神風VS メモランダム

畔 蓮葉

🔳┳人物・蓮葉

初登場。口調。年齢。異名。性格。

🔳初登場

　半グレの抗弁を無慈悲に遮り、洋は改めて拉致された女を見やる。

　薄闇で灰光る白い肌。半グレたちに比する長身に、細く長い手足はモデルのよう。伏せた睫毛は黒く長く、帳のように垂れた長髪も同じ色。靴は片方なく、白い靴下のみ。ビニルテープで後ろ手に縛られ、突き出された豊かな双丘は、ブレザーの制服にそぐわないほどだ。まさに男の欲望、女の夢を具現化したような美女──

　洋は改めて結論する。間違いない。面識すらない他人だ。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　──【序幕】魚々島 洋、畔 蓮葉と会遇する

🔳口調

一人称は「蓮葉」。言葉少ない。たまに知的。

■幼児傾向

「あれは５号湾岸線だ。大阪湾に沿って神戸まで続いてる。

　南に行けばＵＳＪの近くを抜けていく。知ってっか、ＵＳＪ？」

「ゆーえすじぇー？」

「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン。知らねーか」

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　──【序幕】魚々島 洋、畔 蓮葉を調える

■長文台詞だと、読点が増えがち

「蓮葉は、大丈夫だから。一人でも、勝つから。

　だから、お兄ちゃんも、ちゃんと戦って、勝って」

　洋は言葉を失った。

「それで、二人で、《神風》なる。それがいい……蓮葉は、そう思う」

　　　　　　　　　　　　　　──【開幕】《神風天覧試合》、始まりの儀　其の三

🔳年齢

十六歳。

　家を出て十五分。蓮葉の口から得た情報は、十六という年齢だけだ。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　──【序幕】魚々島 洋、畔 蓮葉を調える

🔳異名

《最高傑作にして、失敗作》。

「『蓮葉は危険』だと。

　『畔の最高傑作にして、失敗作』だと──」

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　──【序幕】選抜、畔 蓮葉　其の二

🔳性格

■洋の分析

常識の欠如、忘却癖、兄への執着、幼児性が見られる。

　まず知識。日常生活に必要な程度は備わっているが、一般常識の欠落が目立つ。

　性格。素直で受け身。喜怒哀楽に乏しいが、感情は顔に出る。嘘やごまかしを言わない。沈黙する際も申し訳なさを伴う。

　一方で頻発する「忘れた」には、そういった影がない。嘘には見えないが、本当なら健忘症の疑いすらある。族に拉致された際もそうだが、どこか抜けている。

　興味。唯一にして強烈に示すのは、兄である自分への執着だ。

　理由は謎だが人懐こい犬のような熱意で、こっちが気恥ずかしい。

　蓮葉がもっとも興味を示したのも、洋自身の話だ。他愛ない日常ネタだが、食いつきぶりが他と明らかに違う。嫌われるよりはいいが、覚えのない愛情というのもそれはそれで複雑である。

「おまえ、前にオレと会ったことあるのか？」

　駄目元で訊ねるも、首を横に振られる。

　洋は嘆息した。やっぱ過去について問うのは無駄かな。

　結論。総合的な蓮葉の印象は、幼いというに尽きる。

　抜群のモデル体型、クール系の美貌とのギャップが激しいが、中身は思春期前の内気な小中学生と思えば納得がいく。着てきた制服もおそらくフェイクだ。世間の十六歳はもっと大人びている。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　──【序幕】魚々島 洋、畔 蓮葉を調える

■恥じらいがない

　シャワーと試着室の件で確信したことがある。

　蓮葉には恥じらいが足りない。足りないどころか欠落している。

　実のところ、これは畔としては当たり前だ。

　畔は恥を躾（しつ）けない。戦いに於いて恥は弱みだからだ。畔が恥じらうとすれば、それは演技。調査や戦闘を有利に運ぶための戦術に過ぎない。

　他の畔と蓮葉の違いは、おそらくそこだ。

　社会に潜むには常識が必須である。世間的な羞恥は教育課程に含まれたはず。しかし蓮葉はそれを学んだ様子がない。一般人を装う教育が施されていないのだ。

　　　　　　　　　　　　　　　──【序幕】魚々島 洋、畔 蓮葉を調える　其の二

■スイーツで泣く

　止（とど）まるを知らぬ滂沱の涙。だがそれ以上に止まらないものがあった。

　ソフトクリームを舐める少女の勢いだ。

「そっちかよ！」

　　　　　　　　　　　　　　　──【序幕】魚々島 洋、畔 蓮葉を調える　其の二

■兄への絶対的信頼

「お兄ちゃんの敵は、わたしの敵。

　──蓮葉は、そう思う」

　　　　　　　　　　　　　　　──【序幕】魚々島 洋、畔 蓮葉を調える　其の三

■料理は下手

　あの後、蓮葉は唐突に料理を手伝うと言い出した。蓮葉に料理が出来るなど、洋も初耳だ。ひとまずサラダを任せると、キッチンバサミ一つで見事な飾り切りを披露した。盛り付けも彩りも完璧な、食べるには惜しい出来栄えだったが、味は壊滅的。二重の意味で箸の伸びない一品だった。

「ありゃあ芸術だが、料理じゃねえな」

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　──【序幕】選抜、畔 蓮葉　其の二

■兄との落差

　洋を驚かせた忍野の説明を、蓮葉は無表情で聞き流す。

「立合人はオレだ。がんばれよ蓮葉」

「うん、お兄ちゃん！」

　振り向いた少女が破顔した。砂漠の昼夜を思わせる温度差だ。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　──【序幕】選抜、畔 蓮葉　其の三

■殲滅者

　予感はあった。

　初めて出会った時、格下のチンピラを鏖殺（おうさつ）した時から。

　ウイステでは誘拐犯を殺すのを禁じた。稽古でも仕合いを避けた。

「……はすは」　

　暴走する凶刃。無慈悲な殲滅者。心を持たざる者。魔物。

　《最高傑作にして、失敗作》。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　──【序幕】選抜、畔 蓮葉　其の五

■忘却の意味

　畔らしからぬ、あの無邪気さの謎が解けた気がする。

　蓮葉は、血生臭い記憶を《忘れる》のだ。おそらく港の件も覚えていない。

　何らかの精神病か、自己防衛なのかは不明だが、神域の達人が精神的小学生という謎も、これで説明がつく。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　──【序幕】選抜、畔 蓮葉　其の五

■兄の感情に敏感

「ごめ……なさい……」

　さめざめと泣き始める蓮葉の頭上で、洋と忍野は顔を見合わせた。

「なんで謝ってんだ？」

「だって……お兄ちゃん……怒ってる……」

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　──【序幕】選抜、畔 蓮葉　其の五

■じつは何でも出来る？

「その気になりゃ、あの子は何だって一人で出来るのさ。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　──【開幕】《神風天覧試合》、始まりの儀

■洋の制止は通じる

　それに収穫もあった。衆人環視の中でも、洋の制止で蓮葉は止められる。そうでなければ痴漢はおろか、車内は血の惨劇と化していたはずだ。蓮葉という怪物の鎖は、確かに洋の手に握られている。

　　　　　　　　　　　　　　──【開幕】《神風天覧試合》、始まりの儀　其の三

■兄への気遣い

「大丈夫」

　即答する少女に、洋はあっけに取られた。

「いや、大丈夫って……おまえな」

「蓮葉は、大丈夫だから。一人でも、勝つから。

　だから、お兄ちゃんも、ちゃんと戦って、勝って」

　洋は言葉を失った。

「それで、二人で、《神風》なる。それがいい……蓮葉は、そう思う」

　　　　　　　　　　　　　　──【開幕】《神風天覧試合》、始まりの儀　其の三

■怒ったサイン

テレビの影響と思われる。

　顔ぐらい触らせてもいいか、と思ったその時、背中に冷たい視線が刺さった。

　振り返ると、蓮葉が頬を膨らませている。最近覚えた不満時のサインだ。

　　　　　　　　　　　　　　──【開幕】《神風天覧試合》、始まりの儀　其の十

■兄に嫉妬？

「おまえね……オレに彼女が出来たらどうすんだ」

　蓮葉はぷいと横を向いてしまう。機嫌が悪いというより、自分の感情を説明できないようだ。洋と暮らし始めて二週間ばかり。蓮葉の感情は急速に発達しているように感じるが、年相応にはまだ、ほど遠い。

　　　　　　　　　　　　　　──【開幕】《神風天覧試合》、始まりの儀　其の十

■ピーマンは苦手

「大丈夫。蓮葉もピーマン食べられない」

　真顔の妹を見て、洋は思わず吹き出した。

「マジかよ。普通に食ってなかったか？」

「噛まずに飲みこんでた」　

　　　　　　　　　　　　　　　　　──【前幕】魚々島 洋 VS 松羽 烏京　其の二