第2章~ダンジョン時代と勇者パーティー~
第18話:噂の勇者様/半年後
***
ここは冒険者ギルド、東京西支部。
ギルドといってもファンタジーのように、荒くれ者がうろつく場所ではなく役所のような雰囲気だ。
受付の順番を待つ、二人組はこそこそと噂話をする。
「聞いたか? 勇者様が来るんだってよ」
「ああ。 商店街に住み着いたオークの群れの仕事だろ? 東の平和ボケが本当にできるのかねえ?」
「さあ、死ぬんじゃね?」
「かもなー。 まあどうでもいいけど」
世界変革より半年が経った。
人々も今の生活に順応し、新しい社会が形成されつつあった。
その一つが、モンスターを討伐しダンジョンを攻略する自由戦士の組織である冒険者ギルドの誕生である。
「たっのもーっ」
ギルドの扉から快活な少女、
続くのは槍を背負った少女、
白い杖を携えた少女、
そして自信に満ちた表情をした剣士風の少年、
「日向結城です」
「お待ちしておりました。 奥へどうぞ」
特別対応で通される勇者一行を見送って、その様子を見ていた二人組は顔を見合わせる。
「思ったより若かかったなー」
「そだな」
「つうかお前見てるの?」
片方の冒険者がスマホを覗くと、そこには人気ユーチュー〇ーの動画が流れていた。
「ドラゴン退治ってまじ? すげー」
「俺とは住む世界が違うわ」
「賭けるか?」
「「死ぬに一票」」
二人は顔を見合わせて楽し気に笑うのだった。
***
「みんなおはよ~」
ーーモウモウ
ーーコケコケ
寝ぐせを付けたままの蟹男が声を掛けると、お腹を空かせた家畜たちが騒ぐ。
「相変わらずでっかいなー」
牛の背中を撫でて、バケツに乳をしぼっていく。
そして鶏のゲージから卵を拝借する。
これが最近の蟹男のルーティンとなっていた。
牛も鶏もただの動物ではない。
マーケットで購入した飼い慣らされたモンスターであるから、扱いは気を付けなければならない。
「取ってきた。 調理頼む」
「ありがとうございます」
エプロンを着けたマルトエスに蟹男は食材を渡して、椅子に座る。
隣に座るミクロはなにやら熱心にスマホを見つめていた。
「何見てるの?」
「ドラゴン! 私も戦いたいなあ……」
『今回の討伐チャレンジはーー』
『東京東地区に住み着いていると噂のドラゴンです!』
『温泉の上にいるんだって』
『じゃあさくっと倒してひとっ風呂浴びてくかー』
おねだりする視線を見ないようにしながら、蟹男は動画の行く末を眺める。
『GYAAAAAAAAAAAAAAAAA』
『うわ無理無理』
『逃げろ! 今回はまじでやばい!』
『おいおいおいそれってまさか』
逃げながらもドラゴンを映し続けるのは動画投稿者の鏡といえる。
ドラゴンの口の奥が輝き、口が開かれた。
ーーひゅん
画面が一瞬明滅した直後、動画が途切れた。
「ブレス……?」
「ね、ね! ねーえってば」
「行かない、絶対」
「えー」
「できましたよ」
目玉焼きに、トースト、ミルクティー、肉ばかりの以前から食事事情はかなり改善されていた。
「ところで主様」
「うん」
「町にはいつ連れて行ってくれるのですか?」
「ええ」
「町に行きたいです」
マルトエスはずっと町に行きたがっていた。 しかし蟹男の気分がどうしても進まず、色々言い訳をして先伸ばしていた。
アリスたちの避難区への旅に同行した時も、なんだか殺伐としていたし、面倒ごとがある気しかしない。
「町に行きたいです。 お願いします」
マルトエスはシャツのボタンを一つ外して、谷間を見せつけるように腕を組んだ。
「……わかったよ」
「ありがとうございます」
「ドラゴンはー?」
「ダメ」
「ええ~」
男とは単純で愚かな生き物である。
しかし蟹男に後悔はなかった。
「あいつら元気にしてるかな」
今となっては懐かしい顔ぶれを想い出し、蟹男は呟くのであった。
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