┣プロフィール・蓮葉【幕間】



🔳畔について

■畔の幼児教育

「魚々島に送られる前、畔で育てられた頃の記憶はあるかい?」

「おぼろげにはな」 

「畔で生まれた子供は、男女の別なく六歳まで畔の機関で育てられる。

 あんたら魚々島が、学校にも行かず読み書きできるのはそのおかげだ」

「ああ、知ってるよ」

「畔の子は組織に育てられ、親の顔を知らない。

 親が育てるという文化がない。これは魚々島も同じさね。

 だが、幼少期の愛情は大切だ。愛なく育った人間は獣以下に成り果てる。

 畔でその役目を担うのが乳母うばだ。六歳までは彼女らが保護者になる」

「あー、確かにいたな」

 記憶はあいまいだが、そんな相手がいた気がする。子供の集団をまとめる立場で、母親というより保母に近い。畔にしては感情豊かな女性だったが、今思えば、あれもだったのかもしれない。

                ──【幕間】魚々島 洋  ー千客万来ー 其の三


🔳《mizugumo》

・畔管轄のダークウェブ(非公開ウェブ)。

 暗殺請負サイト《キル・スターター》が存在する。

・裏社会の情報には事欠かないが、輩の身分証明と多額の費用が必要。


「──無論。

 稼ぐ手段はある──当然だが、《殺し》だ。

 すでに《キル・スターター》には、登録を終えている。

 遠からず仕事がある──それまでの辛抱に過ぎん」

「キルスターター?」

「──ダークウェブに置かれた、暗殺専門サイトだ。

 依頼者が殺しの標的を登録し、閲覧者から懸賞金を募る。

 目標額に達すれば、所属の暗殺者が動き──標的を消す。

 原理は、クラウド・ファウンディングと同じだ」


 ダークウェブとは、文字通りの闇サイトを意味する。表の検索エンジンにかからぬ深層ウェブの一部であり、特定のソフトや認証がなければ閲覧できない。

「ダークウェブにも種類があるからな。

 《キル・スターター》が見れるのは、ほとりの管理する《mizugumo》だけだ。

 裏社会でも知る者は限られる──ともがら専用のサイトだ」


「──松羽流の仕事は中部が中心だった。

 だが、《キル・スターター》の範囲は全国に及ぶ──

 関西の都市圏であれば、仕事には困らないはずだ」


「集まる──時には膨大な金額が動く。

 《mizugumo》を知る者は少ないが、仲介人は多いからな。

 一年ほど前に自殺した岩手県知事──あれも《キル・スターター》の仕事だ。

 目標額は八千万。受けた殺し屋も相当の手練れだったと聞く。

 正体は不明だが──このオレが唯一、手合わせしたいと思った相手だ」

                   ──【幕間】魚々島同盟  ー手札交換ー 


「洋くんの資金で、烏京くんに《mizugumo》で調べてもらってはどうです?」

「なるほどね。どうだ、烏京?」

「──手段としては可能だ。

 だが、前にも言ったように、松羽はしのびではない。諜報は素人だ。

 《mizugumo》の調査には、膨大な費用がかかる──

 素人が手あたり次第に使っては、金が幾らあっても足りない。

 表の手段で、可能な限り絞り込みをした上でなら──」

               ──【幕間】魚々島同盟  ー手札交換ー 其の二


■畔の凄腕ハッカー

「ちょっと待ってください。

 洋くんがその《mizugumo》を使えるなら、私はなんで雇われたんです?」

 当然ともいえる青沼の疑問に、洋の答えは単純だ。

「オレは使えないからな。

 魚々島はそういうのに疎いんだ。畔がやってくれるからよ。

 殺しの仕事の時も、当時組んでた畔が全部お膳立てしてくれた」

「フン──有能なのは、その畔だったというオチか」

「否定はしねえよ。まさに全能神って感じのハッカーだったしな」

「その元相棒さんに連絡は取れないんで?」

「縁が切れちまったからなあ。

 それに蓮葉の件がある。協力しちゃくれないだろ」

               ──【幕間】魚々島同盟  ー手札交換ー 其の二


🔳蓮葉の謎

■実の姉妹の乳母に育てられる

「蓮葉は、畔の組織に馴染まない子供だった。

 仲間意識に欠け、誰とも打ち解けずにいた。

 唯一の例外が、蓮葉を担当していた乳母さ。

 蓮葉と実の姉妹であることを伝えて、信頼を築いたんだ。

 六歳で乳母を卒業した後も、彼女は特例的に蓮葉の担当を続けた」 

                ──【幕間】魚々島 洋  ー千客万来ー 其の三

■同族殺し

「乳母は、蓮葉が手にかけた。

 あの子が追放された理由は──《同族殺し》だ」

                ──【幕間】魚々島 洋  ー千客万来ー 其の三


「……何でだ?

 何故、蓮葉は、その乳母を殺した?」

「三つ目の質問だが、サービスしてあげるよ。

 おまえさんの死活を分かつ情報だからね」

 温情を取り戻した声に、洋は安堵した。

「あの娘が捨てられたからさ。

 乳母は蓮葉を見捨て、逃げ出した。

 それを知った蓮葉は、乳母を追い、手にかけたんだ」

伊邪那美命いざなみのみことかよ」

                ──【幕間】魚々島 洋  ー千客万来ー 其の四


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