第21話:懐かしい味
ーーポン、ポン、ポン
ロケットスタートで飛び出したミクロによってゴブリンは瞬殺された。
そして間抜けな音と共に死体は消え、ひし形のクリスタルが床に転がる。
「外とは違ってゲームみたいだ」
「つっよ!? え、ええはい、そうなんですよ。 楽でいいっすよね。 外のモンスターは解体しないと素材が取れないっすから」
蟹男たちが普段戦ってるモンスターは、
「解体の労力がない代わりに、実入りは少ないですけどね。 依頼のアイテムが出ない時なんてもう……」
「ガチャみたいな闇を感じるな……」
蟹男はマーケットで購入した『解体ナイフ』の魔道具を持っているので、現在は外でも大して労力はかからない。 しかし今、鮫島に自慢しても仕方ないだろう。 そんなことよりーー
「これはどうやって使うんでしょうか?」
ひし形クリスタルを集めてきたマルトエスが尋ねてきた。
「貸してください。 こういう水平の場所、または両手の上で魔力を流すとーー」
ーーパリン
鮫島の手の上で砕けたクリスタルは一瞬光を放って、どんぶりに変わった。 どんぶりからは湯気がもうもうと立っていて、まるで出来立てのようだ。
「におい、やべえ」
「なんか美味しそうな匂いする! お腹空いた!」
「これは……!」
蟹男はアイテムボックスから小さめのカウンターテーブルと箸を取り出した。
その上にセットゴブリンのドロップアイテムを並べる。
「「「いただきます!」」」
蟹男は懐かしい味に舌鼓をうち、ミクロは貪るように食べる。 マルトエスは麺を据えず苦戦している。
その様子を鮫島が微笑ましく見守っていた。
「やっぱそうなるっすよね、初めは」
虹色ダンジョンが発見された時の冒険者もそうだったのだろう。 食とは素晴らしい娯楽だ。 しかしそこに命まで掛けられるかと言われればそうではなく、結局不人気となってしまった。
「だから不人気ではあるんすけど、休日に遊びに来る冒険者もなんだかんだいるみたいす」
鮫島の話を聞きながら、蟹男はダンジョンを敬遠していたことを少し後悔していた。
ダンジョンはただ危険で、アイテムもマーケットで買えばいいからと興味が湧かなかった。
しかしこんなに愉快なものであるなら、旅から帰ったらダンジョン探索もしてみたい。
(帰ったらダンジョン探索してみるか……ミクロが喜びそうだし)
「「「ご馳走さまでした」」」
「さて、ミクロ。 もっと戦いたいか!」
「戦いたい!」
「よし、じゃあ今日は戦いまくるぞ!」
「私も参加いたします」
蟹男は珍しくミクロを煽って、先に進むのだった。
それから何度かモンスターと戦い、車両の最後尾まできた。
『次は~○○駅~』
そんなアナウンスと共に電車が停止し、扉が開く。
電車を降りて無人の駅を出てすぐに商店街だ。 本来駅前はバスターミナルがあったはずだが、その辺はめちゃくちゃのようだ。
「ところどころ変な感じだ」
「ダンジョンすから。 まあ夢の世界みたいなもんす」
「あちらにモンスターの反応があります」
「よし、じゃあ行くか」
「寄り道のつもりだったんだけど、夢中になりすぎた」
ダンジョンから出た蟹男は薄暗い空を見上げて呟いた。
「楽しかったなら良かったっす」
「付き合わせて申し訳ない」
「全然いいっすよ。 恩返しですから」
もう手に入らないと思っていた品を前に蟹男のテンションが振りきれていた。 マルトエスも変わったダンジョンと珍しいドロップアイテムに夢中だったため、ストッパーがいなかったのだ。
「外で暮らしてるって本当だったんすね。 彼女の強さを目の当たりにしてようやく納得できたっす」
「疑ってたのかよ」
「はい、だってついこないだまで戦ったことのない人間が、サバイバルより過酷な環境で生きられるわけないと思うじゃないすか」
確かに、と蟹男はうなずいた。
蟹男も自分のような人間を見たら正気じゃないと思うだろう。
「ともかく今日はここまでっすね。 急いで野営の準備を……?」
「いや俺たちは大丈夫。 明日の朝、八時集合で良いか?」
「はあ、それはいいっすけど……わざわざ別の場所に野営するんすか? 一緒の方が安全すよ」
蟹男は第二拠点への扉を開きながら言った。
「俺たちは家に帰るから」
返事も聞かずに蟹男は仲間の二人を連れて、開いた空間の奥へと消えていった。
「えぇ……えぇ?」
残された鮫島は一瞬の出来事に困惑するが、本人なしでは考えても仕方ないと割り切ってとりあえず野営の準備を進めるのだった。
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