舞台

戦場

バトルの舞台。


■海辺の草原

忍野が洋と蓮葉の選抜に使用。廃スタンドから近い。


 常吉つねよし臨港緑地の一角であるこの場所は、他の公園やグラウンドとは趣が異なる。人の手が感じられない奔放な草地が、海沿いにどこまでも続くさまは、見る者に強い異郷感を抱かせるほどだ。

 武人が仕合うには、まさに絶好の環境である。

                    ──【序幕】選抜、魚々島 洋 其の二


 洋、蓮葉、忍野の三名は、昼と同じ海辺の草原を訪れた。

 周囲は意外にも明るい。草原に至る舗装路や岸辺には幾つか街灯が立ち、その周囲を闇から切り抜いている。空には満月。海の向こうには舞洲や対岸のビルの灯が地上の星のように瞬いている。

 けれど、草原まで届く光は、月のそれだけだ。

 常人であれば足元を躊躇う薄明ながら、三人は真昼のように草原の中央へと足を踏み入れた。

                     ──【序幕】選抜、畔 蓮葉 其の三


■京都御苑

洋vs烏京の戦場。


 京都御苑──京都御所を擁する緑地のことだ。

 総面積92ヘクタール。国民公園に指定され、昼は観光客がひきも切らぬ京都の有名スポットだが、陽の落ちた後は嘘のような帳が降りる。一部の施設を除けば御苑の大部分は広大な林と道である。狭い日本から隔絶されたような、長い長い、砂利道の大部分には街灯がない。夜の御苑を訪れた者は、道の彼方に浮かぶ灯を目標に闇の中を歩かされる。魑魅ちみが潜み、魍魎もうりょうが蠢く平安京の闇を。煙るように濃密な、異界の昏さの下を。

              ──【開幕】《神風天覧試合》、始まりの儀 其の四



「戦場につきましては、ここは京都御所。

 《禁裏》様の敷地内にて、刃傷にんじょう沙汰ははばかられます。

 ですが、御所ならぬ御苑の内ならば」

「──建礼門の前はどうだ? 砂利道で条件は同じだ」

 烏京は南を振り返る。建礼門は洋たちが乗り越えた門でもある。

「構いません」

                 ──【前幕】魚々島 洋 VS 松羽 烏京 其の二


 最後に洋と蓮葉も塀を越え、一同は建礼門の前に降り立つ。

 そこに広がるのは、白い闇だった。

 道と呼ぶにはあまりに広い空間を、濃密な闇が満たしている。

 地面のみ白い。敷き詰められた砂利の白、それだけが認識できる色彩だ。

 街灯はわずかに一本。跋扈する闇に呑まれ、立ち竦む。

 そこに二人の候補と、立会人が進み出る。

                 ──【前幕】魚々島 洋 VS 松羽 烏京 其の二


 幅10センチ程の線上、そこにだけ砂利が存在しない。思えば、石を蹴る烏京の足音に対し、洋のそれは無音に近い。

 通称 《御所の細道》。近隣の自転車往来で刻まれた、天然の轍である。

 御苑の道沿いに延々と続くこの一本道を、洋は目ざとく利用したのだ。

                 ──【一幕】魚々島 洋 VS 松羽 烏京 其の四


■曽根崎地下歩道

・蓮葉 VS 浪馬の戦場。


 JR大阪駅を中心とする梅田地下街は、巨大迷宮として有名である。

 無軌道な増築と連結の末に生まれた複雑怪奇な構造は、地元民にすら《梅田ダンジョン》と揶揄やゆされる。飲食店ひしめく地下道には、濁流の如き人波が押し寄せ、車天国の地上とはまるで別世界だ。《うめきた二期地区》など、令和にも開発は続いており、《梅田ダンジョン》の拡大は留まるところを知らない。

 そんな梅田の地下世界で、唯一、静謐せいひつを保つ場所。

 それが曽根崎そねざき地下歩道、通称《そねちか》である。

 歩道と聞けば隘路あいろを思いがちだが、《そねちか》は断じて道ではない。

 縦に104メートル、横に27メートル。四列の石柱を擁し、チェスボードのような黒白タイルが敷設された巨大空間は、さながら展示物のない博物館である。

 さらには観客──通行人も乏しい。JR東西線、北新地駅東口すぐという、絶好のロケーションにありながら、だ。

 都心からやや離れてはいるが、北新地は歴史ある繁華街を擁する。

 この人気ひとけの少なさは、他に理由があるのではないか。

 たとえば、都心にあるまじき廃墟感。通行人を押し黙らせる静寂。荒れてこそないが、遺棄された場所の寂寥せきりょう──

 梅田地下街の奇景、曽根崎地下歩道とは、そんな場所なのである。

                 ──【前幕】畔 蓮葉 VS 八百万 浪馬 其の四

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