第62話:白昼夢/移動都市


「まだ帰り道があるのよね」

「ちなみにここ何階層?」

「30くらいは階段を降ったと思うわ…」

「まじか」


 救援でショートカットしたからまだいいものの、本来なら降りた分上らなければならないと思うとダンジョン探索って本当に大変だと蟹男は思った。


「ふむ、その心配は不要だ」


 吸血鬼がそう言った瞬間、視界にノイズが走る。

 

 そしてまるで蜃気楼のようにダンジョンだったものが薄れて消えていった。


「え? え?!」

「攻略したダンジョンは蜃気楼のように消える」


 普通に地上に立っている状況はどう考えても可笑しい。 ダンジョンとは不思議なものだと、蟹男は思考を放棄した。


「というかダンジョン攻略って意外とうまみないんだな」


 ダンジョン攻略と言えば、宝箱が出てきてわくわくみたいなイメージを持っていた蟹男は首を傾げた。


「そういうダンジョンもあるな。 しかし死霊系がボスのダンジョンは何もないことが多い」

「多いって……何個も攻略してるみたいな言い方だけど」

「ああ、それなりな。 ただし報酬はあるぞ」


 吸血鬼はそう言って、ミクロの胸を突いた。


「ここに」

「えーと?」

「スキルの種が宿っている。 どのようなダンジョンであっても攻略すれば、新たなスキルを手に入れることができるのだ」

「やったー!」


 ミクロが無邪気に喜ぶ横で、蟹男はもしかして自分にもついに戦闘スキルが生えるかと期待する。 しかし吸血鬼曰く、攻略に値する貢献がなければ報酬は得られないらしい。


「無駄に高性能な……」


 とはいえダンジョンは攻略した。 つまり依頼は完了、お役御免となる。


 後はこのダンジョンコアをギルドに提出し、ギルドがコアを使って人の住める世界を創れば今回の騒動は解決だ。


「じゃ。アリス後は頼んだ」

「頼んだ!」


 ということで蟹男とミクロはアリスに面倒ごとを押し付けて、さっさと家路につくのであった。



※※※



「よく、本当によくやってくれた」


 後日、アリスは冒険者ギルドにダンジョンコアを提出した。


 そしてお偉い方々の集まった会議室に呼ばれ、微妙な気分で賛辞を受け流していた。


「それでこの後はどうされるのですか?」

「ああ、実は話し合っているのだがダンジョンのシステムが分かっていないから、正直決めかねている」


 そうなるだろう、とアリスは苦笑いした。

 いくら仕事のできる彼らとて、コアという全く未知のものを渡されてこれから自分達の住む世界を創ってねと言われても戸惑うのは当然だ。


 アリスは咳払いして、蟹男もとい吸血鬼からの情報を提供した。


「私の知り合いの提案ですが」

「聞こう」

「移動都市なんてどうでしょうか?」


 吸血鬼曰く、かつて強大なモンスターからダンジョンに逃げそして生き延びた人々はそういう世界を創って生き残ることに成功したらしい。


 そしていくつかコアがあれば、ジャイアンツ・ギガスによる被害を分散することができる。


 これは人類という種を存続させるための、効率的な案だとアリスは思った。


「詳しく聞かせてくれ」


 結局この後、アリスは人類の未来の形について、長々と話し合うことになった。


 いつの間にかお偉いさんの一員のように意見を交わし、そしてついに意見がまとまった。


「よし、各所に連絡だ」


 アリスは慣れないことをして凝った肩を回して、もう自分の役目は終わったと退席しようと立ち上がる。


 しかし、


「加賀さん、君にはこのまま協力してもらいたい」

「えぇ……?」


 予想外の要請にアリスは困惑するが、断れる雰囲気ではなかった。


(ああ、山河さんのようにマイペースな性格になれたら……)


 アリスは心の中で、多勢に逆らえない自身の性格を呪うのであった。



※※※

 






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


これにて4章は終わります。

毎日更新出来なくなってきてしまいましたが、今後も読んでくださる方々に楽しんでいただけるよう執筆して参ります。


小説トップページ下部の☆より評価していただけますと、大変嬉しいです。批評でも構いませんので、お気軽にコメントもどうぞ!


では引き続き拙作をお楽しみください。


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