第11話:ミクロの実力/にわか雨/探索班(結城)
「モンスター三体です」
次の日、マーケットへ行こうとしたらミクロが戦いたいと駄々をこねたので予定を変更。
今までは安全マージンを取って単独を相手にしていた。 見た目は成長したとはいえ、蟹男としては複数相手は不安が残る。
「じゃあ隠れてやり過ごそう」
「私やれるよ……信じて」
ミクロの真剣な表情に押され、蟹男は思わず頷いてしまう。
「ありがと」
彼女魅惑的に微笑んで、漫画みたいな加速でモンスターに突っ込んで行った。
肉体年齢と共に精神も成長したのか、ミクロの表情が豊かになったように見える。
「相手はゴブリンです。 何かあれば私もサポートに回りますから安心してください」
「……分かった」
現在ミクロは武器を装備していない。
素早い動きで相手を翻弄しつつ、引っ掻くだけでモンスターが切りつけられていく。 宙返りしながら腕を振るうと、透明の斬撃が飛んでモンスターの体を二つに裂いた。
「えぇ……強すぎない?」
「まだ準備運動といった様子ですけどね」
「えぇ……」
蟹男からしてみれば、もう君が主人公でいいよといった感じだが、マルトエスの様子から察するに異世界はとんでもない魔境なのかもしれない。
「もっと戦いたい!」
「無理してない? 大丈夫?」
「ぜんぜん余裕だよー!」
「そうなんだ……じゃあ次行こうか」
何度かの戦闘を終え、遠くの空が赤みを帯びてきた頃。 黒い雲がもくもくと、流れてきた。
「降りそうだな……っ」
ーーゴロロロ
蟹男が言ったそばから雷が落ち、続いてぽつりぽつりと雨が降り始めた。
「うわ、マジかよ」
すぐに雨はどしゃぶりとなり、三人はずぶ濡れになった。 マルトエスは不機嫌なのか真顔だが、ミクロは楽しそうに走り回っている。
「帰ろうか」
「はい……」
蟹男は鍵で扉を開き、拠点へ避難するのだった。
マーケットで持ち物を売り払ってしまった蟹男は着替えを持っていなかった。
特に文句を言われなかったため気にしなかったが、マルトエスとミクロは初めて出会った時と同じ服装だ。
二人とも白い長袖に、白いズボンを履いている。 それが濡れたせいで肌に張り付き、体の線がはっきりと分かってしまう。 蟹男が思わず横目で見ると、マルトエスは掻き抱くように体を隠そうとした。
「ああ、ごめん」
しかし彼女の巨乳が腕に潰され形を変えることにより、余計にエロさを増している。
「くしゅんっ気持ち悪い」
「こらこら、ここで脱ぐな!」
ミクロは蟹男の視線を気にしないのか、濡れた服を脱ごうとするので蟹男は慌てて止めた。
「ふ、服買ってくる!」
整った下乳が見えて、理性が飛びそうになった蟹男は返事も聞かずに逃げるようにマーケットへ転移するのだった。
***
「モンスターがいるっ。 隠れてやり過ごすよっ」
結城は物陰に隠れて息を潜めた。
アリスの呼びかけに集まった人員は四人ーー
ーーレンジャーの職業に就いた、生徒会元書記の
ーー元スーパー銭湯店員、
ーー元ホームセンター店員、カルロス
そこにアリスと結城を加えた総勢五人で行動している。
アリスの人望ならもっと多数になると結城は思っていた。
(まあモンスター怖いもんな)
結城はもっとモンスターとばかすこ戦う道中を想定していたため、安全ではあるけれど隠れてやり過ごす時間が退屈だった。
「どうですか?」
自分の前にしゃがむアリスは前方を注視したまま、口元に人差し指を立てた。
(こんなんじゃ日が暮れちゃうって)
結城は少々せっかちな性格であった。
彼がぼんやり目の前に突き出たアリスの形の良い臀部を眺めているうちに、モンスターは遠くへ行ったようで再び移動を再開する。
それを繰り返して、たどり着いたホームセンターは綺麗なままで一見モンスターもいないようだった。
「少し中を確認して、必要最低限の物資だけ補給しましょう」
「分かりました」
五人はホームセンターで食糧やソーラー式のライトや薪などをリュックに詰めて、スーパー銭湯を目指す。
「モンスターは建物には興味がないんですかね?」
「いや、他のところではモンスターが住み着いてしまった建物もあるみたい。 だから運が良かったんでしょうね」
「できればお風呂に入れたらいいですよね~?」
「体を拭くだけなのはそろそろ辛くなってきたよねっ」
口数が増えたのは安心からか、油断からか。
スーパー銭湯からあと少し、というところで光が足を止めた。
「……どうしたの、光?」
「……っ」
「光? 光?! 大丈夫?!」
光の顔は真っ青になっていた。 何か言おうとして、しかし言葉が出ないのか空を食うように口が動く。
「……今すぐ離れるっ。 訳はあとでっ」
返事も聞かずに光はアリスの腕を取って、無理やりその場が離れた。
「ねえ、どこまで行くの?」
「……」
「何があったの? あなたには何が見えたの?」
光の様子は誰が見たって尋常ではない。
良く見れば、足を止めた彼女の足は小刻みに震えていた。
「ドラゴン……銭湯の上で巨大なドラゴンが眠ってたっ」
ドラゴン、ファンタジーでは最強の存在だ。
そんなの人間にどうにかできるものなのだろうか、と結城は不安になった。
「そう」
アリスは悩むように眉間にしわを寄せて言った。
「このことはみんなには内緒にしましょう」
(もっと俺に力があれば……)
物語の主人公みたいな力があればアリスにそんな辛そうな顔をさせなくて済む。
口だけではなく藍だって守ってやれる。
結城はそういう存在になりたくて『勇者』になったはずだったのに、今はただ憧れの女性の周りをうろちょろするだけで、害はないが何の役にも立たない存在だ。
「……俺が全部なんとかしてみせるから」
「何か言った?」
「いや、なんでもないです」
結城は静かにやる気の炎を燃やしつつ拠点の高校へ戻るのだった。
***
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