第27話:念願の/救援
「はい、これ。 マルトエスと二人で使ってな」
「やっふぃー!」
依頼を終え晴れて冒険者となった蟹男は、新品のスマホをミクロへ渡した。
「そんな嬉しいのか……意外と現代っ子だなあ」
「主様、ありがとうございます」
「まあまあいつも頑張ってくれてるからさ」
蟹男としては金には困ってないし、色々と見られては困るデータもあるので、買ってしまった方が安心なのだ。
「じゃあ今日は……一日のんびりしようか」
「ん……」
ミクロが完全にスマホに夢中なため、蟹男は適当な喫茶店に入ることにする。
「俺はカフェオレにしようかな。 みんなは?」
「では私も同じものを」
「おごりっすか?! なら同じものでお願いするっす!」
「……」
「おーい、ミクロー? 聞いてるかぁ?」
「……んー」
ミクロの曖昧な返事に、蟹男は強硬手段でミクロからスマホを取り上げた。
「ああー……にゃあん」
「そんな甘えた声出してもダメ。 で、どうするの?」
「ごめんなさい、ブラックで」
「えぇ……? 苦いよ? 大丈夫?」
「ブラックはかっこいい。 ハードボイルド」
「どこで覚えたんだ、そんなこと……」
以前と全く同じような食事とはいえないまでも、復興はかなり進んでいるようだ。
「美味い……というか牛乳なんてあるんだな」
「さすがに粉ミルクっすけどね。 それでもわりと高級品すよ」
確かにお昼の店としてはかき入れ時なのに、店内はわりと閑散としている。
「ところでお二人は冒険者登録しなかったんすね?」
「うん、まあ」
マルトエスとミクロの冒険者登録をしなかった理由は、蟹男にとってFカードのシステムは未知だ。 読み取る魔力によって二人が異世界人であることがバレたら、どうなるのか分からない。
限りなく低い確率、妄想にも等しい考えだが、もしも捕まって実験動物のようになってしまったらと思うと怖いのだ。
「あ~聞かない方がいい感じっすね。 了解っす」
「まあ、俺が登録してれば不便はないからね」
「この後どうするっすか?」
「うーん、特にやりたいことはもうないな。 どうしよう?」
「なら適当にーー」
鮫島が言いかけた時、蟹男の視界にまるでゲーム内のメッセージのようなホログラムが浮かび上がった。
『フレンド加賀アリスから救援要請です』
『受諾しますか? はい/いいえ』
「なんだこれ……?」
***
「まさかこんなことになるなんてね」
加賀アリスはオークの群れを前に笑うしかなかった。
「ハメられたわ」
事前に聞いていた依頼の状況と全く違うのだ。
アリスたちは『オークの群れ』と聞いていた。 しかし実際は、
「集落の中にオークキングを確認っ」
「群れというか、そうなるともはや国ね……どうするリーダー?」
問われた日向結城は背負っていた剣を鞘から抜いた。
「戦闘準備!」
「正気……?」
「選択肢なんてないですよ。 囲まれてます」
「そういうことね!」
勇者のスキルか何かなのか、レンジャーよりも先に結城は危機を察知していた。
「生きたければ勝つしかない……行きましょう!」
結城はそう言ってオークの集落へと侵入していく。
「エクスカリバー! エクスカリバー! エクスカリ……ばああああああ!」
オークの集落は壊滅していた。
しかしこれは勝利ではない。
まだオークキングが生きている。
「なんで……スキルが利かない……」
スキルには属性があり、モンスターの中には耐性を持つものが存在する。 そしてそれはモンスターの種族で統一されているものだ。
オークキングの耐性は打撃耐性のはずだった。
「まさか光耐性……?」
ニヤリと嗤ったオークキングの耳には見慣れぬイヤリングが光っている。
仲間たちは死んではいないが、地面に倒れていて戦える状態ではない。
藍が治療を施しているが、追い付いていない。
ーー敗北
ーー死ぬ
そんな言葉がちらついた結城はがむしゃらに突っ込んでいった。
「うおおおおおおお」
オークキングが拳を振り上げて結城を迎え撃つ。
ーードンッ
結城は主人公のような都合のよい覚醒はせず、呆気なく吹き飛ばされた。
「結城!? 結城っ結城っ!」
藍が悲鳴のような叫びで名前を呼んだ。
外の世界から生還した。
勇者と呼ばれた。
強くなったと思っていた。
「おれ、が」
ーー俺が守るから
結城の言葉は途切れ、完全に意識を失ってしまった。
万事休すだが、気絶からかすかに目覚めたアリスが呟き、一つのスキルを使う。
「間に合えば良いのだけど」
『救援要請をいたしました』
※※※
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