第68話:掲示板(D民)/ダンジョン構想
***
名無しのD民:
※D民=ダンジョンに住む民のこと
誹謗中傷はやめましょう
お住まいのダンジョンについて語り合うスレです
世界の行く末についてはスレ違いとなりますので、ご了承ください。
名無しのD民:
狭い!
住めるだけありがたいけど、全員大部屋で雑魚寝とか人嫌いの俺には辛すぎる
名無しのD民:
こっちなんて部屋もなし
名無しのD民:
もしかして外?
名無しのD民:
そうそう
まるで異世界物語の貧民街よ
名無しのD民:
強く生きろよ!
名無しのD民:
きしょうを探すのだ!
名無しのD民:
飯がまずい
本当にここで社会がちゃんと形成されるのか不安だ
名無しのD民:
避難先って選べるの?
名無しのD民:
まあ希望は出せる
見学はできないけど
名無しのD民:
一つだけ選べないところあったよな?
名無しのD民:
フロアネームが未登録のところだろ?
ただいま工事中です、みたいな?
名無しのD民:
三ヶ月で進展無しは草
名無しのD民:
フロア管理者がポイントを散財してるに1F
名無しのD民:
だとしたら、そいつは人類の敵だな
名無しのD民:
いや、ちゃんと準備しようと思ったらそれくらいかかるんじゃね?
名無しのD民:
でもモンスターは結局出るらしいじゃん
名無しのD民:
は?
全然安全じゃないじゃん
名無しのD民:
最初に説明があったはず
ダンジョンマスターの意思とは関係なくモンスターは出現するから、戦闘に貢献したらうんたらかんたらって
名無しのD民:
人類の未来は暗いなあ
***
蟹男はアリスから送られてきたダンジョンに関する資料を読んでいた。
ダンジョンにおいて魔物は、吸収し損ねた魔力が具現化したものらしい。
マスターの意思によってモンスターを増やすことはできるが、モンスターのいないダンジョンを作ることは不可能だ。
「それでダンジョンの特性はどうすることになってるの?」
「それがまだ決めかねているみたい。 素材を重視するか、安全か、はたまた食料か」
ダンジョンには様々な特性がある。
それはドロップであったり、モンスターの種類であったり。 虹色ダンジョンはドロップが特徴的であった。
ダンジョンマスターはその特性を指定することができるらしく、お偉いさん方はまだ迷っているようだ。
「今はとりあえずデフォルトみたい」
「虹色ダンジョンにできないか交渉してほしい。 またはドロップが日本産の物になるダンジョンとか」
蟹男は異世界の商人をここに呼ぼうと考えていた。 しかしモンスターの素材がドロップするような普通のダンジョンでは、商人は訪れないだろう。
あちらの世界にない、という付加価値が、旨味が必要なのだ。
「あなたの考えていることがなんとなく分かったわ……だけど何か、説得できる強い要素が欲しい」
「そもそも素材に寄せたところで買取は? 加工は?」
「……今はまだ難しいわ。 でもゆくゆくはできるようにしていかないと」
ダンジョンで暮らすに当たって、冒険者ギルドはほとんど機能していない。 故に素材に関しては、とりあえず選択肢としては弱いだろう。
しかし安全をうわ回る説得材料を出すのは難しい。
「正直、今は避難民を受け入れ始めたところだから無難に安全を取るべきという意見が強いと思うわ」
「だろうな。 でもそれはちょっとなぁ」
「何よ? 言いたいことがあるなら言ってよ」
「つまらなくないか?」
蟹男の飾らない言葉に、アリスは固まった。
「人類はダンジョンが現れたので生活を脅かされて、逃げた――
――また同じことを繰り返すの?
――逃げて、
――隠れて、
――とりあえず死ななないように、
――安全に、安全にってつまらなくない?」
自身の意見を通すための方便ではなく、蟹男の素直な気持ちだった。
安全を取ることも間違っていない。 けれど蟹男はどうせ環境が変わるなら、責任を負う立場になるのなら無茶苦茶でも、楽しい方へ向かっていたかった。
「ふ、ふふふぁあはは」
「……俺は真剣に話してるのに」
「ごめ、ふふ。 ふう、ごめんなさい。 別にバカにしたわけじゃないわ」
拗ねて鼻を鳴らす蟹男に、アリスは頷く。
「いい意味でバカだなって」
「ひでぇ……」
「よし! 決めた!」
アリスは清々しい笑みを浮かべた。
「安全は確かに大切だけど、楽しくなきゃこんな閉鎖的な空間で暮らすなんて無理よね! それにもう世界の変化に振り回されて、暗くなるのはこりごり」
「お、おう……」
自分より熱を持って語るアリスに蟹男は引き気味で返事を返しつつ頷いた。
「説得は任せて! そっちは計画進めてくれていいから!」
「それはありがたいけど、大丈夫なのか?」
「まあたまには私も頑張らないとね!」
さっそくアリスはスマホで通話をし始めた。
(なら信じてみますか)
ここで疑っては相手のやる気を削ぐだけだろう。
(そっちは頼んだ)
蟹男はジェスチャーでアリスに別れを告げて、マーケットへと向かうのだった。
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