第14話 『付術』とコンボと暗殺者!?



「巫術は維持。そのまま集中しながら、よく聞きなさい」



 心の臓の上で剣印を結ぶ。

 鼓動の伝わる指先。そこを起点に意識を集中させながら、父ミチタカの声を聴く。



「巫術。ソレを行うには概念霊の魂の『型』を正確に把握し、己が霊力で包むように捉えるんだ。それによって己が魂との合一に繋がる」


「はい……」


「この時、包み込むための霊力が多すぎてはいけない。それだけ消費霊力が上がるし、霊の魂から伝わる概念情報も霊力に阻まれ、上手く合一化が果たせなくなる」


「はい……っ」


「かといって、霊力を少なくし過ぎて霊を包み損ねれば、巫術は失敗してしまう。カプセル薬と同じだ……顆粒の薬を抑え込んだ上で、きちんと胃で溶けるようにする。霊的効力という薬効を、スムーズに身体に適用できるようにするんだ」



 瞼を閉じた暗闇の中、必死に調整し続ける。


 憑依状態をもっとも効率よく行うための、霊力量と霊を包み込む型を。



「一度掴んだら忘れるな。その上で、すぐさま流動できるようにし、変化に備えなさい」



 ……これが難しい。霊の感情に応じ、魂は炎のように揺らぐことがある。霊力もそれに合わせて動かさないといけない。


 だから霊力で大幅に包んできたんだよなぁ。そうすりゃ内部の霊の魂が変動しても、憑依状態が解除されないから。


 でもそれじゃ上達しないとミチタカ父さんには言われてしまった。



「カナタの術は全て見せてもらった。間違いなく、試験合格級はあるだろう。けどキミが目指すのはその先なんだよね?」


「ええ……!」



 俺の知る限りの殉職する霊奏師。

 彼らを救った上で、いつか現れる【回帰】の最上級概念霊に備えてみせる。


 俺は憂いなく生きていきたいんだよ。目先のたんこぶがある人生じゃ、のんびりと過ごせないからな。



「じゃあ修行あるのみだね。まずは巫術だ。霊で身体を強化するこの術は、極めれば生存率が大幅に上がる。サブウェポンよりまずは本体のスペック向上だよ」


「はい」



 ――かくして修行し続けること十二時間。

 朝ごろに教わり始めてから、俺の身体は、一切の休憩をとらずに夜を迎えてみせた……!



 ◆ ◇ ◆



「カナタ大丈夫かい? 私が霊力回復に休んでる間も、ずっと自主練してたようだけど」


「はい。丈夫に産んでいただけたようですので」


「丈夫ってレベルかな~……?」



 苦笑いをする父ミチタカ。

 現在は居間で休んでいるところだ。身体はまだ平気だけど、腹が減ってきたからな。



「ふふ……(あ~~疲れない身体最高。修行が楽しいくらいだわ~~~)」


 尽きない体力。底が見えない霊力。


 そのおかげで、前世なら三時間ほどでくたばるようなハードな修行内容もホイホイこなせる。

 身体が疲れないから、精神的にも余裕があるしな。



「はは……カナタがすごいのはわかってるけど、あまりムチャはしないようにね?」


「はい、お父様」



 そうしてミチタカ父さんと話していると、



「夕食でおじゃるぞぉ~~!」



 戸が開けられ、マロさんが入ってきた。

 彼の手の盆の上には、和・洋・中の様々な料理の数々が……!

 思わず父さんと一緒に唾を飲んでしまう。



「あぁ、マロさんすみません。まさか五大院の御方に、手料理を振る舞っていただけるとは……!」


「ふふん、よい。マロは美食でおじゃるからのぉ。料理人の腕に満足できず、自分で作ってるうちに趣味になったのじゃ」



 てきぱきと皿を並べていくマロさん。

 たちまちテーブルの上は食のテーマパークとなった。


 鮮やかな色合いの『お造り』。

 金箔があしらわれた『和牛のローストビーフ』。

 ジューシーな鶏肉を丸ごとこんがりと揚げた『油淋鶏ユーリンチー』。


 その他、白味噌にじっくりと付け込まれた銀だらの『西京焼き』に、キャビアとディルをアクセントに加えた『サーモンのクリームムース』に、豆板醤トウバンジャンの香り広がる大鍋の『麻婆豆腐』に、トリュフの薄切りが華やかに飾られた『茶碗蒸し』に、柔らかいフィレ肉をパイ生地で包み焼きした『ビーフウェリントン』に、黄金色にカリッと揚がった『春巻き』に彩り豊かな『蒸し野菜』にベーコン散りばめられた緑鮮やかな『芽キャベツのローストローストブリュッセルスプラウト』に――もう、とにかくいっぱいだ!



「身体の強い霊奏師ほどよく食べるからのぉ。目いっぱい用意してやったでおじゃる。感謝するがよい」


「すごいなマロよ、褒めて遣わす!」



 俺の身体くんもご機嫌のようだ。

 マロさんを偉そうに褒めたところで、父さんが「こら」と言ってきた。



「お父様?」


「年上の人には敬語を使わないと駄目だよ。それとお礼はきちんと言わなきゃ」



 ……ごもっともな意見である。


 でもなぁミチタカ父さん。俺の身体くんってば俺に逆らいまくるようなじゃじゃ馬だから、そんなこと言ったところで、



「わかりました。……ありがとうございます、マロさん」



 ふぁっっっ!?


 お、おまえ自意識おれの言うことは聞かないくせに、親には素直に従うのかよ!

 子供か!

 

 ……子供だったわ。むしろ子供オブ子供の赤ちゃんだったわ。



「ほっ、ほーっほっほ! やるのぉミチタカ。よもやこのバケモノを躾けてみせるとは」


「父親ですから。……それとマロさんも、あまりウチの子をバケモノ呼ばわりするのは……」


「えっ、あっ、すまぬ!?」



 おぉぉ、父さんが権力者にも苦言を呈した。


 俺を受け入れられた件で、よほど自信がついたのかな。


 ……父さん、死因は気弱すぎることだったのにな。



「ふむ……(十年後。上位概念霊【暴力】との戦いで、父さんは名家の者を逃がすために殿しんがりを押し付けられたという……)」



 それが、控えめながらも五大院家のマロさんを注意するとは。

 二周目の俺との出会いで、何かが大きく変わってきてるのかもな。

 俺に修行を付けてくれている時も、ついでに自分も腕を磨いているようだったし。

 


「ほれ、ご飯でおじゃるぞ」


「あぁ、ありがとうございますマロさん。ではいただきます。ほら、カナタも」


「はい、いただきます」



 手を合わせる俺たちに「うむっ、ありがたく食べれ~!」と言うマロさん。


 どれどれさっそく春巻きからいただいてみると……んーッ、美味すぎる!

 口の中で肉汁と濃厚複雑な味付けの餡が飛び出して、めっちゃ熱いけどめっちゃウマウマだ!

 そこに米を掻きこむともう堪らん!



「次はサーモンを……これも美味い!? あれも美味いっ!? それも美味い!!! マロさん、ご飯おかわり!」


「って食うの早いでおじゃるなぁ!?」



 そりゃもう料理が美味しすぎるしな。

 あと何より、俺の身体はかなり栄養が必要らしい。

 筋肉から臓器までハイスペに作った分、もう全身が栄養を求めて仕方ない感じだ。



「うめっ、うめっ……!」



 ん~っ、良質な料理の良質な栄養が、五臓六腑に染み渡る……!



「おかわり!」


「またかでおじゃるかっ!?」



 この日、俺は十杯もご飯をおかわりし、おかずもほとんど食べ尽くしてしまうのだった。


 あー美味かった!



◆ ◇ ◆



 真夜中。

 いくらハイスペボディの俺でも、流石に睡眠は必要だ。


 というわけで、俺用に用意された部屋で寝ているわけだが……、



『同衾!』

『ッッッ……!』

『絞めていいっすか!?』



 俺は、概念トリオに絡みつかれていた。


 胸の上にへばりついてる【人形】。おまえは別にいい。

 が、問題は左右からベッタリの二匹だ。



「おい【空砲】に【一反木綿】、おまえらは離れろっ」



 今のこいつらは色々と見た目がヤバい。


 顔隠し黒髪ロリチャイナの【空砲】、こいつがくっついてると犯罪臭がハンパない。

 それで金髪全裸包帯オンリー痴女の【一反木綿】、こいつはもう存在自体が犯罪だ。


 そんな二匹にサンドイッチされてるんだ。今絶対に絵面が大変なことになってるだろ……!



『『『霊力~ぅ……!』』』


「んぁあっ!?」



 首筋にかぷかぷっと噛み付いてくる三匹。

 そこから皮膚一枚を透し、霊力をチュルチュルと吸い上げられる……!



「おいこらっ、やめろ……! 霊域内にいれば好きなだけ吸えるだろ!?」


『エ~。前からこうやって吸ってたのに?』


「ぬぐっ」



 まぁ、たしかにそうだがよ……。

 前世ではペットみたいに思ってたからな。【人形】は変わらず【人形】として、【空砲】は魚で、【一反木綿】はデカいタオルだったし。

 だから甘えさせついでに皮膚から吸わせたり、そのまま三匹と寝たりしていた。



「ったく、しょうがないなぁ……。けどくっつきすぎはダメだぞ?」


『『『ジュルジュルジュルジュルジュル~~!』』』


「ぬぁあっ!? 霊力の吸い過ぎもやめろぉ~~!?」



 くすぐったいんじゃい!



◆ ◇ ◆



 で、翌日。

 美味しい和風の朝食をいただきまくった俺は、さっそく父を引っ張って庭に出ていた。

 色々試したいこともあるしな。



「父様、本日は霊を物体に宿らせる『付術』を主に行おうかと」


「ほう、憑依の『巫術』ではなく?」


「正確にはそれを行いながら『付術』をする感じですね。では」



 まずは【人形】を身体に宿らせる。

 そこから、



命令オーダー:霊糸生成」


『ガッテンダ』



 五指の先から青白く光る糸がピッと出た。

 それを見た父が「ほう」と頷く。



「なるほど……これは【人形】の能力で、糸を形成したんだね? 空気中のチリクズなどが素材になっているのか」



 おお、流石は【鳩】の使い手のミチタカ父さん。目がいいな。



「その通りです。自分が産まれた時、【人形】はしれっと衣服を作り上げてみせまして。ならばこういうことも出来るかと」



 下級霊の時には出来なかったことだ。上級霊に進化した恩恵だな。

 霊級が上がれば、それだけ多数・広範囲のモノを自在に支配できる。


 たとえば下級の【火】の霊ならば、自分が燃えることしか出来ない。

 だが上級になれば、睨んだ先の空間を燃やすことが出来るようになる。周囲の酸素を支配し、一点に凝縮させて火をつけるって具合にな。


 俺の【人形】も周辺空間のクズを支配下に置き、糸を形成できるようになったわけだ。



「【人形】という概念には『糸』が含まれますからね。糸出し放題です」


「ははははっ。妻のヒナコが喜びそうだね。彼女、お裁縫が好きだから。でも戦闘中に糸なんて役に立つのかい?」


「こうします」



 俺は憑依状態で術を行使する。



「付術発動。糸に宿れ、【一反木綿】」


『絞めていいすか!?』



 霊域で緊縛AV見ていた全裸金髪痴女【一反木綿】を、五指から伸びる糸に憑依させる。


 すると糸がふよふよと動き出した。

 そして命令を送ると、そのへんの石に巻きついて持ち上げ始める。

 父さんが「おぉっ!?」と驚いた。



「なるほど、霊の効力を組み合わせたか。まずは【人形】で糸を生成。そして【一反木綿】は動く布の伝承概念だ、布に類するもの……布地を構成する糸に宿らせることができ、そうすれば自由に操作ができる」


「はい。霊が宿ったことで材質も変わりますからね。ある程度伸びたり、何かを持ち上げれるくらい強度が上がったりします」



 前世では首のマフラーでやっていたことだな。

 【一反木綿】も上級霊に進化したことで、憑依した物体への強化率が上がっている。

 今なら糸一本でだってかなりの力を発揮できるだろう。



「伸ばして移動に使ったり、複数の武器を操れるかもですね」


「おーいいよカナタ! 複数の霊と波長を合わせられるのは希少な才能だ。どんどん組み合わせて、手札を増やしていきなさい」



 我が事のように喜ぶ父。また頭をめっちゃ撫でられた。


 うぉおおおっ恥ずかしい。マロさんが「またあやつ強くなるのか……」と呆れながら俺を見てるから、やめてくれ~……!



「で、【空砲】はどう組み合わせるんだい?」



 あー【空砲】?



『……っっ!』


「んん、【空砲】は特に何も思いつきませんね」


『!?』



 霊域の中でガーーンッとショックを受ける黒髪ロリチャイナ【空砲】さん。

 いやごめんて。そのうち思い付くから許してくれ。



「んー、【空砲】は呪符に込めてバラ撒くくらいしか……」



 俺が考えていた時だ。不意にハイスペボディのおでこ回りにジリジリッとした感覚が走った。

 何かヤバいと思い、首を反らしてみると――サクッと。



「ぬぬ?」



 背後の地面に、クナイが刺さりました。

 さっきまで俺の頭部があったところを通るように。


 どういうことだってばよ……?




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