第38話:ハイな二人/作戦開始
「これちゃんと食べれるやつですよね……?」
久しぶりに会った
「ああ、大丈夫! すでに俺が毒味した!」
「なんか山河さん……テンション高くないですか?」
「副作用で全能感を感じているそうです」
「それヤバイやつじゃないですか! やっぱりーー」
知り合いが見れば蟹男の様子が可笑しいことは分かる。 それが覚醒の果実の副作用だと聞かされれば、誰だって断るだろう。
しかし結城をじっと見つめる蟹男の表情はーーえ、約束破るの? 勇者なのに?ーーと書かれているようであった。
「ーーっ……分かりましたよっ! 食べますっ食べればいいんでしょうっ!」
結城はヤケクソにそう言って、覚醒の果実にかじりついた。
そして、
「ああ、力が満ちてくる」
「ああ、ああ、分かるぞ同士よ」
「今ならなんでもできる気がしますよ、ハハハ」
「よーし、じゃあいっちょドラゴンでも狩りに行こうか!」
「いいですね! お供します!」
自信に満ちた表情の結城は蟹男と拳をぶつけ合った。
「ねえ、本当に大丈夫なのよね……?」
「ええ、きっと、おそらく?」
「えぇ、不安でしかないんだけど」
結城についてきたアリスに、マルトエスは全く断言することができなかった。
そのせいでアリスは不安そうに、しかし怖いモノには触れないでおこうとするかのように、彼らと少し距離を取るのだった。
「実際成功しそうなの?」
銭湯近くで作戦の最終確認をする蟹男を横目で見ながら、アリスはマルトエスに尋ねた。
「……可能性はあると思います」
「可能性、か」
ここにいるメンツでまともな判断を現状下せるのはマルトエスだけだ。
彼女が言うのだから、本当に可能性はあるのだろう。
戦闘に危険はつきまとう。 それでも結城のパーティーメンバーとしてアリスは言わずにいられなかった。
「もしも結城に何かあったら、許さないから」
「……」
「まあさすがに逃げ道は用意してると思うんだけど……してるわよね?」
「そこはもちろん。 信用してもらって大丈夫ですよ」
「そう」
全能感に溢れている蟹男をあの手この手で説得した記憶が蘇ったマルトエスは疲れたように息を吐いた。
その様子に何かを察したアリスはマルトエスの肩を慰めるように叩いて、思いついたようにスマホを取り出した。
「ねえ、これで戦闘の様子を撮影させてもらっていい?」
「あ、いえそれは」
「山河さんはもちろん嫌がるでしょうね。 だけどこれくらいいいじゃない? うちは大事な前衛を持ってかれて、あなたも色々苦労してるんでしょう? ちょっとした仕返しよ」
「……私は何も知りませんし、何も聞いておりません。 これが精いっぱいです」
「そう、ありがとね」
アリスの説得に心中強く同意しかなかったマルトエスは悩みつつもそう言って瞳を閉じた。
「おーい、集まってくれ! そろそろ始めるから!」
蟹男はそう言ってアイテムボックスからヘリコプターを取り出して言った。
「山河さん!? こんなのどこで手に入れたんですか?!」
「というか運転できるのかしら……?」
ここにきて未だ作戦を聞かされていない結城とアリスが驚いた表情に満足したのか、蟹男はにやりと笑ってマルトエスを指した。
「運転は彼女がします!」
「一応、マニュアルは確認しました」
「……結城くん、今からでもこの話断らない?」
「何を言っているんですかアリスさん! ドラゴン討伐の栄誉が目の前に転がってるのに見過ごすなんて、バカのすることですよ?」
アリスはこいつらまともじゃないという顔を一瞬して、諦めたようにため息を吐いた。
「で、作戦は?」
「おお! 忘れてた!」
「このおっちょこっちょいさんめ!」
「……」
「……」
こいつらうぜえ、アリスとマルトエスの心の声がはもる。
「作戦は単純! 俺が空から攻撃して、隙を作るから結城くんが全力で攻撃するだけ!」
「おお、天才ですか?!」
一応作戦を聞いたうえで、可能性アリと判断したマルトエスだった。 しかし蟹男を見ていると、本当に大丈夫だろうか、と不安が増していくのだった。
「作戦開始だ! みんな配置につけ!」
そう宣言して、蟹男とマルトエスはヘリコプターに乗り込んだ。
「あれ? あなたは?」
蟹男にやたら懐いていた獣耳の少女ミクロは残ったままだ。
「私は別の任務を任された」
ミクロは背負ったリュックを揺らして言った。
***
ーー悔しい
ミクロはアリスと結城に作戦の詳細を話ながらの道中でそう思った。
自分は召喚獣だ。 それも戦闘を期待されて買われた。
それしか取り柄もないのに、今回メインを結城に奪われたようで悔しく思っていたのだ。
(もっと強くなりたい……でも主は戦いが嫌いだ)
ミクロは蟹男の気持ちを無視してまで、自分の欲を満たそうとは思わない。
それにミクロは蟹男とだらだら過ごす時間も大好きだった。
けれど肝心な時に役に立てていない、だったらどうすれば良かったのか、これからするべきなのか、ミクロはぐちゃぐちゃした考えを一旦振り払おうと頭を振った。
そして結城を睨みつけた。
「負けない」
「?」
今までは獣人の本能からくる戦闘欲だけだった。 しかし今は誰かの、蟹男のためにもっと強くなりたいとミクロは感じていた。
それは似ているようで、全く違う感覚だ。
とりあえずミクロは結城をライバルとしてロックオンするのだった。
「私がこれを使いながら、撹乱しつつダメージを与える」
ミクロはリュックからダイナマイトを取り出して言った。
「それで飛んだら主がドラゴンを地面に落とすから……お前が剣で切る。 じゃ、いってくる」
ミクロは必要なことだけ伝えて、凄まじい速度でドラゴンへ突っ込んでいくのだった。
***
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