🔳┳武器・蓮葉
🔳武器:《化け烏》
可変式の巨大ハサミ。用途に応じて、自在に組み換え可能。
基本的な形状は園芸用の刈込鋏に似る。普段はスポーツバッグに収納している。
■形状
蓮葉がスポーツバッグを開けていた。取り出したのはバッタの脚を思わせる、折り畳まれた道具だ。長さは50センチばかり。色は黒で、二つある。
ジャキ! 立ち上がった蓮葉が両手の道具を振るう。
バッタの脚がZからIの形に伸展し、先端から幅広の刃が飛び出した。クワガタ虫の顎を思わせる奇怪な形状で、黒光りするさまもそっくりだ。
それに続く柄は約150センチ、刃は50センチ。長柄と呼べるサイズの二振りの獲物が、蓮葉の手に握られる。
──薙刀、いや蛇矛に近いか?
武器に惹かれるのは魚々島の性だ。洋の思考もしばし誘拐犯から逸れた。
即座に浮かんだ疑問は二つある。
薙刀に矛、どちらも両手を用いる武器だ。片手で振るう豪傑も存在するが、二刀流はありえない。
もう一つは、刃の腹に等間隔で穿たれたコイン大の三つの穴。穴開き包丁を思わせるそれが、強度を落とす以外の意味とは。
二つの謎が解けたのは、次の瞬間だった。
突き出された二振りが交差し、Xを描いたのだ。刃の腹に突き出した突起が、もう一方の穴を捉え、連結する。
「
──【序幕】魚々島 洋、畔 蓮葉を調える 其の三
全長2メートル近い漆黒の大鋏。形状は刈込鋏に近いが、サイズは倍以上だ。
腹ばいになった蓮葉の手元に、洋は瞠目した。
屋根が半円状に切り裂かれている。片方の刃を突き立てたまま、もう片方を小刻みに動かして進むさまは、さながら缶切りのようだ。
無論、鋏で可能な芸当ではない。缶切りが出来る形に組み替えたのだ。
状況に応じて形を変える武器──それはおそらく、敵に対しても。
──【序幕】魚々島 洋、畔 蓮葉を調える 其の四
カシュ、カシュン! スポーツバッグを開き、蓮葉が《化け烏》を展開していく。
殺意を形にしたような異形の刃。柄まで総黒塗りの大鋏だ。
対する蓮葉は、大鋏の《化け烏》を無造作に両手で構え、開いた
──【序幕】選抜、畔 蓮葉 其の三
■伸縮構造の利点
説明するまでもなく、ハサミは伸縮する構造を持つ。
一般的な手持ちの武器は、腕の動きが武器の動きに通じる。動きは起こりを生み、これを消すために剣術家は生涯を費やす。
しかしハサミは違う。連結した刃は、柄を閉じることで突き出される。左右の動きを前後に変換する、こんな武器は他に存在しない。
未知の挙動に蓮葉の卓越した技量が加われば、武術の理想たる完全な無拍子に手が届く。忍野が虚を突かれたのも無理はない。刀を噛まれるのも想定外のはずだ。
──【序幕】選抜、畔 蓮葉 其の四
■騙しのギミック
忍野は瞠目した。
刀が柄の表面で止まったのだ。浅く食い込んだ刃は、それ以上に進まない。
見た目は明らかに木製だが、これは違う。金属に近い手応えだ。
これだよ──洋は半ば、忍野に同情する。
敵の先入観につけ入るのは畔の真骨頂だ。素材の質感を偽るなど当たり前。初回限りの小細工ではあるが、殺せるなら二度目は不要だ。勝ちの目が増えるなら手間を惜しまない。《鮫貝》もそうだが、それが畔の流儀なのだ。
切れない柄の驚き。その間隙を蓮葉が襲った。
──【序幕】選抜、畔 蓮葉 其の四
■自己修復合金製
それに《化け烏》は、自己修復合金製だよ。
あのバッグに入れとけば、多少壊れても勝手に直っちまうさ」
──【開幕】《神風天覧試合》、始まりの儀
🔳アイテム
■畔の妙薬
数々の伝説に登場する《河童の妙薬》の元祖がこれだ。《畔》の人体改造の研究過程で生まれた万能薬であり、その薬効は現代医学を遥かに凌駕し、千切れた手足ですら繋げると聞く。畔以外には門外不出の品であり、見るのは忍野も初めてだ。
──【序幕】選抜、畔 蓮葉
■応急テープ
その上に応急テープを巻く。これも畔が開発した、包帯とガーゼを兼ねた医療品だ。こちらは闇で出回っていて、値段は相場の数倍ながら、荒事のプロの必携品になっている。
──【序幕】選抜、畔 蓮葉
■謎の写真
少女の手にあるのは一枚の写真だ。白黒だが、状況ははっきり見て取れる。背景は海と空。偉丈夫とぽっちゃりした少年が肩を組んでいる。男は笑顔だが、少年はぎこちないそれだ。
写真を裸の胸に押し当て、蓮葉は祈るように目を閉じた。
──【序幕】魚々島 洋 ─海と山と─ 其の二
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