畔 濘(ドロ婆)


🔲人物


🔳初出

「言ったのは、《ドロ婆》か?」

「そのように呼ばれているとお聞きしました」

「だと思ったぜ」

                     ──【序幕】選抜、畔 蓮葉 其の二


🔳初登場

 ほとり ねい。通称ドロ婆。

 畔の渉外の顔役であり、畔の中枢に精通する数少ない人物だ。畔に関する洋の知識は、大半がこのドロ婆から得たと言ってよい。

 その容姿は変幻自在にして神出鬼没。四年近いつきあいがある洋すら、いまだに素顔を見たことがない。言うまでもなく、今の格好も変装である。ちなみに理由などない。単なる年寄りの悪趣味だ。

                  ──【開幕】《神風天覧試合》、始まりの儀


🔳口調

一人称は「あたし」。他を「おまえさん」「坊」「嬢」と呼ぶ。

つきあいの長い洋は、特に「坊」呼びされる。


「なるほどねえ。魚々島ととじまぼうに教えられたよ」

「坊はやめてくれって前にも言ったろ」

「あたしから見りゃ、みんな可愛い坊と嬢さ」

                  ──【開幕】《神風天覧試合》、始まりの儀

🔳性格

■変装好き

・変装して洋と接触するのが趣味。


言うまでもなく、今の格好も変装である。ちなみに理由などない。単なる年寄りの悪趣味だ。

                  ──【開幕】《神風天覧試合》、始まりの儀


🔳プロフィール

■畔の渉外役


 畔 ねい。通称 《ドロ婆》は畔の最古参で、渉外の顔役である。

 陸に上がる際に世話になった洋には、もっともなじみの深い《畔》だ。

                     ──【序幕】選抜、畔 蓮葉 其の二


■畔の最古参

 とは言え、最古参のあんたが、畔を裏切るなんて考えられねえ」

の受けた迫害と排斥。絶対的な危機感と同属意識。

 それこそが《畔》の強さの根源──そう教えてくれたのはあんただ。

 そのあんたが、畔を裏切ってるようにオレには見える……何故だ?」

                  ──【開幕】《神風天覧試合》、始まりの儀


🔳術技

■変装の達人


■長寿

「何年生きてんだよ、ドロ婆さん」

「初カレは九朗義経だったよ」

「静御前かよ」

 流石にこれは冗談だろうが、ドロ婆の長寿は有名だ。

 洋の師である魚々島の老人の口癖は「ドロ婆は変わらない」だったが、これは彼の師の言葉でもあったという。不老の妖怪という噂もあるが、彼女の出自を知る者は、とっくに墓の下だ。特技の変装も、どこまで技術でどこから自前なのか、見極められる者は誰もいない。

                  ──【開幕】《神風天覧試合》、始まりの儀


■印地打ちも得意

「あーくそ。そろそろ来ると思ってたのによ。

 礫が鋭すぎて、すっかり騙されちまった」

 ドロ婆が礫を放ったのは、猛スピードのトラックの上からだ。慣性を上乗せすれば、あの威力にも説明がつく。それでも精確さの謎は残るが、

「長く生きてりゃ、芸の一つや二つ覚えるもんさね」

 とのことらしい。

                ──【幕間】魚々島 洋  ー千客万来ー 其の三


🔳人間関係


■洋

・洋が上陸する前からの旧知

・魚々島にしては頭がいいと、一目置いている。

・蓮葉に関しては、絶大な信頼を置いている


雑頭ざつあたまの魚々島にしちゃ頭の回る方だからね、坊は。

 およそ見当はついてるんじゃないのかい?」

                  ──【開幕】《神風天覧試合》、始まりの儀


「ひょっひょっひょっ、悪かったね。

 急ごしらえとは思えない、堂に入った兄馬鹿ぶりじゃないか。

 安心したよ。あたしの見込んだ通りだ」

                ──【幕間】魚々島 洋  ー千客万来ー 其の四


「オレの何を見込んだんだよ」

「末っ子てのは兄になりたいものさ。違うかい?」

 洋は舌打ちした。確かに否定しきれない。

「強さじゃ蓮葉に遠く及ばない兄貴だけどな」

「強さは万能の尺じゃない。

 それを一番よく知ってるのは、坊のはずだよ」

「そりゃあそうかもだが」

「これは、あたしの勝手な希望だがね。

 坊なら蓮葉を、《失敗作》から人間に戻せると思ってる。

 能力じゃない。精神の自立って意味さ」

「即席兄貴に期待しすぎだろ。

 オレはアニー・サリバンじゃねーんだぜ」

                ──【幕間】魚々島 洋  ー千客万来ー 其の四


■忍野

・立会人である忍野とは交流がある。


「選抜に向け、《畔》宗家を訪ねた日のことです。

 《神風⦆候補に蓮葉殿を推挙された際、不可解な提言を受けました。

 曰く、『選抜試合には、必ず魚々島 洋を立ち会わせること』」

「……オレを?」

「私は《天覧試合》の立会人です。

 候補者を選ぶ立場であり、いかなる条件も受ける謂れはありません。

 ですがその方は、『おまえのために言うのだ』と譲られず。

 思案の末、洋殿の選抜を済ませた後、打ち明けた次第です」

                     ──【序幕】選抜、畔 蓮葉 其の二


■烏京

・烏京とも面識がある様子。


 烏京が、ドロ婆と彼女の趣味を知っていたのは幸運だった。さもなくば話は余計にこじれただろう。それにしても変装芸を披露していたのが、洋の前だけではなかったとは。

                ──【幕間】魚々島 洋  ー千客万来ー 其の五



🔳洋と蓮葉への対応


■蓮葉に接触できない

「けど、ここにあんたが来たことで、謎の一つは解けた。

 あんたがオレに接触しなかったのは、傍に蓮葉がいたからだな。

 畔の宗家は、蓮葉との接触を禁止してる──

 だから、オレが確実に一人になる機会を待っていた。違うかい?」

                  ──【開幕】《神風天覧試合》、始まりの儀


■情報は回せない

「理由は言えないが、宗家は蓮葉との接触を禁じてる。

 この状態は少なくとも、《天覧試合》が終わるまで続く。

 蓮葉には畔のサポートや情報提供は与えられない。

 蓮葉と組んでるおまえさんも同じだ。悪いが情報は回せない」

                  ──【開幕】《神風天覧試合》、始まりの儀


■《鮫貝》のサポートは続く

「待てよ。回せないのは情報だけか。《鮫貝》のサポートは続くんだな?」

「そっちは構わないよ。蓮葉には関係ないからね」

                  ──【開幕】《神風天覧試合》、始まりの儀


■洋が勝つごと、質問に答える

「そうさね。おまえさんが《天覧試合》で勝てたら、また来よう」

「優勝して来いってか?」

「一勝でいいさ。《天覧試合》は長丁場だからね」

                  ──【開幕】《神風天覧試合》、始まりの儀


■質問ルール

「……ああ、嘘じゃないさ。

 ただし問答は二つまでにさせてもらう」

「なんだ、二つだけかよ」

「代わりに、坊が試合に勝つごとに受けてやるよ」

                ──【幕間】魚々島 洋  ー千客万来ー 其の三


■洋の質問 一回目

「何故、オレに蓮葉を預けた?

 兄妹つっても初対面だ。上手くいく保障なんてないだろ」


「前例があったからさ。

 魚々島に送られる前、畔で育てられた頃の記憶はあるかい?」

「畔で生まれた子供は、男女の別なく六歳まで畔の機関で育てられる。

 あんたら魚々島が、学校にも行かず読み書きできるのはそのおかげだ」

「畔の子は組織に育てられ、親の顔を知らない。

 親が育てるという文化がない。これは魚々島も同じさね。

 だが、幼少期の愛情は大切だ。愛なく育った人間は獣以下に成り果てる。

 畔でその役目を担うのが乳母うばだ。六歳までは彼女らが保護者になる」

「蓮葉は、畔の組織に馴染まない子供だった。

 仲間意識に欠け、誰とも打ち解けずにいた。

 唯一の例外が、蓮葉を担当していた乳母さ。

 蓮葉と実の姉妹であることを伝えて、信頼を築いたんだ。

 六歳で乳母を卒業した後も、彼女は特例的に蓮葉の担当を続けた」 

「蓮葉は、畔の組織に馴染まない子供だった。

 仲間意識に欠け、誰とも打ち解けずにいた。

 唯一の例外が、蓮葉を担当していた乳母さ。

 蓮葉と姉妹であることを伝えて、信頼を築いたんだ。

 六歳で乳母を卒業した後も、彼女は特例的に蓮葉の担当を続けた」 

                ──【幕間】魚々島 洋  ー千客万来ー 其の三


「畔は蓮葉を放逐しようとした、って前に言ってたよな。

 これが理由なんだな? ことが」

 一際強い海風が、橋全体を震わせた。

「坊は、本当に察しがいい」

 風を見送り、姥面がつぶやく。 

「乳母は、蓮葉が手にかけた。

 あの子が追放された理由は──《同族殺し》だ」

                ──【幕間】魚々島 洋  ー千客万来ー 其の三


「……何でだ?

 何故、蓮葉は、その乳母を殺した?」

「三つ目の質問だが、サービスしてあげるよ。

 おまえさんの死活を分かつ情報だからね」

 温情を取り戻した声に、洋は安堵した。

「あの娘が捨てられたからさ。

 乳母は蓮葉を見捨て、逃げ出した。

 それを知った蓮葉は、乳母を追い、手にかけたんだ」

                ──【幕間】魚々島 洋  ー千客万来ー 其の四

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る