第24話 再会の不知火オウマ
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※8月20日ごろ、9話・10話で不知火オウマから渡された呪具を『指輪』→『腕輪』としました。
あと5話のセツナさん登場時、外見描写に横乳を追記しました(きのう)
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――二周目の俺は、全属性の霊力を使うことができる。
胎児の内に霊奏経絡をイジりまくったからな。
役に立つ場面がきてよかったよ。
「じゃ、流すぞ巨人くん」
『ママッ、ミルク!』
「おまえキモくなったな」
精神ぶっ壊し過ぎたかも……。
ともかく天下の村正ヒノスケさんが見守る中、巨人の口の前に手をかざした。
そして、
「属性選択:火・水・土・雷――霊力、放出」
霊力を四属性のエレメントに変換。一気に口に流し込む。
『グゴゴゴゴゴゴゴッ!?』
ズゾゾゾゾゾゾゾゾゾッと、【
すごい光景だ。人間なら胃腸が爆散してるところだろう。
だが巨人くんは『グゴゴゴ~!?』と目を見開きながら唸り、やがて俺の手に吸い付いてきた!
きしょ!
「おいっ巨人!?」
『ウッ――ウンまいグゴォ~~~~~! なんじゃこりゃあああああ~~~~!?』
おまえがなんじゃこりゃだよ。
『カッ、カロリーの暴力グゴォオオオ! ドッサリの属性マシマシトッピングだけでも腹がはち切れそうになるのにッ、複雑妙味かつあまりにも濃厚な霊力スープが五臓六腑に無理やり侵入してくるグゴッ! ニンゲンなら一瞬で脂肪肝になるグゴォオオッ!」
劇物扱いかよ。
「これはッ、もはや食事を超越した〝格闘〟ッ! いまオデはママの霊力と食うか食われるかしてるグゴォオオ~~~~~~~ッ!』
それ褒めてるのか?
『ウマイッッッッッッ! けどこんな食事してたら絶対カラダが壊れると本能が訴えるグゴ! でもドハマリしちゃって止まらないグゴォオオオ~~ッ!』
ズルルルルルルルッとひたすら霊力を吸いまくる【
そして、
『プッ――ハァアアア……! 堪能、したグゴ……! オデ、ママを
「んっ」
瞬間、魂に電流のような感覚が奔った。
概念霊と縁が繋がった証拠だ。
電源端子に新たな機器が接続されたように、不可視の霊的ラインが構築された。
魂魄契約完了みたいだ。
「何はともあれ、よろしく頼むぞ、【
『グゴ~』
こうして二周目の人生にて、俺は四体目の憑霊【
人生わからんね。
「――おっほぉ、やりおったのぉカナタの旦那!」
決着がついたところで、背中をぱしぱしと叩かれた。
ヒノスケさんだ。彼はめっちゃ嬉しそうに俺を見てきた。
「よもや【
「ふふふ、そうですかね?」
「そーじゃそーじゃ!」
だ、だよな~!? よく考えたら俺、めっちゃすごいことしちゃったよな!?
これで二周目のニホンは、強力な幻想金属を手に入れたわけだ。
旧アメリカ――リベルタリア帝国の強大な国力にも、ぐっと迫れるようになる。
「不知火オウマ総帥も、喜びますかねぇ?」
「っ!?」
俺がウキウキでそう聞いた時だ。
なぜかヒノスケさんは口元をヒクつかせた。
「はっ……はっはっは。カナタの旦那、分かってて聞いてるじゃろ? 性格悪いのぉ~」
えっ。
「【
「???」
と、ヒノスケさんが何か語っていた――その時。
ズドォオオオオオオーーーーーーンッという激しい音と共に、落雷が付近の地面に落ちた!
激しい閃光で視界が一瞬見えなくなる。
そして、
「――俺の話をしていたな、ヒノスケ」
光が霧散するや……その男は、雷の落ちた場所に姿を見せた。
「不知火、オウマ」
「空鳴カナタ」
護国の修羅。
大和の戦王。
黒き益荒男――霊奏機関が総帥、不知火オウマが、俺たちの前に現れた。
「…………」
ジッ、と俺を見てくるオウマ。
鋭い血色の瞳に、俺の人形のような顔が映った。
内心ビックリしてるのに、相変わらず図太い身体くんだなぁ。
「しし、不知火オウマ総帥ずらぁ……!?」
「オウマ様……!」
「顔こわいでごじゃる~~!」
周囲の地方霊奏師さんたちや霧雨姉妹やらは、突然の総帥登場と彼の放つ重いオーラに萎縮している。
ほら、身体くんも空気読んで、少しは表情変えて!
「フッ」
ってなぜ笑った身体くん。笑顔が邪悪だからやめなさい!
「……空鳴カナタよ」
微笑する俺に、オウマ総帥は重い口を開いた。
「貴様の行動は把握している。暴走した霧雨家の子女らを上手く諫め、友誼を持ち、その上で本日、見事に【
むむむむっ。
お、俺、褒められてる。めっちゃ警戒されてたのに、褒められてる。
おぉおお、これはついにバケモノ扱い卒業か?
中身は善良で友好的なモブだとわかってくれたか? とりあえず礼しよ。
「これはこれは。お褒めに預かり、恐悦至極にございます」
おぉ~。身体くんもちゃんとお礼してくれたわ。
初対面の時と違って敬語だしな。
「……社交を学び、やり口を変えたか」
「アナタ様の飼い犬なれば。お気に召したでしょうか、旦那様?」
「貴様……」
オウマ総帥の眼光が激しくなる。
俺がいい子になってるから感動してるんだろうなぁ。
ああ……俺には判るよ。
オウマ総帥の中で、俺への警戒心が落ちていくググググって音が。
ははは。じゃあ出来るオトナの俺は、この勢いで仕事の話に入ろうかな?
「さて、オウマ総帥。――この『空鳴カナタ』が手中に収めた【
「……!」
能面ヅラの総帥がわずかに目を眇めた。
色々考えてるのかな? あっ、焦らなくていいですよ! 俺は気遣いの出来る男ですから!
霊奏界の総帥となると、責任が大きくなりますよね~。
「ゆっくりとお考えくださいませ。ここからのアナタの言動には、ニホンの未来がかかっているのですから」
「ッ」
フッ、見事な気遣いアピールしちゃったぜ。撮影ヘリも飛んでるからな。
ニホンを愛するオウマ総帥に、『ニホンの未来がかかっている』と、俺の口から言ってみせた。
これはつまり、〝俺もニホンの平和を求めていますよ!〟って相手に伝えてるわけだ!
「総帥はとても賢いお方。こちらが何を求めているのか、わかりますよねぇ?」
こりゃ~総帥の好感度も爆上がりでしょ……! テレビの前の視聴者もな!
「なるほど……理解した」
やったぁ!
「悪辣なる魔犬め。貴様は、俺にこうさせたいのだろう」
え? え?
「いいだろう……今回は、貴様を
なぜか拳を震わせるオウマ総帥。
そして、腰に差している刀を地につけた。え、なに?
なんかそのまま、ゆっくり片膝で座ろうとしてる? 疲れてるの?
「ニホンのためだ。祖国のためなら、俺はどのような恥辱も――」
と、よくわからないことを言いながら、彼が片膝を地につけようとした――その時。
「はぁいっはいっ! そこまでじゃ、そこまでっ!」
ヒノスケさんが割り込み、オウマ総帥のことを無理やり起こした。
えっ、なに!?
「ヒノスケ、邪魔をするな」
「そうはいかんぜよ、オウマのとっつぁん。アンタはニホンの誇りなんじゃきぃ、情けない姿見せたらそれこそ国民の士気ば落ちるぜよ」
「む……」
ヒノスケさんは何やら総帥を諭すと、今度は俺を苦笑気味に見てきた。
「はは……カナタの旦那も、ワシに免じて許しちゃってくれんか? とっておきの武器を作っちゃるけ」
はて? 武器を作ってくれるのは嬉しいが。
「許すとは?」
「おんしさんにとっちゃ、オウマのとっつぁんは生まれてすぐに刀突き付けて飼い犬にしてきた、不倶戴天の相手じゃろうが」
ふ、不倶戴天!?
いやいやいやいやいやいやっ。俺、全然扱いに納得してるよ?
オウマ総帥のことなんだかんだで好きだし。苛烈だけど、ニホン豊かにしてくれる人だし。
モブだった頃の俺には、そういう〝命を懸けて堂々と、目標に生きれるニンゲン〟ってのは、羨望の対象だったからな。
うーん。なんか知らんが弁明せねば!
「はて、ヒノスケさんは何をおっしゃられているのですかね」
「なぬ?」
「自分は、オウマ総帥のことをとても敬愛しているのですが?」
「うっ、うっわぁ~~~……! 流石は旦那、よく言うぜよ」
なぜかドン引かれた。なんでじゃ。
「【
って、ふぁっ!?
あ、頭下げさせようとしてた……!? いやなんでそうなるんだよ!
「はははははっ。こりゃオウマのとっつぁん、おんしヤバい魔犬を飼ってもうたのぉ?」
「覚悟の上だ……」
「これからは、ちったぁ自分の身体を大事にせんとダメじゃな。オウマのとっつぁんが弱ってみぃ、カナタの旦那はえらいことやらかすぜよ?」
やらかさねーよ! 狂犬扱いやめろ!
「ま、ワシゃ鍛冶師じゃ。とっつぁんの治世だろうが旦那の起こす乱世だろうが、ひたすら鋼を鍛えるだけぜよ~」
勝手にそう締めるヒノスケさん。
むむむむ……納得いかんぞ。
俺は絶対にオウマ総帥に善良だとわかってもらうぞ。
ふむ。このまま〝自分は善人です〟なんて言ったところで信じてもらえるわけがない。
日常会話の中から人柄をわかってもらうか。うーーん、オウマ総帥とできる話題……共通する知り合いの話とか?
共通の知り合いといえば、
「ああ。ご存じの通り、セツナさんでしたら、今では自分ととても仲良くさせていただいてますよぉ? 総帥が目にかけていた、彼女とねぇ?」
「!」
「それと『八咫烏』のシイナさん。彼とも仲良くなれました。アナタ様の懐にいる彼のことを、どうか大切にしてくださいねぇ?」
「!!!」
って、あれ。
なんかオウマ総帥の眼光がめっちゃ鋭くなっていくんですけど?
「底なしの、邪悪め……!」
なんで!?
「ふふ……(あーダメだ。総帥、今めっちゃピリピリしてるからなんか勘違いしてるわ)」
あ、そうだ。一緒にメシでも食うか。
今回の【
落ち着いた場所なら総帥も冷静になってくれるだろう。
そこで俺のことをわかってもらおうじゃないか。
「オウマ総帥」
「……なんだ」
「【
お食事でもしながら話しましょう……と、俺が誘おうとした時だ。
「その件については、私が引き継ぎましょう」
そう言って、今度はミチタカ父さんが割り込んできた。
「空鳴、ミチタカか」
「ええ、どうも総帥。私の子供をずいぶんと気に入っていただけたようで。まさか、犬の首輪紛いのモノをプレゼントするとは」
ちらりと、父さんは俺の腕に嵌められた呪具を見た。
死ぬまで外れず、オウマ総帥に追跡される呪いの腕輪だ。
……うわぁミチタカ父さん、コレの件について総帥に皮肉言ってるよ……!
「……貴様、空気が変わったな。空鳴カナタになにをされた」
「別に。ただ、強く誓ったのですよ。あの子を守れる騎士のような男になろうとね」
「……やはり……」
一瞬オウマ総帥は俺のほうを鋭く見ると、再び父に向き直った。
え、なに!?
「それで、何の用だ」
「今回の【
「ほう」
「御存じの通り、息子は霊奏師資格を所持しておりません。ゆえにこの戦場では、私及び、『五大院家』のウジマロ様と、『霧雨家』のセツナ様が、彼の監督を務めました」
それはたしかに。
――ああ、なるほど。
「〝霊奏師見習いの行動すべては、監督霊奏師が責を負う〟――このルールに基づくならば、手柄もまた監督者のモノ」
よって、と父さんは言葉を続け、
「【
「……そう来たか」
オウマ総帥がかすかに唸った。
父さんの言葉に、「あんま活躍できなかったでおじゃる……」「ですねぇ……」とうなだれていたマロさんとセツナさんが、「「はわっ!?」」と顔を上げる。
「悪辣だな、空鳴ミチタカ」
対して総帥は、父ミチタカの発言に目を眇めた。
「一見すれば、利権を
だが父は、ニホン屈指の名家たる五大院家と霧雨家を巻き込んで見せた。
これによる効果は大きい。
まず単純に二家に恩を売れたこと。従一位の名家二つに特大の貸しを作ってみせた。
次に、利権の独占を避け、強力な二家とある種の同盟関係になったことで、闇に蠢く『霊媒師』などからの襲撃リスクを激減させたことだ。
ヨソとの繋がりもなく使用人もいない貧乏家『空鳴家』。
もしもそんなところが単独で莫大な富を得てみろ。
ソッコーで食い物にされるわ。
犯罪的にも、そして政治的にもな。
「さてオウマ総帥。よって利権について、アナタや政府関係者らとお話する際には、私とウジマロ様……そして霧雨家のカゲロウ翁を交えて会談させてください」
「霊奏界の大老を、自軍に引き込んだな」
「いやぁ、舌戦には自信がないもので。私は気弱ですからねぇ……頼らせていただきますよ」
頬を掻きながら苦笑する父さん。
その様子は、なんとも頼りなさそうに見えるが――目が笑っていなかった。
「私は父親です。カナタの未来を豊かにするためなら」
父は大きく前に出る。
そして、臆することなくオウマ総帥の眼前に迫り、
「私は、なんだってやりますよ?」
「……」
瞠目するオウマ総帥。
彼は低く唸り……やがて静かに頷いた。
ここに、最低格の従三位『空鳴家』を始まりとした、名家二家との異例の同盟が誕生した。
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【Tips】
カナタくんの霊力の味(巨人くん評):
『ママの霊力の味グゴ? 例えるならば――鮎の煮干しを使った繊細な淡口ラーメンに、
もはや栄養の暴力。美味い。美味いけど、確実に健康を害してしまうようなカロリー量。だがそれでこそ病みつきになる。そんな味グゴ。
なに? もうそこに、繊細だった頃の鮎の風味はなくなっているのではないか?
トッピングも盛り盛りで、もはや豚のエサなんじゃないか?
――いいや否。それこそは素人の考え。
全ての美食は使う水こそが大切だというように、根底に玲瓏な味わいの淡口スープがあるからこそ、これは美食足り得ているグゴ。
実際、ママの霊力を昔から味わっていたという【人形】さんたちは、その風味の良さが分かっていたグゴ。
そんな下地があるからこそ、暴力的でありながらもママの霊力はオデを
カタナくんの巨人くん評
『きしょ』
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