┣プロフィール・浪馬【幕間】

🔳八百万について

■八百万の歴史

八百万とは、九州福岡に根付くともがらの一大勢力である。

 その由来は奈良時代の渡来人とされ、現代にも文化的影響が見られる。

 元は旅芸人の一族だったが、武芸・商売にも強かった。

 道々の輩として永く漂泊していたが、幕末の混乱に乗じて博多に定住。

 後発の地歌舞伎団体《八百万座》を立ち上げ、派手な殺陣を売りものにした《やり歌舞伎かぶき》で人気を博する。

 華やかな表の顔を得ると同時に、裏では密輸入を主とする闇取引で博多の裏社会に根を広げる。密輸していた武器は、後に自身で開発・製造するようになる。

 倫理の制約なく突き詰めた科学と、武術の視座から工夫された独自の武器は、火薬庫と呼ばれる九州の裏社会を実験台に、劇的な進化を遂げた。

 八百万の武器は、数こそわずかながら、相場の数十倍の価格でされている。それは八百万が、国外の裏社会まで根を広げたことを意味する。 

 武力と経済に加え、国外の後ろ盾まで得た八百万が、ついに九州全土を制圧したのは戦後の復興期。

 それを成し遂げたのが八百万 暁馬ぎょうま。現役の座長であり、浪馬の父である。

 彼の最終目的は、輩の最大勢力である畔を排除し、八百万の勢力図を広げることにあると目される。両者は幾たびも衝突しており、人知れぬ場所で屍山血河を築いているという。

               ──【幕間】魚々島同盟  ー手札交換ー 其の四


■八百万の脅威

「腕の話じゃない──背後の組織力をだ。

 八百万は勝つために手段を選ばない。畔より汚い連中だ。

 当主の暁馬が奴を本気で勝たせる気なら、何をしてきてもおかしくはない」

「場外戦最強ってわけか。

 畔が蓮葉に協力する気ねえのが痛いな」

 本来なら睨みを効かせる畔の不在が、八百万の跋扈ばっこを招く可能性がある。容易に反則を見逃す忍野ではないだろうが、八百万ほどの勢力が相手では、どこまで抗えるかわからない。

「八百万当主の考えは不明なので、私の推測になりますが。

 畔を超えるため、箔付けとして《神風》の称号を求めるのは自然です。

 不自然な流入人口の増加も見られます。要警戒です」

               ──【幕間】魚々島同盟  ー手札交換ー 其の四



🔳浪馬の過去

■経歴

 八百万 浪馬は、当主である暁馬の十一人の息子、その末子。現在十七歳。 

 母は数いる妾の一人で、血筋的には傍流に当たる。

 性格は豪胆かつ気まぐれで天邪鬼あまのじゃく。無類の女好き。

 少年時代は本家で育てられ、武術や芸事を習い覚える。

 中学卒業時、暁馬に勘当され、本家を追われる。理由は素行不良。

 以後、中州で自活しながら、暴走族チーム《暁殺骸鬼デッド・バイ・デイライト》を結成。抗争を経てチームは巨大化し、わずか二年で九州制覇を果たす。

 二か月前、唐突にチームを解散。理由は不明。

 現在、《神風》候補に選ばれ、《神風天覧試合》に参戦中。

               ──【幕間】魚々島同盟  ー手札交換ー 其の四


■生後すぐの奇跡

「浪馬くんが生まれてすぐの話です。

 赤ん坊の彼は、看護師の目を盗み、何者かに連れ去られました。

 彼が運ばれた先は、病院の屋上。そこから投げ落とされたのです。

 真下は駐車場。木や障害物はなく、赤ん坊は固い地面に激突しました。

 ですが……見つかった赤ん坊には、傷一つなかったそうです。

 コンクリートの床が砕け、ひび割れていたにも関わらず、です」

               ──【幕間】魚々島同盟  ー手札交換ー 其の四


■不死騎王

「浪馬のやつ、事故ったことはねえのか?」

「何度もあります。

 バイク同士が衝突したり、車で撥ねられたり。

 道路にピアノ線を張られたこともあるそうです」

「だろうなあ」

「ですが……いずれのケースでも

 バイクが壊れることはあっても、傷一つ負うことなく、戦い続ける。

 ついた渾名が、《不死騎王イモータル・キング》」

               ──【幕間】魚々島同盟  ー手札交換ー 其の四


■数々の伝説

「他にも、魔法のライドテクとか、槍の一突きで車を止めたとか。

 暴走族に伝わる武勇伝は数知れずです。

 まあ素人目線ですから、誇張も多分に含まれそうですが。

 お二人の戦いの参考にしていただければ、と思います。

 私からは以上です」

               ──【幕間】魚々島同盟  ー手札交換ー 其の四


🔳暴走族について

・チーム名は《暁殺骸鬼(デッド・バイ・デイライト)》。


■有名人

「直接の面識はありませんが、博多じゃ有名人ですからね。

 とくに暴走族の間では、《生きる伝説》みたいな存在です」

「名前の売れてるともがらってのも珍しいな」

               ──【幕間】魚々島同盟  ー手札交換ー 其の四


■謎の解散

「どうでしょう。今となっては本人に聞くほかありません。

 なんせ彼の作ったチームは、二月ふたつきほど前に解散しましたから」

「へえぇ」

 そういえば浪馬のライダースーツには、蛍光色の走り書きが無数にあった。

 派手な柄だと思っていたが、あれは解散時に送られた寄せ書き、仲間からのメッセージだったのかもしれない。

「──《神風》候補に選ばれたからか?」

「それもわかりません。

 ただ、リーダーの私的な都合で、チームを解散するのは不自然です。

 暴走族は代替わりが基本ですし、簡単に解散できる規模でもない。

 それが一夜にして消滅というのは、何か理由があるとしか思えません」

               ──【幕間】魚々島同盟  ー手札交換ー 其の四


■解散の真相

「なら、教えてもらおか。

 おまえの方は、なんで《暁殺骸鬼デッバイ》を解散したんや?

 あれだけデカいチーム、おまえの都合で解散とかないやろ。

 頭領アタマ変わるなりして、おまえだけ抜けたらええやんけ」


「裏切られたンだよ。

 《暁殺骸鬼デッバイ》は解散したンじゃねえ──ンだ」

               ──【幕間】八百万 浪馬 ー遷客騒人ー 其の二


「ああ。日野の野郎が、支部長集めて、勝手にヨ」

 日野とは《暁殺骸鬼デッド・バイ・デイライト》の副頭領ヘッド、日野 月也つきやのことだろう。

 恵まれた体格にスキンヘッド。地元の名家出身の浪馬に対し、孤児院で育った苦労人だったはずだ。暴走族には珍しい、柔らかな物腰が印象深い。

 義経に対する弁慶のように、死ぬまで忠節を尽くすタイプだと思っていたが、まさかの明智 光秀だったとは。

 副ヘッドが、ヘッドに無断でチームを解散させる──

 非常識な話だが、日野なら可能ではある。

 突出した武力とド派手な伝説でチームを引っ張る浪馬に対し、卓越した采配ときめ細かな配慮で組織をまとめていたのが日野という男だ。実質的に組織を掌握していた日野の号令なら、各支部が従うのも無理はない。

               ──【幕間】八百万 浪馬 ー遷客騒人ー 其の三


■まだ残る謎

 しかし、奇妙な点も幾つか思い当たる。 

 一つは何故、解散したかということ。

 この手の陰謀は会社経営に多いが、どれも乗っ取り劇だ。浪馬に代わり、日野がチームを牛耳るならいざ知らず、解散ではメリットがない。そもそも何故解散したのか、その意図が皆目読めない。

 もう一つは、裏切られた浪馬が何故、おとなしく承諾したのか。

 文殊の知る浪馬は寛大とは真逆、まさに信長的な性格である。

 憤怒に駆られ、石山本願寺よろしく、《暁殺骸鬼》を焼き討ちにかかってもおかしくない。常人なら一笑に付される話だが、浪馬には朝飯前のはずだ。しかしそんな話があれば、必ず文殊の耳まで届いている。ならば何故──

               ──【幕間】八百万 浪馬 ー遷客騒人ー 其の三

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