第25話:Gランクのポーター
ミクロと二人で待ち合わせのギルドへ入っていく。 マルトエスと鮫島たちとは別行動だ。
「よろしくお願いします」
「よろしくーって二人?」
「お気になさらず、彼女はただの付き添いなので」
快活そうな少女が首を傾げるが、蟹男はフードを被ったミクロの頭に手を置いて言った。
「まあいっかー」
「料金は一人分ですよ?」
「はい、大丈夫です」
しっかり者のまとめ役といった感じの少年に念を押されつつ、さっそく蟹男は簡単な説明を受けつつダンジョンへ向かう。
「今日は五階層まで行きます。 こちらも気を配りますが、警戒をお願いします。 何かあれば大声で知らせてください」
街の頂点まで船を使って移動する。
上層は冒険者の街といった雰囲気で、武器屋や道具屋、歓楽街が広がっていた。
街の頂点にある扉を開けて、蟹男は少年たちに続いてダンジョンへ入っていく。
「暗い……」
「すぐに灯りをつけます」
薄暗いダンジョン内をカンテラの光が照らし出す。 そこは洞窟の中のような、四方を土壁に囲われた空間だった。
「普通にダンジョンだ」
「普通だー!」
「?……ダンジョンは大抵こんなもんですよ。 他に見たことが?」
「虹色ダンジョンだけ行ったことがあるんです」
「えぇ……なんでよりにもよって虹……?」
ここがダンジョンとして基本の姿なら、以前虹色ダンジョンが発見された時、冒険者たちがどれだけ期待したのかは想像にかたくない。
「美味しいダンジョンだったー!」
「分かるー! 私も大好き! また行きたい!」
「ダメダメ。 生活かかってるんだから、行くならプライベートで!」
ミクロの言葉に乗っかった少女は、少年にたしなめられて唇を尖らせた。
「ぶー」
「ぶーぶー!」
ワイワイと騒ぎながらダンジョン二階層を進んでいく。 蟹男はもっと静かに音を立てずに探索が行われるものと思っていたので、これでいいのだろうかと少年に尋ねた。
「あー普通はそうです。 でも今日はいいんですよ、むしろおびき寄せてるんで」
そうこう言ってるうちに、ワラワラとモンスターが現れる。
「じゃあ戦いながら進むので付いてきてください! 山河さんはゆっくりでいいので、ドロップを拾ってください!」
しっかり者かと思いきや、モンスターの大群を前に穏やかに笑う少年は普通じゃないと蟹男は認識を改めるのだった。
***
「ねえあの人、何の職業なんだろね」
少女が後方でドロップを拾う男を見て言った。
職業という機能が人類に追加されてから半年も経つが、彼女はアイテムボックスらしきスキルを使える人間は初めて会った。
「分かんない。 それにあの付き添いの子も変わってる」
「フードの隙間からちらっと見えたけど、猫耳ついてたよ……コスプレだよね?」
「いい動きをしている。 見どころがあるな、うむ」
フードを被った少女は戦いに参加はしていないものの、動きや時々みせる警戒するような仕草は戦い慣れしている人間の動きに見えた。 対して男は戦士系の職業ではないことは一見して分かる動きをしていた。
魔法使いか?
それとも生産系?
職業に関する情報はネットを介して積極的に行われているが、非戦闘系に就くものは少なく情報はあまりない。
そもそも選択できる職業は人によって違うらしいので、男だけが選択できる職業である可能性もあった。
「知りたいにゃー」
「さすがに初対面はマナー違反すぎるよ」
「じゃあ仲間にしちゃう?」
少女の提案に少年は頭を悩ませながら弓を引く。
そのスキルがアイテムボックスに類するものであれば、Gランクであっても有益さは計り知れない。
「彼を仲間にしよう」
少年の言葉に仲間たちは戦いながら頷き賛成した。
Cランクから上に上がるために、ダンジョンを攻略して世界を元に戻すために、少年は彼の力が必要だと判断した。
そんな会話がなされているとは知らず男は、
(冒険者さんすげー)
などと呑気に考えながらせっせと仕事をこなしているのだった。
***
「よし、ここで一旦休憩しよう」
二階層、三階層とさくさく進み、四階層の手前で少年が言った。
「わーい、ごはん! ごはん!」
「どうせ味気ない携帯食なのに、よくそんな楽しみにできるもんね」
「完全に同意だけどー、だからこそ気分だけでも上げたいじゃん?」
「なるほどね」
彼らは各々地べたに座り、携帯食ーーバー状の何かーーををもさもさと食べ始めた。 蟹男は携帯食の持ち合わせがない。 食べ物はもちろんあるが、変に目立つのは嫌だった。
「主~お腹空いた~ミクロ頑張った! がんばったよ!」
しかし嬉しそうにアピールするミクロに飯抜きで、なんて蟹男はとても言えない。
「……えらいえらい。 はい、食べな」
蟹男とミクロは虹色ダンジョンで手に入れたクリスタルを砕く。
すると暴力的な匂いがダンジョンに広がった。
クリスタルは見た目では何が出てくるかは分からない。 蟹男は焼き肉屋の定食セット、ミクロは海鮮丼だった。
「……!」
「交換する?」
「うん!!」
じっと見つめてくるので蟹男が差し出すと、ミクロは嬉しそうに笑って頷いた。
「「「「……」」」」
しかし強い視線はまだ感じている。
依頼者の少年たちが心底羨ましそうに料理を見つめていた。
「ねえ、今度虹ダンジョン行かない?」
「そうだね……」
めちゃくちゃ気まずい中、蟹男たちは食事を終えた。 ミクロは全く気にしていないのか、余韻に浸っていて幸せそうである。
(そんな食べたいなら一言言ってくれ!)
蟹男は心の中でそう思いつつ、しかし自分から誘うのもなんか違うしと、一人葛藤するのだった。
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