第1.5章~それぞれの想いと、新たな道~
第15話~閑話1~聖女の危機
***
薄暗い体育館倉庫で、
「お前たちアリス組が、私のやり方に不満を抱いていることは理解している」
柳は淡々と語る。 口調は落ち着いているのに、その眼は欲望にぎらついていて、舐るように視姦された藍はのこのこついてきたことを後悔した。
「私はアリスのようにぬるくはない。 無能なやつは切り捨てるし、不和を乱す奴も同様だ」
「……話が見えません」
「ふむ、単刀直入に言おうか。
ーー傘下ってなんだ、
ーー切り捨てるってなんだ、
ーー今はみんなで協力して頑張るべきで、
ーーそんな争いをする意味なんてないのに、
藍の中で様々な想いが湧き上がる。
言葉にしたくても、恐怖が声をミュートした。
「もし、ことわったら……?」
「まずは
「っ??!!!」
「そしてお前は奴隷になってもらう。 治療手段は必要な能力だ。 それにトロいが見た目はいいから、色々使い道はあるだろ?」
藍は必死に悲鳴を押し殺した。
ついこの間まで高校生だった少年が、法のくびきを外された途端こうも悪辣になるものなのか。 人は、男はなんて愚かなんだ、と一緒くたにするべきではないと理解していても藍の人間信頼度が暴落してしまうことは仕方がないことだろう。
「受け入れれば悪いようにはしない」
そう言った柳の軽薄な笑みは全く信用できなかった。
けれどーー
「私はどうなっても構いません。 ただ結城だけは手を出さないでください」
「ああ、承知した。 約束は守ろう。 ただこちらとしても口だけではなく態度で示してもらいたい」
「どう、すれば……?」
「身体検査を受けてもらう。 体に盗聴機やレコーダーが仕掛けられているかもしれないからな」
柳はそう言って、黙って藍の行動を待った。
藍は理解した。 拒否しても素直に従っても、自身の未来は変わらないことを。
(けど従えば結城は無事で済むかもしれない)
「おお!?」
藍が制服のブレザーを一枚脱ぐと、歓声が上がった。
彼女は覚悟を決めた。
(初めては好きな人が良かったなー)
藍はぼんやりと考えながら、次々と纏っていた布を脱ぎ去り、残るは下着のみとなった。
「これでいいですか?」
「いや、ダメだ」
藍は運命を受け入れている。
しかしそれでも悔しくて、惨めで、この先の展開を想像するとどうしようもなく泣きたくなる。
(誰か)
(アリス先輩)
(結城)
(たすけて)
「わかり、ました……」
だから心の中で助けを願ってしまうくらい許されても良いだろう。 その声は誰に届くことはないのだから。
藍が下着に手を掛けた時、ふと思い出す。
『助けて欲しかったらちゃんと言えよ』
『だって』
『だってじゃねえよ!』
『どこにいても俺が必ずーー』
世界がこんな風になってしまう以前、結城との出会い。 藍が電車で痴漢されているところを結城が助けた後の会話だ。
(ごめん、また言えなかったや)
どこにいても駆けつける、そんなの物語にしかいない、ファンタジーの存在であるーーはずだった。
ふわり、と柔らかな風が吹く。
続いて衝撃と共に体育倉庫の扉が吹き飛んだ。
「助けに来た! 大丈夫か、藍!?」
ヒーローには似つかわしくない焦った表情の少年が、勇者が現れた。
※※※
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