第13話 修行開始! 『巫術』!
「あーいいかいカナタ? 霊奏術というのは」
「霊力により憑霊の霊的効力を特定方向に導いて成す術のことですよね? 『巫術』『付術』『符術』『負術』の四大系があり」
「全部知ってるじゃないかッッッ!?」
懐かしい実家のお庭にて。俺はミチタカ父さんから術の手ほどきを受けようとしていた。
「すみません、知識はあります。えーと……胎教が良かったもので」
実際は人生二周目だからな。
「た、胎教か。そういえば妻は特に熱心に読み聞かせなんかをしてたからなぁ。胎児に意味あるのかって思ってたけど、胎教……マジで意味あるんだ」
父は俺の言葉を信じてくれている。結構嬉しい。
さっきまでは溝が深かったんだがな……。
これも全て、池の庭のほうで鯉を撫でているマロさんのおかげか。
感謝しよう。
「ほほほ、鯉はよいのぉ。IQ3の顔と行動に癒されるでおじゃる。生物的に『下には下がいる』って気がして」
やっぱ感謝やめるか。
「さてカナタ。じゃあ準備に移ろうか」
「はい、お父様」
父ミチタカに向き直る。気合入れていくか。
「まず聞くけど、己が魂の知覚は」
「できてます」
「あ、うん、だろうね……。『幽想肉変』で身体成長してるしね。じゃあ霊奏経絡の構築は」
「できてます」
「……0歳なのにすごいなぁ。私は七歳になって、ようやく魂の輪郭を掴んだくらいなのに……」
父さんはがっくりと肩を落としてしまった。な、なんかごめんね?
「じゃ、じゃあ次は魂から、霊力を全身に滾らせてみよう! 経絡に霊力を流すんだ!」
霊奏師の臨戦状態『霊充四肢』だな。
「これを『霊充四肢』という。霊力は非実体の生命エネルギーであるため把握が難しい。でも全身を隈なく満たすことが出来たらすごい力が!」
「できました」
「!?」
俺は全身に霊力を滾らせた。
霊力とは、触る感覚のない不可視の水のようなものだ。
最初は一切わからない。だが、自分の魂より確実に溢れていると意識すれば、ほんのわずかな温度を感じ始める。
心臓から血が流れるように、魂から流れるエネルギーこそが霊力だ。不可視非実体でも〝在る〟と信じて集中を続ければ、やがて知覚と掌握が可能となる。
あとはソレを経絡という血管に流せば完了だ。
「お、おぉおおぉ、できてるね……! 全身から、すごい量の霊子が……!?」
俺の身体からは青白い光が迸っていた。
これは霊子。霊力が身体にエネルギーを与え、揮発した残りカスみたいなものだ。
車でいうなら排気ガスだな。
要するに霊子がめっちゃ出てる霊奏師ほど、霊力という名のガソリンが滅茶苦茶に多いわけだ。
「やはりすごいなカナタは……。私みたいな凡才が、本当にこんな天才を教育していいのか……」
いや、俺も本当は凡才モブだからね?
「マロさんに頼んだほうがいいんじゃ……」
「いやマロは駄目でしょう。ね?」
マロさんのほうを見て問いかける。
するとマロさんはやはりというべきか、近所の猫を撫でながら「だーーーーれがおぬしのようなクソガキに教育するかバーカバーカ!」と言ってきた。
うーん、相変わらずのオープンカス発言。大人なのにあんな低俗な煽りができるとは。
子供の頃の純粋な心を維持している証拠だなぁ。すごいや。
「というわけでお父様、お願いします」
「ああ、わかったよ。……マロさんもあんな態度をわざと取ることで、〝親としておまえが教育しろ〟と、私に発破をかけてくれているようだしね」
それは違うと思います。
「よし、霊奏術の実践だ。まずは巫術。自らを霊の依り代とする術だね」
父さんが「出てこい」と言う。すると彼の肩に半透明の鳩が現れた。
『クルッポー』
アホみたいな鳴き声だな。そういえば前世でもいたっけか。
「【鳩】の概念霊ですか。その子がお父様の憑霊で?」
「うん、気弱な私らしいだろう? あんまり強くはないんだけど……でも」
父さんは剣指を作り、霊力を滾らせた。そして、
「巫術発動。我が身に宿れ、【鳩】!」
命令と共に【鳩】がミチタカ父さんと一体化する。
すると父の目が黄色く輝き、衣服の下の筋肉がわずかに隆起した。おー。
「ふぅ。【鳩】は視力が良く、また長距離飛行を可能とするほど身体が強いからね。巫術で宿せばかなり強化してくれるんだよ」
「へー、【鳩】ってハイスペなんですね」
「まぁね。〝何でも食べる都会の鳥〟ってイメージもあるから、肝機能も強化されるんだ。よく二日酔いの時に憑依させてるよ」
「なにやってんですか父様」
わりと愉快な人かもしれない。
前世では込み入った話をする前に死んじゃったからなぁ。思わぬ一面が見れて嬉しいや。
「ではカナタもやってみなさい」
「はい。出てこい、【人形】」
霊域から【人形】を召喚する。『オヨビカ!?』と言って飛び出してきた。お呼びです。
『あ、カナタのパパだ。ヨッ!』
「ヨ、ヨって。ずいぶんと気さくな霊だね……」
父さんは苦笑している。【人形】にちょっと引き気味のようだ。ついさっき、糸でぐるぐる巻きにされて遊ばれてたしな。
「ほら【人形】、巫術いくぞ」
『ガッテンダ』
「巫術発動。我が身に宿れ、【人形】」
剣指と共に【人形】を宿らせる。
すると筋肉の微弱な震えが止まった。生物的な反射が一切なくなり、身体が完全に静止する。
父さんの目に映る俺の瞳も、普段よりさらに無機質になった。
「カ、カナタ大丈夫かい!? 巫術に失敗すると、霊に完全に身体を奪われてしまう……! まさか【人形】に乗っ取られてっ」
「いえ、大丈夫です。一応これが成功の状態です」
焦る父を宥める。
手を前に出す制止の仕草をすると、とても滑らかに身体が動いた。一切のブレがなくなっているからだ。
「【人形】を宿す恩恵は『精密動作』のようですね。あとは」
心の中で【人形】に命じる。〝
すると、
「ふぅ――!」
呼吸とともに腕が上がり、一瞬で見事な構えを取った。無駄な力は一切ない。脱力した体重は全て足を透して地面に吸い込まれ、大地と自分が接続される。
これぞ八極拳の基礎『三尖相照の型』だ。
そこから肉体は動き出す。波のような穏やかな動作から、一気にバンッと空気を破裂させるような肘打ちを繰り出した。神速の『頂肘』だ。
そしてエネルギーを殺さないまま動作が繋がり、『
「け、拳法が使えるのかいカナタ!? いや、まさか」
「ええ。【人形】はテレビなどで見た動作を正確にコピーし、肉体に反映させることができます」
無理な動作をすれば身体が壊れるがな。
特に達人の拳法なんかは、達人の天才的な肉体構造ありきなところがあるし。
前世では筋繊維が少なく関節も硬かったため、あまり自在には使えなかった。
「なるほど……すごいねカナタ。はは、そもそも巫術を一発で成功させてる時点で、キミはやっぱり天才だよ」
「いえいえ……」
マジで違うんだよなぁ。実際は、前世で十年以上修行してきたからだ。
「ふむ、溢れる霊子が少し減ったね。巫術の霊力消費が多いのかな」
「ええ。元の霊力が多いですから、すぐにはガス欠にならないでしょうが……」
「なるほど。霊は制御できており、概念も身体に反映されている……だが肉体を変異させられるほどではなく、また霊力消費も多い。これは巫術技能Cといったところだね」
まぁそうだな。前世の最後でもそんな評価だったし。
ちなみに技能レベルはFからAの六段階だ。
F:霊に身体を乗っ取られるか、そもそも術が使えないタマゴさん。
E:使用に成功するも、一発でガス欠なヒヨコさん。
D:どうにか実戦級。安定性はない若葉マーク。
C:そこそこは使える。だが粗も多い中級。
B:極めるまでもう一歩な上級。
A:巫術ならば肉体変異さえ可能な最上級。すごい!
って具合だ。
「まだまだですね、自分は」
「っていやいやいやいやいや、初めてでこれは前代未聞だからね!? そもそも試験は評価Dに至れば合格だから、もう合格基準は満たしてるよ」
そう言ってくれる父だが、俺は凡人だ。
気を抜いて挑んだ結果、不合格になってしまうことだってあるだろう。
そうなれば殺処分だ。気合を入れねば。
「お父様、試験合格などスタートラインに過ぎません。そこからの戦いを見越して、自分は精進したく思います」
「っ。……そうか、うん、そうだね! 素晴らしい熱意だぞ、カナタ!」
頭を撫でてくれる父。「私も目先の任務をこなすことだけに意識を取られていたなぁ」と、何やら反省している様子だ。
「よし、あとの術も見せてくれ。試験までの一週間、徹底的にキミを鍛えよう!」
「はい、お父様」
どうやら熱が入ったようだ。
気弱な父だが、それでも参號級だった俺より上な弐號級。年季だってある。先生とするには十分だ。
「ああ、修行中は先生とお呼びしたほうが?」
「ん゛んッ!? わ、私をそこまで慕ってくれるとは、可愛いなぁ、カナタは……!」
頭をめっちゃ撫でられた。いや恥ずかしいて!
そんなに感動するほどか?
「ヒナミとミチオなんて、私をゴミみたいに扱うからなぁ」
「あー……」
性格強いからなぁ、姉さんと兄貴は。
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【Tips】
『霊充四肢』:全身に霊力を漲らせた状態。霊奏師の臨戦フォーム。
霊力の操作技術が上がれば、霊力を身体の特定個所に集中させて、攻撃・防御能力をあげることも出来る。
『八極拳』:一撃の威力に特化した拳法。自らの攻撃を、『八門を打ち砕く砲撃』に変えることを目指している。無理である。
前世のカナタは霊力量が低く、また技術も拙く霊力消費が多かったため、短期決戦に特化したこの拳法を【人形】にコピーさせた。
なお、憑依者の肉体スペックが低ければ当然傷付くため、前世では乱用できなかった。
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