《天覧試合》運営

空木 忍野

🔳┳人物・忍野


初登場。口調。性格。


🔳初登場


「……それでは、失礼します」

 フェンスの影から現れたのは、一人の若者だった。

 まず目を引くのは、その美貌だ。フェンスの隙間から差し込む後光を差し引いてなお余る、的皪てきれきたる輝きがある。けれど女性的ではない。男性とわかった上でなお男が振り返る、そんな美しさだ。

 場違いな美形の登場に目を丸くした洋だが、その服装も負けず劣らずだった。

 中肉中背に纏うは、白地に桜吹雪の道衣と葡萄色の袴。腰には大小二振りの日本刀。江戸時代から時を越えて来たと言われても納得の出で立ちである。流石にちょんまげではないが、後ろ頭で束ねた長髪もそれっぽい。アイドル時代劇にありがちな着せられ感がないのは、和風な顔立ちの賜物だろう。

                        ──【序幕】選抜、魚々島 洋


🔳口調

一人称は「私」。

武家言葉寄りの丁寧口調。生真面目。

他人呼びには「殿」を用いる。


「お初にお目にかかります。私、空木うつぎ 忍野おしのと申します。

 今期《神風天覧試合》の立合人を務めさせていただきます。

 卒爾そつじながら、魚々島代表の魚々島 洋殿。

 それに畔代表の畔 蓮葉殿のご両名でお間違いありませんか?」

                        ──【序幕】選抜、魚々島 洋


🔳性格


■天然


「少し歩くぜ。って、その格好か。まあいいけどよ」

「この格好が何か?」

「……まあ、いいけどよ」

                        ──【序幕】選抜、魚々島 洋


まじないとは無縁


「念の為、《結界》を張らせていただきます」

「《結界》? 妖術でも使えんのか?」

「あ、いえ。こちらの手の者で人払いを行います」

「ああ、車で追って来てた連中な。

 そのナリだから、まじないでも使えんのかと思ったぜ」

「……そのようなものとは無縁であります故。

 もう一つ。洋殿にお断りする儀がございます」

                    ──【序幕】選抜、魚々島 洋 其の二


■挑発


が洋殿の得物ですか?」

 指摘は無論、洋の握る《鮫貝》のことだ。

玩具おもちゃにでも見えるかい?」

「私には文具にしか見えませぬが」

                    ──【序幕】選抜、魚々島 洋 其の三


■モテる


 じっとりと背中に絡む視線に、思わず忍野は身震いした。初対面の女性に好かれはすれど、嫌われることは珍しい。身に覚えがなければ、なおさらである。

                    ──【序幕】選抜、魚々島 洋 其の三


■横文字に疎い


「刺身とカルパッチョ、どっちがいい?」

「カ……る……?」

「ま、刺身でいいか」

                         ──【序幕】選抜、畔 蓮葉


■洋を尊敬


 忍野は内心で舌を巻いた。選別してなお、あの釣果とは。

 洋に驚かされるのは、これで何度目だろうか。

 精力的に料理を作る姿も、激戦の後とは思われぬほどだ。武者の矜持で平常を保っている自分とはやはり違う。負けるべくして負けたと改めて思った。

                         ──【序幕】選抜、畔 蓮葉


 それにしても……と忍野は己に問う。

 候補者の一人である洋に入れ込むのは、立場としてどうなのか。

 立会人として、厳正かつ公平であらんと思う半面、奇妙なほど洋に惹かれる自分がいる。それが洋の性格か、実力か、生い立ちに依るものかはわからない。

 わからないが、洋の友としてありたいと強く思う。数ある候補者の中で、そう思えたのは洋だけだ。

                 ──【一幕】魚々島 洋 VS 松羽 烏京 其の二

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