第29話:近況報告/ご招待
「みんな大丈夫そうで良かったよ」
「あなたのおかげよ、本当にありがとう」
まだほんのり赤い顔をしながらアリスが言った。
「そういえば他の連中、今日はいないの?」
「由来さんとカルロスはーー」
以前いたメンバーはそれぞれ就職して、安全な街中で暮らしいるようだ。
「それよりそっちはどうしてるのよ?」
「どうって相変わらず気ままに暮らしいるよ。 今はたまたま知り合いと南東京に来てるけど」
「そう、人里も悪くないでしょう?」
「悪くないけど、まるで仙人みたいな扱いはやめてくれ! あ、そういえば冒険者にもなったんだぜ」
蟹男が見せびらかすように冒険者証を取り出すと、アリスは大げさに驚いてみせた。
「ええ?! 良くなろうと思ったわね、組織に属するなんてあなたが一番嫌がりそうなことなのに……」
「買い物がしたくて、仕方なく」
「ああ、そういうことなら納得」
Fマネーなんてものが存在しなければ蟹男が冒険者になることはなかっただろう。 とはいえ便利ではあるし、後悔はしていないが。
「まあ意外と面倒もないみたいだし」
「そんなことないわよ……これからよ、これから」
アリスは実感のこもった言葉に、蟹男は表情をひきつらせた。
「会長っ!」
「……私はもう生徒会長じゃないのだけど……どうしたの光?」
「これを」
豚面モンスターを調べていた大場光はひどく焦った様子で、発見物をアリスに見せた。
「これは……耳飾り?」
「はい、魔法耐性効果のある魔道具ですっ。 しかも効果は光耐性……」
「ただでさえ珍しい効果、そもそもモンスターが魔道具を身に付けているなんて聞いたことがない……殺した冒険者のもの? いえ、これは」
不穏な空気が漂うが、蟹男は自身は関係ないと帰ろうとするが、
「じゃあ俺はこの辺で」
「あの! お久しぶりです!」
いつぞやの勇者くんに声を掛けられてしまった。 彼は背負っていた剣を下ろして、蟹男に渡す。
「今まで貸していただいてありがとうございました!」
「……!」
蟹男は少し考えて、そんなこともあったなと思い出した。 とはいえ剣など蟹男には使えぬ長物である。
「使い心地どうだった?」
「最高でした! これがなければ死んでいたかもしれない場面がいくつもあったくらい」
「そんなに気にいってるなら、あげるよ」
「えええ、こんな良いものそんな」
「あ、いらなかった?」
「いいいいりますっ!!」
「じゃあどうぞ」
ダンジョン産の魔道具は高額で取引されていることを、結城は蟹男よりも理解しているのだろう。 恐縮しきりだが、小金持ちでありマーケットでいつでも調達できる蟹男としては恩に着せることでもないがーー
「気にしなくていいから。 まあ、なんかあったら助けてね」
「はい! どこでも駆けつけます!」
何があるか分からないこんな世の中だ、保険はいくらかあってもいい。
「ところでこの後のことだけど、どうするかしら? 自前の移動手段があるのでしょう? もちろん必要であれば用意するけれど」
「……自前で帰るよ」
蟹男はアリスにスキルについて話したことはないけれど、以前行動を共にした時のことを覚えていたらしい。
「助けてもらっておいてなんなのだけど、私たちも一緒に連れて行ってもらえないかしら?」
「うーん」
単純に楽したいのか、それとも先ほど話していた不穏な会話が関係しているのか。
今更アリスたちに対して、隠す必要もないかもしれない。
「いいけど」
「ほんと?! 言ってみるものね!」
「お礼に何をしてくれる?」
蟹男にはアリスたちにしてほしいことなど、特にはない。
アリスは一見リーダーシップがあって、かっこいい系女子だが蟹男にとってはなぜか意地悪したくなってしまう対象であった。
***
危機一髪な状況を救ってくれた、山河蟹男は以前と変わっていなかった。
「面倒だから色々聞くのはなしね」
蟹男がそう言って宙空に鍵を刺すと、空間が歪んだ。
「ようこそ、俺の楽園へ」
気負いなく入っていく蟹男に、アリスたちも続く。
(この境界を超える感覚……ダンじょっ?!)
違和感を感じつつ、入ったその先。
優しい風が吹く。
抜けるような空に、太陽。 広がる草原。
「な、に……ここ」
これはスキルによる空間なのか、それとも魔道具なのか分からない。
けれど、
「なるほど、こりゃあ人里に下りないわけだ」
アリスは蟹男の行動理由にようやく納得した。
そしてこの後、またどんなとんでもがあるのかと、アリスは湧き立つ心のままに軽やかに足を踏み出すのであった。
***
終
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
これにて二章は終わりとなります。
たくさんの応援、評価ありがとうございます。
追って読んでくださっているフォロワーの方ありがとうございます。
閑話を挟んで、三章投稿していきますので引き続き楽しんでいただけるよう執筆していきます。
なおフォロー、または小説トップ下部の⊕マークより評価していただけますと大変嬉しいです。
今後ともよろしくお願いいたします!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます