第4話:召喚屋さん
「召喚屋とは昔で言う奴隷商を指しておりまして、」
召喚と聞いてもよく分からない様子を察したのか、店主は召喚屋について教えてくれた。
簡単に言うと召喚魔法を介した契約を行っている奴隷商が召喚屋と呼ばれているらしい。
召喚魔法は不当な扱いを受ける奴隷への救済措置であり、奴隷商はかつての名残であり、現在は召喚屋と名乗ることが主流となっているらしい。
「というわけでお客様のご希望はありますか?」
「えーと、戦ってくれたり、代わりに魔力を注いでくれたり」
色々と邪な願望もあるが、蟹男は他人にさらけ出せる性格ではなかった。
「戦闘と、魔力の節約の手助けが可能な召喚獣ですと」
召喚獣は人も含めてそう呼んでいるようだ。 いわゆる業界用語のようなものだろうか。
言葉のニュアンスに差別的な要素は感じない。
「こちらと、こちら。 もしくはカタログをご覧ください」
紹介された召喚獣は二人ーー
「マルトエス、魔法学園で教鞭を取っておりました」
「ミクロ、獣人……肉体年齢は十歳」
マルトエスは透き通る水色ボブヘアの大人な女性だ。 スタイルは出るとこは出てといった感じで、彼女の生徒はさぞ悶々としていたことだろう。
ミクロは白髪の長髪で、尖った耳も白く、瞳はグレーで、神秘的な雰囲気だ。
獣人は時間ではなく、肉体の成長でざっくり年齢を重ねるらしく、彼女はまだ戦闘経験は少ないとのことだった。
しかし技術は仕込まれており、戦闘経験を重ねればすぐにでも五、六才は成長できるとのこと。
素人から見ても二人が高額であることは明白だった。
「ちなみにおいくら……?」
「マルトエスは月額金貨五十枚、ミクロは買い切りで金貨百枚といったところでしょうか」
「……っ」
あまりの高額に蟹男は驚くが、ここに連れてこられた召喚獣はおそらく彼の扱う商品の中でも一級品。 魅せるための商品なのだろう。
こんないい商品を扱っているなら、信頼できると思わせておいて、カタログで身の丈に合った商品を選ばせるのだ。
金貨一枚は日本円で約十万。
つまり二人の値段は五百万と一千万合わせて千五百万円、蟹男が普通に生きていたら一生得ることのできないだろう大金だ。
しかし彼のアイテムボックスには持ち物を売って手に入れた金貨二百枚が入っていた。
「換金したら二千万円……セミリタイヤできるくらいか」
上手に運用すれば一生暮らしていけるかもしれない金額だ。 しかしそれは少し前までの話。
モンスターが溢れた世界では金の価値は低くなっているだろう。
ならば選択は決まった。
「買います」
「ではカタログを……え?」
「買います!」
未来がどうなるか分からない。 社会もいつまで保たれるか分からない。
ならば蟹男はせめて後悔しないように、赴くままに行動しようと思った。
安全と知識を得るため、それとちょっとの下心によって蟹男は手に入れた大金を手放したのだった。
○
「まず俺は異世界人なんだ」
「それはここでは珍しくないと聞いておりますが」
「モンスターも魔法もない世界だった」
モンスター突然現れて、襲われたこと。
それは今後も広がっていくかもしれないこと。
魔法ではない別の技術が発達していること。
蟹男自身は戦うことはおろか、魔法についても職業についてもモンスターについても何も知らないことを二人に説明した。
「男なのに格好悪いけど、ミクロに守ってもらいたい」
「分かった」
「商人が護衛を雇うのは普通のことでしょう。 では私は知識を与える係でしょうか?」
情けない主人だと思われて落胆されないかと心配していた蟹男は二人の反応に安堵した。
「ああ、よろしく。 一ヶ月みっちり教えてくれ」
「承知いたしました」
現状を共有したところで、蟹男はさっそくマルトエスに尋ねる。
「まずは何を準備したらいい? 資金は金貨五十枚あるんだ」
「そうですね、まずは装備を整えましょう。 そして道具屋で野営用の道具を見るのがよろしいかと」
「分かった、じゃあ行こうか」
蟹男は二人を連れて店へ向かった。
足取りが軽いのは美人を連れている優越感か、もしくは仲間が増えた安心からかもしれない。
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