第30話 「絶対に問題起こすなよ!?!?!?」
「にしてもおぬし、地味に真面目なヤツじゃのぉ。試験免除も出来たじゃろうに」
妖狐で幼女な特號級先生、モヨコさんが俺にそう言ってきた。
「それはまぁ(【
霊奏資格試験には二つの合格方法がある。
①実力で突破。これが普通だ。
②特異な体質を持つか、あるいは偉業を成していること。
この二番目の条件を満たしていれば、試験を受けずとも顔パスってわけだ。
俺は【
ま、断ったがな。
「結局、正確な霊力量や技量を測る必要はあるでしょう?」
「まぁのぉ」
「ならばみなさんと公平に行ったほうがよいかと」
俺、みんなと仲良くなりたいからねぇ。
嫌われ者が一人だけ試験免除されてたら、みんなもっと嫌っちゃうじゃん?
だからみんなと同じ試験を頑張って、戦友みたいになれたらいいなぁって!
「というわけでみなさん、よろしくお願いしますね?」
周囲を見渡して微笑みかける。
すると、なぜか全員顔を曇らせた。
ってなんでだ!? 俺、完全に善良ムーブだろ!?
「うぅ、おぬし本当に邪悪じゃのぉ……! そうやって合法的に、他者を圧倒して悦に浸る気か……!」
いや何言ってんだモヨコさん!?
「おぬしの戦う姿はテレビで見とったわ。間違いなく合格級の実力はあるじゃろて」
「どうも」
「どうもじゃないわ! 後半の模擬戦で、対戦相手をボコボコにする気じゃろ!? 並のプロも逃げ出すような力で!」
えぇ~~~!? そんな気はないんだが!?
「くっ……。後半の模擬戦は本番さながらの実力主義。対戦マッチングに文句を付けないことが絶対のルールじゃが、わらわならクソゲーだと言いたくなるわ……! 初ダンジョンでラスボス出るゲームがあるか」
例えが若々しい。
モヨコ先生、三歳で三百歳なのにゲームするんだな。
「まぁ、命は取りませんから」
「当たり前じゃ! あと殺さないだけで四肢切断とか再起不能にもするなよ? たまにあるけど、アレ普通に試験監督が責任負わされるからの!?」
モヨコさんはビクビクしていた。
そんなに俺に信用無いのかぁ。やれやれだぜ。
こりゃぁ意地でも評価を逆転せねばな。対戦相手を、指導試合みたいに実力を見せつつも優しく倒すとか。
「モヨコ先生」
「な、なんじゃぁ」
「決めましたよ。試験が終わる頃には、アナタがこちらを見る目を変えてみせるとねぇ……?」
そう宣言すると、モヨコ先生はさらにビクビクビクッと震えて、
「せっ、洗脳して配下にする気かぁーーー!?」
ちげーーーよ。
◆ ◇ ◆
「くっ、空鳴カナタめ……! モヨコ先生に手は出させないぞ……!」
「先生を洗脳してどうする気だ!? 身体は美ロリな三歳児だぞ!」
「おまえも美ロリな見た目でよぉ!」
などと、極小の小声で叫んでくるという器用な真似する霊奏師たち。
だが俺のハイスペボディは耳もいい。そちらを見てジトッとした視線を送ると、「ひぃ!?」とか言って縮こまってしまった。
はぁ~。いつになったら俺の善良さがわかってくれるんだか。
「では、説明するぞおぬしたち~!」
黒服に肩車をされながら、モヨコ先生が呼びかけた。
彼女の背後には巨大な純白の水晶石が鎮座していた。
ちっちゃいモヨコ先生の十倍はあるだろう。ざっと十メートルくらいか。
「これなるは『殺生石』。我が【九尾の妖狐】の能力によって生み出した、魂を吸い取る石よ」
めっちゃ危険な石だな。
だが霊奏師ならば大丈夫だ。
「安心せい。おぬしらの魂魄は、溢れる霊力のエネルギーに守られとるからのぉ。ゆえに吸い取られるのは霊力となる」
んで、とモヨコ先生は俺たちを見渡す。
「それを利用して、正確な霊力量を読み取る方法を確立したのじゃ!」
――霊奏師の霊力の測り方は、主に『波長』によって図られる。
まるでビリビリと音波が伝わるように、周囲の霊奏師はなんとなく相手の霊力がわかるわけだ。
これを絶つのが『気配遮断』だったりするが。
「霊力は命のエネルギー。機械では捉えられず、測る人間の〝なんとなく〟という感覚に任せるしかなかった。じゃが『殺生石』を用いれば違う」
モヨコ先生が巨大水晶に触れる。
すると白かった殺生石が、下から上に向かって徐々に赤くなっていった。
「霊力を吸い取るほど、この石は赤く染まる。それによって視覚的に霊力量が分かるのじゃ!」
よく見れば石には、身長計のような目盛りが刻まれていた。
まさに背丈を測るがごとくだ。あれで十メートルの石をどれだけ染め上げられたかで、本人の霊力ランクがわかるわけだな。
モヨコさんは石を染めながら、
一メートル以上:霊力量F
二メートル以上:霊力量E
三メートル以上:霊力量D
四メートル以上:霊力量C
五メートル以上:霊力量B
六メートル以上:霊力量A
七メートル以上:霊力量S
八メートル以上:霊力量SS
九メートル以上:霊力量SSS
十メートル到達:霊力量EX(前人未踏)
と語った。
一メートルごとに倍の霊力が必要になるため、トップ層に近づくことは指数関数的に困難となる。
ちなみに一・五メートルだとか、目盛りの小数点が四捨五入値を超えた場合は、『霊力量ほにゃらら+』と表記される。
アホっぽいが、本人がほにゃららと言っていた。かわいい。
「さぁてわらわの霊力量は……八メートル六分! 『SS+』じゃなぁ!」
巨大水晶の八割以上が赤く染まる。
広場の子供や霊奏師らが『おぉおお~~~!』と歓声を上げた。
霊力量S以上なんて滅多に現れないからな。流石は特號級。
……ちなみに一周目の俺は霊力量Dでした。はぁ。
「もっと伸ばせればいいんじゃがのぉ。わらわは身体が若くとも、魂は熟れきとっとるからな。うれうれじゃ」
霊奏師は幼い時ほど霊力を増やしまくれる。
これは魂が未熟だからこそだな。赤子が突然死することがあるのもソレが原因だ。
で、オトナになれば魂が凝着し、成長が止まっちゃうわけだ。
「ふむ(俺とモヨコ先生の違いは、そこか)」
――彼女の能力は復活。前に進む形だ。魂は据え置きだ。
――反面、俺の喰らった事象は【回帰】。
俺という未来の魂が過去にぶっ飛ばされ、胎児の頃の自分の魂に潜り込んだ。
意識が目覚める前の段階で、自分の霊力量が常人の二倍あったと聞いたからな。間違いないだろう。
で、そこから胎児のやわらか魂部分を好き勝手にイジって霊奏経絡を増やし、霊力を爆増できたわけだ。
おかげでこの試験には多少の自信があるぞ。
「あ、ちなみにこの殺生石はふんわり殺生石じゃ。〝霊力かえして〟と念じれば戻るゆえ、安心して昇天寸前まで注ぐがよいぞ~!」
◆ ◇ ◆
「――とっ、藤堂アザカ、十五歳、おねがいしまふっ!」
ガチガチで噛んじゃった少女に笑いが飛ぶ。
現在は『霊力測定』の真っ最中だ。
幼児から十代半ばまで、多くの子供が殺生石の前に並んで、石を赤く染め上げていく。
たまに大人も混ざってるがな。共鳴できる概念霊と出会ったり、後天的に霊力に覚醒したケースだ。
「むむむむっ……!」
「おぉ~六メートル三分! 藤堂アザカ、霊力量Aじゃな! 大したものじゃ!」
「はぁ、はぁ……いえ。わたしなんて、姉さんに比べたら……」
妙に自信なさげな少女。
霊力量Aなんて、普通に壱號級クラスなんだが。
Dランクの八倍なんだが。
それで自信ないなら前世の俺は息吸えねえよ……。
「では次じゃぁ!」
モヨコ先生が呼びかけると、「ふんっ」と鼻を鳴らしながら金髪の少年が前に出た。
ウチのミチオ兄貴だ。
「空鳴ミチオ、十歳。よろしく頼む」
「相変わらず偉そうじゃの~」
先生が苦笑する。
学園でもずっと不遜な態度をしているらしい。兄貴を見る子供たちの目は、めっっちゃ嫌そうだった。
嫌味いびりマウント無双してるんだろうな。
「では始めるがよい」
「ああ」
ミチオが巨大水晶に手を当てる。
すると、瞬く間に下から赤く染まっていき……、
「おぉ~~っ、六メートル九分! ほぼほぼSの、霊力量A+じゃ!」
「ふんっ」
瞬間、『オォ~~~~ッ』とどよめきが走った。
流石は天才、あの年であれほどと、大人の霊奏師たちが褒めちぎる。
本当にすさまじい才能だ。プロ霊奏師の中でもあれほどの霊力量を持つ者は少ない。
しかも十歳だというのだから、まだ幾分かは伸びるだろう。
「おいおまえたちッ! 僕は優秀だぞッ! 僕とヒナミには、空鳴家の劣等な血なんて流されてないんだ。派閥や婚姻の誘いなら、最高条件を付けて今のうちにするんだなッ!」
そう堂々と言い切るミチオ兄貴。
その宣言にモヨコ先生が「コリャコリャコリャっ」と苦言を呈した。
「試験の時間を使って自己宣伝するなっ。ったく、優秀なのはわかるが、自信過剰もいい加減にせい」
「はい」
素直に頷いて退いていく。
まぁ返事だけで、全然改める気はないようだがな。
「……フンッ!」
ふと俺と目が合った瞬間、めっちゃデッカく鼻を鳴らされた。
どういう感情だ? 鼻水出るぞ?
「では次は……げッ」
とそこで。モヨコ先生が受験者ファイルを見て、嫌そうな顔をした。
「あーー……では次、空鳴カナタ」
「はい(俺か)」
瞬間、ざわッと広場の空気が一変した。
先ほど以上のどよめきが起こり、「ミチオくんはすごかったなぁ。娘とまぐわらせたいものだ」「当主に激しく叱責されたそうで、今なら親権も買えるのでは?」と闇会話をしていた霊奏師らが、一斉に顔をこわばらせた。
広場に恐怖と警戒が溢れる。
「……どうも。空鳴カナタ、0歳です」
なんでこんなに怖がられるんだぁ~~~……と内心へこみつつ、俺は前に出た。
「よろしくお願いしますね、モヨコ先生」
「う、うむ。……試験免除を蹴ったのはもちろん、0歳で受験というところからおかしいのぉ……。未来永劫、最年少記録達成じゃよ」
「ええと、褒められてます?」
「ドン引いとるんじゃッ!」
と怒鳴りながら、肩車してる黒服男性の頭をベチベチ叩くモヨコさん。
頭皮にダメージいくからやめてあげてほしい……って、黒服さん、なんか幸せそうにしてるな。
おいモヨコさん(肉体年齢三歳)、その人絶対性癖やべえぞ? 足元に地雷埋まってるぞ?
「おっと、時間が押しとるな。では空鳴カナタよ、始めるがよい」
「はい」
彼女に促され、俺は殺生石に手を当てた。
さぁ、実質二度目の試験だ。二周目プレイヤーとして不甲斐ない結果は残せないぞ。
「では、いきます」
霊力を滾らせ、流し込んだ。
すると殺生石を一気に赤く染まっていき、前世のDランクを超え、C、Bと輝きを上げていく。
「おぉっ、Aに到達したのぉ! そして……S!? やはり兄以上か!」
モヨコ先生の言葉に、ミチオが「ッ」と歯噛みする。
そんな中、俺はさらに霊力を流し込む。
「S+、SS、SS+……! おぉお、このモヨコと並んだか! ってSSS!?」
赤い輝きはついに九割に達する。
そのあたりから、殺生石が震え始めた。
「おっ、おいおいおい待て待て待て待てっ!? もうSSS+になっとるぞ!? あの不知火オウマのボウヤと同じじゃ! もうそのへんで……あっ、十割光った!? EX到達じゃぁ~~~!?」
ついに殺生石が深紅に満たされた。
全長十メートルもの巨岩が赤く輝く様は、なんとも神々しく感じるな。
でも、
「まだまだいけますね」
「えっ」
俺の霊力は全然尽きてなかった。
まだまだまだと霊力を注いでいく。殺生石がガタガタガタガタッと凄まじく震える。
「一回カンストしたら、次は下から青く染まったりするんですかね?」
「って二周目機能なんてないわぁああーーーーッ!」
えっ、そうなの?
じゃあやばいじゃんと思って、手を放そうとした時だ。
殺生石から、ピシッ――という音が響き、ズガァアアアアアアーーーーーーーーーーーンッッッと!
「あ、割れた」
「おんぎゃぁああああああ~~~~~~~~!?」
巨大水晶が粉々に砕け散った。
飛び散る破片に広場の者らが「うわああああああああーーっ!?」と絶叫し、逃げ回ったり縮こまったり必死に破片を弾いたり、もう滅茶苦茶になる。
「あっ、あぁあぁあああぁああああああああああああ……!?」
そして。モヨコさんはその光景に絶句し、しばし震えて……、
「だッ、大問題じゃぁああああ~~~!? みんなパニックだし殺生石は壊れるしッ、どうするんじゃこれぇ~~~~!?」
と、甲高い悲鳴を上げるのだった。すんませぇん……。
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