第39話:上空から/正義の光
「いや~風が気持ちいいよ。 なあ?」
無事上空へ飛びあがったヘリコプターの窓を開けて、風に吹かれながら蟹男は楽し気に言った。
しかしマルトエスは慣れない運転で、返事をするどころではない。
「おー、ミクロが動き出したぞ」
ドラゴンは銭湯だった建物の上で、丸くなって眠っているように見えた。
作戦はまず、建物内にミクロが侵入し、ダイナマイトを点火。
そして目覚めたドラゴンと戦闘を行う。
爆発によってダメージが与えられたらラッキーくらいが第一段階だ。
ーードン
ーードドドドドドドンドンッ
ミクロが建物から離脱する様子が見えた途端に、彼女の点火したダイナマイトが連鎖的に爆発した。
ーーGYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA
目論見通り建物は崩れ、爆発によって目覚めたドラゴンが咆哮した。
ビリビリと、鼓膜が破けそうな大音量は根源的な恐怖を蟹男に感じさせる。
覚醒していなかったら気絶してたかもしれない。
しかしミクロは果敢にも稲妻をまといながらドラゴンへ攻撃を加えていく。
「あいつホント怖いモノ知らずだな」
「そんなことないですよ。 獣人は戦闘勘に優れた種族ですから、この場で誰よりもドラゴンの強さを感じているのはあの子でしょうね」
「そっか、こりゃあ失敗できないね」
蟹男はより一層気合を入れて、次の作戦へ移るタイミングをうかがった。
スピードでドラゴンを翻弄するミクロだが、攻撃が致命的なダメージを与えている様子はない。
しかしドラゴンはミクロを振り払おうと、翼を広げて羽ばたいた。
「来た!」
「はい!」
マルトエスが即座に旋回し、ドラゴンの真上に陣取った。
そして蟹男は眼下に向けて手をかざし、アイテムボックスから高層ビルを取り出した。
ーーズズズズズズ
凄まじい質量と、それに伴う重力による一撃がドラゴンに襲いかかる。
勢いがなくとも、当たればファンタジーの最強と
ーーGYAAAAAOOOOOOOAAAAAAAaaaaaaaa
「直撃です!」
地面にビルと共に墜落したドラゴンを見て蟹男はガッツポーズするが、
ーーGYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA
未だ息のあるドラゴンが煙を咆哮で吹き飛ばした。
「それじゃあもう一度だ」
「はい……!?」
ドラゴンの羽ばたきにより発生した強風により、ヘリが吹き飛ばされた。
マルトエスがなんとか立て直そうと必死に操縦するが、その度にドラゴンは羽ばたいて風を起こす。
「近づけません! どうしますか?!」
「なら仕方ない」
「何をしてるんですか?!」
蟹男は揺れるヘリの上でパラシュートを体に取り付けて言った。
「行ってくる!」
「どこに……ってぇぇぇぇええええ?!」
蟹男戸惑いもなく空へと身を投げた。
そして弾丸のような体勢でドラゴンに突っ込みながら、手をかざす。
ドラゴンは獲物を追うようにヘリコプターを見つめ、獲物を捕らえるために羽ばたいた。
「堕ちろ、最強」
空中にぶわりと浮かび上がったドラゴンに向けて、蟹男がアイテムボックスを解放。
高層ビル群がドラゴンに襲いかかった。
ーーGYAOOOAOA…………
ビルに押し潰されたドラゴンの動きが止まった。
「結城くん! 頼む!」
蟹男はパラシュートを開きながら、次の作戦の成功を祈るのだった。
※※※
「すごい」
呟いたのはアリスか結城か。
地上から見たその戦闘は今までのモンスター退治とはスケールが違った。
もはやモンスターというより、怪獣対戦だ。
「結城くん、出番みたいよ」
「はい! 行ってきます!」
スマホで撮影しながらアリスは結城を見送った。
ここまできて危ないから、と引き返させることはもはや不可能だ。 成功を祈るしかない。
そしてアリスもその光景を見たいと思ってしまっている。
「私も……って何を考えてるのよ」
ーー私も戦いたい
アリスは戦闘が好きではない。
ただ生きることに必要だから、仕方なくしているに過ぎない。
けれど伝わる振動に共鳴するように、体が、心が震えるのだ。
私も彼らと戦いたい、と。
遠くで勇気の光が輝いた。
「勝って」
アリスは見守ることしかできない。 ただの観戦者ーー今は、まだ。
戦いと願うなら、いつだって、誰にでも舞台は用意されている。 アリスの心が燃え続けるのなら、それが叶うこともあるだろう。
どう考えても射程外の距離で結城は足を止めた。
深く息を吐いて、スキルを発動した。 すると体から金色のオーラが立ち上ぼり始めた。
「こないだオークキングに負けたばかりなのに、可笑しいな……負ける気がしないんだ」
振り上げた剣に宿るのは正義の暴力。
善も悪も、全てを断ち切る勇者の極致ーー
「エクスカリバー」
囁きと共に振り下ろされる一刀。
世界は光に包まれた。
※※※
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