第61話 神算鬼謀、カナタ様ッ!(違う!)
ラクガキみたいなキャラデザのマスコットは言った。
「三日後に、最上級概念霊が現れる……?(え、え、待って待って待って)」
なにそれ知らん。
今年起こる最上級概念霊発生イベントなんて、一か月後の【消失】くらいだぞ?
色々とトラブル続きのニホンだけど、国内に年二回も最上級概念霊が出ることはよっぽどないぞ……?
『おぉ~流石はカナタ殿下。まったく動揺してませんなっ』
無表情なだけだよっ。
『ニホンに最上級概念霊が現れるということは、国内で特定の〝意識〟が蔓延しているか、国外でニホンに対して何らかの〝意識〟が向いていると思われますな』
「たしかにな」
『ここはナロちゃんめにお任せくだされ。数週間以内における世界中の電子サイトの書き込みを拾い、傾向を調べてみますぞっ。少々お待ちを』
みゅみゅみゅ……と鳴き、電子頭だけモチモチシロネコドブコウモリ・ナロちゃん(※前科124犯)は電波を出すアニメーションを始めた。
シュールだがおいおい。世界中の電子サイトから傾向を調べるって。
「おまえそんなことできるのか」
優秀過ぎるやつだな……。
空気嫁セツナさんとは大違いだよ。あの人、『わたくしネットやってます!』ってドヤ顔するくせにせいぜいプギャーッとかネットスラング言ってくる程度の浅さだから。
俺に怖がらず接してくれるほど度量は広いのになんか浅い、子供用プールみたいな女性だから……。
『あっ、殿下のお嫁さんが掲示板の主婦板でマウント取ってますな。〝ウチの旦那は年収億越えなんですけど?〟って』
「そんなことしてるのか子供用プール」
『えっ、なんですその呼び方!? 淫語!?』
淫語じゃねえよ。
「ふむ……(それにしても)」
どんな概念霊が現れるか考える。
ここしばらく話題になっているモノとすれば、恥ずかしいが俺だろう。
だが『新しい有名人』というのは早々すぐに概念霊化するものじゃない。
ヒトを明確にイメージするのは難しい。そのためさっくりと思い浮かぶ『言葉・感情』と比べて、有名人の概念霊が出るのはせいぜい活躍して一年は経ってからだ。
だから今回の場合、概念霊化するのは俺じゃなく、『俺に向かう総合的な思い』になる。
そして前世の記憶的に考えたら……。
「【消失】、だな」
『ッッッ!? さ、先んじて正解でございます……! 統合すると、〝空鳴カナタ消えろ〟〝空鳴カナタに消されるんじゃ〟という方向の書き込みがいっぱいでした! そこから推察するに、【消失】の概念霊が出る確率が高いかと……!』
流石はカナタ殿下ッ、わたくしの電子頭脳すら及ばない計算速度! などと褒めてくるナロちゃん。
いや全然嬉しくねえよ。俺めっちゃ嫌われてるじゃないか。
「そういうことか……(俺という存在が、【消失】の出現を加速させたんだな)」
元々この時期、消失関連のワードが流行中だった。
たしか
ニホンから見たら護国の英雄だが、他国からしたら悪鬼だもんな。元々消えろとは思われてたんだろう。
だがしかし。そこで俺が出現。ニホンに消えてほしいものがダブルになったせいで、【消失】の出現が爆速になったわけだ。
「はぁ(にしても十倍速とは。よほど大量の人間と、自我の強いヤツに恐れられたんだろうな)」
『ふっふっふ……なるほど。カナタ殿下の最大の武器は、武力ではなく計算力だったのですな……! このナロちゃんめ含め、多くの者が心全てを読まれて洗脳されたのも頷ける……!』
計算も洗脳もしてねーよ!
「ともかく理解した。では行動を開始しようか」
――オウマに伝えるのはまずいな。
あいつは圧倒的に自我が強い人間。【消失】を明確に意識させようものなら、次の瞬間に例の概念霊が現れかねない。
それに〝なぜ現れると知っている〟と問い詰められ、情報元――実質逃亡犯罪者のナロちゃんを匿ってることがバレたら、俺嫌われてるから一発で殺処分になりかねん。
かといって情報元をぼかしたら……。
〝貴様は未来の知識があるのか? あるいは未来人……時を戻ってきたとでも?〟
なーんて考えられたら、すなわち【回帰】って概念に繋がっちまう。
オウマの意志力であのトンチキ肉天使まで爆速出現してみろ。今でも勝てる自信がないっつの。くぅん……
「協力関係にある手前悪いが、オウマには教えず動くぞ……(あの天然英雄おじさん厄介だなぁ)」
と、呆れそうな気分で言ったときだ。
ナロちゃんが『なるほど……!』と目を光らせた。え、何がなるほど?
『不知火オウマは最終的に敵になる存在。いわば政敵。そして二十年以上の活躍により、莫大な名声があります』
えっ、それがなに?
『そこで! カナタ殿下は【消失】討伐に向けて単身先んじて動き、手柄を独り占めというわけですなぁ……!』
「(は!?)」
『世界の世界の支配者となるべく、英雄の人気に追い付くつもりだと……!』
はぁ~~~!?
ってふざけんなっ! 誰がなるかよ世界の支配者!
「俺はそんなことは求めていない」
『なっ!? そんなことって!?』
はぁ~~。期待してるドブネコちゃんには悪いけど、俺は未来で平和に生きるのが夢だからね?
全然君臨する気はないからね? わかった?
『わ――わたくしめの考えが安かったです』
んん?
『手柄の独り占め? 英雄の人気に追いつく? あぁっ、違った違ったっ。アナタ様は〝そんな安いこと〟は考えていなかった!』
えっえっえっ?
『となればッ! 最上級概念霊【消失】戦で得られるそれ以上のメリットなればッ、〝最上級概念霊の捕獲〟ですねぇ~~~!?』
んんんんんんんんん!?
「おま(待て待て待て待てっ! 最上級概念霊の生け捕りなんて、歴史上ほとんどないことだぞ!?)」
しかも敵は【消失】。全てを消し去るって意味だ。
ド級に危険な概念じゃねーかよ。
それを討伐より難しい捕獲にしろと!?
『フフ、わかっております』
なにが?
『ちまちまと名声や功績を積み重ねるよりッ、圧倒的に暴力性を高めたほうが支配者の座まで大ジャンプできるわけですなぁ~!』
ジャンプする気ねーよ!
『そしてめっちゃ死ぬ危険高くても、そっちのほうが気持ちいいとッ!』
よくねーよ! 俺、死ぬのめっちゃ怖いんですけどぉ!?
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【Tips】(カナタくんの脳内愛称編)
子供用プール:霧雨セツナの別名。度量はあるのに色々浅い。淫語ではない。
今はネットでレスバしてる。
「〝嘘乙〟じゃないですよ! わたくしの旦那様は年収億越え年下つよつよ暗黒イケメン美少女なんですけどぉ!?カタカタカタカタッターン!」
天然英雄おじさん:不知火オウマの別名。微妙に的外れなこと考える上に意志力無駄に高すぎて厄介。
今は
「カナタッ、この邪悪め……負けんぞ、カナタァ……!(気力140%上昇)」
電子頭だけモチモチシロネコドブコウモリ・ナロちゃん(※前科124犯):
平賀ナシロの別名。倫理観ゆるキャラ。マスコット的外見をしているが、ごりっごりのバイオテロリストであることをカナタくんは忘れていない。
今はカナタくんの側近になり、人生を最高に楽しんでいる。(※カナタくんは苦しめられている!!!)
『まさかカナタ殿下、最上級概念霊の捕獲とそれによる恐怖政治を考えていたなんて……!』
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・次回、準備編終章!
↓途中でも『ご感想』『こうなったら面白そう』『こんなキャラどう?』という発想、また『フォロー&☆評価』お待ちしております!
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