は正しい。だがカナタはぽやぽやしながら雑に使ったので知らなかった。

〝マイナスのイメージを与える場合、接触回数が増えるごとに嫌われてしまう〟

という逆の効果を。



不知火オウマ(身長180cm以上):案の定、カナタは邪悪だしいつか討つべし負けて堪るかと敵対心を燃やした。


が、それはそれとして、激しい痛みを望んでいたので、なんかスッキリした。


信者たちはオウマを慰めるし、帝国の者や『八咫烏』になじられたら〝クソボケ罪人共がほざくな殺すぞ〟となるのでダメだが、

空鳴カナタは〝明らかに邪悪なのに罪は犯していない〟という稀有な状態で予想外過ぎる合法悪意戦法をぶつけてくるので、今のメンタルには非常にグッド。

よい休日になりそうだと思っている。



老執事タナカ:色々あって奴隷になった人。空鳴カナタに完敗し、「一人息子を任せましたよ……」ってメンタルになった。ボケたと思われる。



不知火ロウガ:人権を奪われ、『罪人番号・ロの五八』の名で『八咫烏』堕ちした。愛称はゴーヤくん。


空鳴カナタの邪悪な晩餐会を知らされ、オウマを責める気マンマンの『八咫烏』メンバーに


「やめてくれっ! あの人を責めないでくれ! 父上のことは、オレが守る!」


とかほざいて奮起しているが、その父上はカナタの責め苦を欲していることを、彼は全っ然気付かない。


――父親寝取られ気分を再び味わうまで、あと十二時間。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

↓『フォロー&☆評価』に、途中でも『ご感想』『こうなったら面白そう』という発想、お待ちしております


@「転生したら暗黒破壊龍だった件」発売❗「Lカップ女の子と女装主人公」が目印です(↓画像あり)🍆

https://kakuyomu.jp/users/mazomanzi/news/16818093085573673115

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る