神風VSの世界

《神風天覧試合》について

🔳《神風》とは


 《神風》には四つの意味がある。

 神道の神風。特攻隊の神風。駆逐艦の神風。

 そして四つ目は、《禁裏》の特務部隊──《神風》。

 元寇の故事に倣い、現存する道々の輩より選ばれた強者が、天皇直属で護国の任務に就く。活動は非合法だが、そもそも彼らは法の外の住人だ。選ばれた一族には種々の恩恵が与えられるが、何よりの報酬は名誉、すなわち闇社会のロイヤルブランドという勲章である。

                ──【序幕】魚々島 洋 —海と山と— 其の二


🔳《神風天覧試合》


 その選抜が行われるのが《神風天覧試合》だ。

 全国からスカウトされた輩の代表が、武をもって《神風》の座を争う。魚々島と畔は常連であり、初代から続く栄誉を譲り渡したことはほとんどない。

                ──【序幕】魚々島 洋 —海と山と— 其の二


「もうすぐ始まる《神風天覧試合》だが、その前に候補者の選抜が行われる。

 部族の代表に選ばれたオレらを、次は主催者が選んでくるわけだ。

 これに合格して初めて、出場が確定する。

 これまでの慣例だと、このテストは抜き打ちらしい。

 つまり主催側の人間が、いつ襲って来るかわからねえってことだ。

 言うまでもないだろうがよ。その武器、常に手放すんじゃねえぞ」

                   ──【序幕】魚々島 洋、畔 蓮葉を調える


「《天覧試合》の形式は毎回変わるんで、以前の情報はあてにならない。

 ただ、ずっと変わらない部分もある。

 優勝者が《神風》になり、もう一人の《神風》を選ぶってのが、それだ。

 つまり優勝者と、そいつが選んだもう一人が《神風》になる。

 魚々島と畔が組んで来たのは、このルールがあるからだ。

 協力して闘い、優勝した方がもう一人を《神風》に選ぶ。

 魚々島と畔の長い関係の中で、これが破られたことは一度もない」

              ──【開幕】《神風天覧試合》、始まりの儀 其の三


■《耳袋》

専用携帯端末。赤いガラケー。畔製。


 忍野の言葉を受け、黒い作業服の男たちが現れた。六名の候補それぞれの手に、赤いガジェットが手渡される。

 スマートフォンではない。折り畳み式の携帯電話である。

「なんだよ、このガラケー」

 洋も受け取った携帯を開けてみた。画面は飾り気がなく、機能は通話とチャットのみのようだ。電話帳には参加者六名と忍野の番号が登録されている。

「これは《耳袋みみぶくろ》といいます。今大会のために用意しました。

 専用回線にて、盗聴の心配がありません。

 公式の連絡は、全てこれにて行います。候補同士の連絡にもお役立てください。

 また、《耳袋》には現在位置を示す機能があり、本人証明にも用います。

 試合に臨んだ際、《耳袋》の所持が確認されなければ、不戦敗と見なします。

 常より肌身離さず、特に試合に於いては必ずご携行ください」

「こりゃ畔製だな。似たようなのを見たことがある」 


 位置情報は運営には隠せませんが、参加者同士の表示は許可制です。

 一方的に位置を知ることは叶いませぬ」

              ──【開幕】《神風天覧試合》、始まりの儀 其の八


🔳ドローン

■配置

対戦者周囲には三機のモニタードローン。

場外ライン上には、緑ランプの場外ドローンが配置される。


 三人の周囲で三角を描くモニタードローン。さらに外に観戦者の一群。

 砂利道と公園区域の境目には、緑のランプを点した場外ドローンが、灯篭のように定間隔で並んでいる。

                 ──【前幕】魚々島 洋 VS 松羽 烏京 其の二


■八百万製


「《天覧試合》は有力な一族の協力を受けております。

 ドローンは八百万の提供ですが、何かご不満でも?」 

 ぐうの音もなく押し黙るピンク髪に代わり、烏京が問う。

「機密は万全なのか?」

「当方は無論、畔と八百万、双方のチェックを受けております」

              ──【開幕】《神風天覧試合》、始まりの儀 其の八


■東西

初期位置にて分けられる。

どちらが上位などの意味会いはない模様。


「お二方、よろしいか」

 忍野の問いに、両者が首肯した。 

「東──松羽 烏京」 「応」

 両手を袖に潜めたまま、烏京が身をたわめ、構えを取る。

「西──魚々島 洋」 「おうよ」

 棒立ちの洋の掌中に鮫貝が現れる。

 闇を見透かし、互いの呼吸を探る。


「《神風天覧試合》第一試合、開始いたします」 

                 ──【前幕】魚々島 洋 VS 松羽 烏京 其の二

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