第37話:大放出/噂/交渉



 山河商店は所謂、ネットショップのようなものである。 ただし商品は購入と同時に、専用のストレージから取り出すことが可能だ。


「仕入れに行くぞ! お前ら付いてこい!」

「おおー!」

「お前ら……」


 さっそく山河商店で扱う商品を探すため、蟹男はマーケットへ向かった。


 扱う商品はこれといって決まったものはない。 蟹男は需要のありそうなものをひたすら仕入れて、安値で販売するつもりだった。


 儲けが出ないというのは、商人としてはあるまじき行動であるが、蟹男はそもそも金儲けをしたいわけではない。 これは名を売るための行為なのだ。


「これください! これ、これとこれも」

「あんた……戦争でもするのかい?」


 大量の武器、防具を買いあさった蟹男に店主の男が訝し気に尋ねた。


「いや、ただのドラゴン狩りだよ」


 とはいえ素直に武器で戦うつもりはない。


「そんなに武器を買って……一体どうするつもりなんですか?」

「これは撒き餌だ」


 蟹男はそう言って山河商店に続々とマーケットで買いあさった商品を登録していく。


『炎の剣 100F』


『雷の剣 100F』


『ポーション 100F』


『ミスリルの盾 100F』


 ファンタジー味溢れた商品は出品からじわじわと売れていった。


「さて次は勇者くんに会いに行く」


 蟹男はそう言ってスマホを取り出した。



***


 新機能?山河商店について語るスレーー



1:名無しの冒険者:

地球が再びアップデートされましたよっと


2:名無しの冒険者:

山河ってどう考えても日本人なわけだが

スキルか何か?


3:名無しの冒険者:

日本中に影響を与えるスキルとかチートだろ


4:名無しの冒険者:

商店で無双はできないけどな


5:名無しの冒険者:

なら許す


6:名無しの冒険者:

誰か買ってみた人いる?

まるでゲーム内のショップ


7:名無しの冒険者:

いや触ってすらない


8:名無しの冒険者:

同じく


9:名無しの冒険者:

リアルでは慎重なスレ民たちなのであった


10:名無しの冒険者:

「売り切れごめん」「現在大放出中」


『画像』


乗り遅れると後悔するぞ


11:名無しの冒険者:

ナニコレ


12:名無しの冒険者:

剣?本物?


13:名無しの冒険者:

炎の剣だってさ

魔力を流すと炎が出るという普通の魔剣が、なんと今なら100Fで買えました

他にもポーションとか、見たことのない道具もたくさん売ってる


14:名無しの冒険者:

まじかよ


15:名無しの冒険者:

くそ、魔剣売り切れてた


16:名無しの冒険者:

俺も間に合わなかった

というかこんなに大量にダンジョンドロップ安価で売り出すとか、こいつ何者?


17:名無しの冒険者:

運営的な?


18:名無しの冒険者:

この世界は実はゲームだったのですってか

もしくは神的な?


19:名無しの冒険者:

なんにせよ、また時代が変わるぞ



***



「ああ、結城くん? 山河ですけど」


 蟹男はミクロのスマホを借りて、結城に電話していた。


 自分のスマホでは結局電波が安定しないのだ。 自分用に冒険者仕様の高性能なスマホを買ってもいいが、滅多に人と連絡を取ることも無いのでイマイチ買う気になれない。


『はい、お久しぶりです。 山河さん』

『え? 山河さん? それはまた珍しくタイムリーな』


 いつものメンツと一緒にいるのだろう、受話器から聞いたことのある声が聞えてきた。


『どうしたんですか? 実はこちらからも連絡しようと思っていたところで』

「結城くん、力を貸して欲しいんだ」

『え、あはい。 いいですけど』

「まだ何も言ってないけど」

『山河さんにはいつも助けられてばかりですし、信用してますから』


 おそらく結城は断らないと蟹男は思っていた。 しかしここまで純粋に信頼を寄せられると、逆に無茶を頼みずらい。


「ありがとう。 それじゃあ期間は一週間くらいかな? えっと以前会ったホームセンター近くの銭湯分かる?」

『ああ、はい。 大丈夫です、分かります。 遠くないので一日かからないで行けますよ』

「それは良かった」

『それで何をするんですか?』

「ああ、それはーー」

『え?』

「ドラゴン討伐だよ、ドラゴン」

『はいいいいい?』

「じゃ、よろしく~」


 蟹男は通話を切って、サムズアップして言った。


「勇者確保!」

「なにやら悲鳴が聞こえてましたが……?」

「さて最後に必要なピースを取りに行くか」


 蟹男は商談の募集への通知を確認して笑った。


『ヘリコプターとダイナマイトの用意が可能です。ぜひ一度お話を聞かせていただきたく思います』



***



「総理良かったのですか?」

「ああ」

「また世間から叩かれますぞ。 個人と兵器を使った取引を行うなど」


 総理はため息を吐いて、疲れたように笑った。


「構わない。 その代わり我々が得たものは大きい」

「……確かに、それはそうですが」


 テーブルの上に置かれた大量の薬品や道具、植物まで雑多な品を見て男は頷く。


「私はもう若くない。 正直、この世界の変化に未だついてけているとは言い難い。 総理としてあるまじきことだが」

「いえ、その」

「だが手をこまねいていては、落ちるだけであることだけは分かる。 前進できればいい、後退してもいい。 ただ停滞は緩やかな死だ」

「……私は最後まで付き合いますよ」


 かつてはたくさんの大臣が座っていた席は、ほとんどが空席だ。


 残る男と総理は日本の未来を憂いながら、無力感に苛まれながらもあがき続けていた。



***











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