空木 八海



🔳初出

「実は、私にも妹がおります」

「へぇ。あんたに似て美人なんだろうな」

「身内ながら器量については申し分ないかと。多少変わり者ですが」

「うちのやつほどじゃないだろ」

「方向は異なれど、よい勝負かと思われます」

                  ──【序幕】魚々島 洋、畔 蓮葉と会遇する


🔳初登場

 忍野が紫宸殿の方に振り向くと、陰から白い人影が現れた。

 白装束に身を包んだ少女である。濡烏ぬれがらすの黒髪、顔立ちは曖昧だが二十歳はたち前。曖昧な理由は、目頭に巻かれた白帯にある。明らかに視界を塞がれながらも、その足取りに迷いはなく、一同の前に進み出て一礼した。

「空木 八海やつみと申します。お見知りおきを」

              ──【開幕】《神風天覧試合》、始まりの儀 其の七


🔳容姿・服装

■正装(試合時)

「はい、お兄さま」

 二人目のが、闇の中から現れた。

 白装束に透けるような肌色の少女である。長い黒髪を背に垂らし、包帯で目隠ししたその姿は、背後の闇とあいまってうし三つ参りか幽霊と見紛わんほどだ。

                     ──【後幕】魚々島 洋 VS 松羽 烏京


🔳口調

一人称は「わたし」。丁寧口調だが、たまに辛辣。


■兄相手は砕ける

「ふーんだ。兄さまのいけず。

 言われなくても、やるつもりですわよ」

                     ──【後幕】魚々島 洋 VS 松羽 烏京

■子供めいた言葉も使う

「耳や鼻くらいなら再生できます。

 その分、よそのお肉や骨は減っちゃいますけど、洋さまなら大丈夫」

                     ──【後幕】魚々島 洋 VS 松羽 烏京


🔳《天覧試合》の治療役

「左様。この者が、決着した双方の治療を行います。

 空木の体質は皆さまご存じの通り。妹は、その加護を他者に施せます。

 どのような怪我であれ、たちどころに完治せしめます。

 ただし、その力は万能にあらず。私と違い、死に至った肉体は甦りません。

 また、決着の場に八海が駆け付けるには、しばしの時を要します。

 治癒に過信を抱かれぬこと、あらかじめお願い申し上げます」

              ──【開幕】《神風天覧試合》、始まりの儀 其の七


🔳盲目だが気配が読める

「見えておりませんが、問題はありません。

 ご承知の通り、私ども空木の民は、その身に《白銀さま》を宿しております。

 幼少期に体質が合わず、体の一部を損なうことがあるのです。

 こればかりは治せませんが、代わりに気配を読むことを教えられます。

 今では何不自由ありません」


              ──【開幕】《神風天覧試合》、始まりの儀 其の十


🔳性格

■カップル厨

老若男女のこだわりなく、カップリングを妄想する悪癖がある。

対象は見知った登場人物全てに及ぶ。


「もちろんです。

 兄がお世話になった分、サービスさせていただきます」

「サービス?」 

「言葉のあやです!」

              ──【開幕】《神風天覧試合》、始まりの儀 其の十


「わたくし戦いについてはよくわかりませんが、相克から始まったお二人の関係が、武を交えてうつろい、互いを理解し合うことで終焉を迎えた様子は、一巻の絵巻物を読み終えたような感動を覚えました。この先、お二人の関係も、必ずや素敵なものになると──」

「慎まぬか、八海」

 早口でまくしたてる目隠し娘を一喝し、忍野は頭を下げる。

「洋どの、申し訳ありません。

 妹はその、何かとをこしらえる悪癖があるもので」

                     ──【後幕】魚々島 洋 VS 松羽 烏京


🔳異能

■《白銀さま》

体内に宿す蟲による不死身体質。

忍野と異なり、八海はこの蟲で他者の肉体を修復できる。


■治療シーン

 蓮葉と入れ替わり、洋の前に立った八海は、おもむろに両手を広げた。

 五指の先を唇にあてがい横に滑らせる。犬歯に裂かれた指先が赤く染まる。その両手を掌を下に向け、洋に翳す。

 慈雨の如き純白の糸が、洋の体に降り注いだ。

 糸の出先は八海である。指の傷から垂れたその糸を伝い、数え切れぬほどの蟲たちが、洋の上に降りてくる。

 洋はまじまじと蟲を見つめた。忍野の際は遠目だったが、今は自らが対象だ。これ以上の観察の機会はない。

 その蟲──《白銀さま》は、ウジとも蜘蛛くもとも知れぬ、奇妙な生物だった。

 色は白く、形も蛆虫に似た紡錘形だが、細い足を何本も備え、動きは機敏だ。大きさはノミ程度で、洋の視力でなければ観察にルーペが必要だろう。そして蜘蛛のように糸を吐き、それを伝って無数に降り注いでくる。


 洋の傷口に舞い降りた蟲たちが、白アリのように潜り込む。

 刺すような痛みは、すぐにくすぐったさに変わった。

 異物が侵入したというより、体内が独立したような感覚である。

 筋肉、血管、皮膚、細胞。自分以外の意思で肉体が動かされ、修理リペアされていく。被支配の恐怖の一方、全てを委ねた心地よさもある。

「……はい、終わりです。立てますか? 洋さま」

 全身を苛む苦痛が、いつしか引いていることに洋は気がついた。

                     ──【後幕】魚々島 洋 VS 松羽 烏京


 一見すれば雪虫のようだが、こちらは風任せではなく、意思をもって烏京の顔に群がっていく。糸を伝い、さらに多くの《白銀さま》が体内へ送り込まれる。

 欠損した鼻が、3Dプリンターのように再生していくのを見て、候補者は揃って驚きの声を漏らした。

                 ──【後幕】魚々島 洋 VS 松羽 烏京 其の二


■治療後は栄養と休息を

「どういたしまして。

 あとはお顔を洗って、水分と栄養、睡眠を十分にお取りくださいませ。

 《白銀さま》にできるのは、ここまでですから」

                     ──【後幕】魚々島 洋 VS 松羽 烏京


■疲労は回復しない

 それに今、空木の治療を初めて受けてわかったんだがよ。

 確かに傷は完治するが、疲労は回復しねえ。

 《天覧試合》が連戦禁止なのも、多分これが理由だな」

                 ──【後幕】魚々島 洋 VS 松羽 烏京 其の三



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