┣人物・蓮葉【二幕】

🔳性格

■風呂上がりは全裸

 元凶は、入浴後に姿でうろつく蓮葉の方だ。

 兄の薫陶くんとうかドラマの影響か。少しづつ常識を知り始めた蓮葉だが、その忘却癖の故か、覚えないことはに覚えない。

 「風呂上がりに服を着る」というマナーも、その一つだった。

 元より露出に抵抗のない蓮葉だが、特に湯上りにはタオル一枚纏わず、ロビーで涼むのがお気に入りらしい。何度注意しても繰り返す妹に、兄の取った弥縫策びほうさくが特注のカーテンと、この規則だ。

 ひとしきり涼んだ後なら蓮葉は服を着る。それまでのひと時、男どもを隔離すればは起こらずに済む。カフェテラス風のテーブルセットは、このルールの副産物である。

                 ──【前幕】畔 蓮葉 VS 八百万 浪馬 其の二


■スマホは兄専用

 蓮葉に話があるなら、オレが聞いてやる」

『マネージャーかヨ、テメー』

 こればかりは浪馬が正論だが、洋にも言い分はある。

 訂正するつもりもないが、浪馬は勘違いをしている。蓮葉の気配察知は獣以上だ。シャワー中であれ、《耳袋みみぶくろ》の着信を聞き逃すわけがない。

 では何故、電話を取らなかったのか? 

 洋が使用を限定したからだ。《耳袋》の使い方を教える際、洋以外の電話を取らぬよう、厳しく言い含めた。

 他人に無関心な蓮葉が、電話やメッセージに応じる確率は低い。しかし青沼がしたように、洋の名を使えば、話に乗ってしまう可能性がある。

 そうなれば、疑うことを知らない蓮葉は、いいように利用される。蓮葉の自立を促したいのは山々だが、それとこれとは話が別だ。何より、妹を狙うチャラ男の着電を許す兄など、この世に存在しない。

                 ──【前幕】畔 蓮葉 VS 八百万 浪馬 其の二


■《殺戮装置》の懸念

 青沼の懸念は、「殺せば失格」という《天覧試合》のルールのことだ。

 武力に於いて比類なき蓮葉だが、気持ちが昂ると一切の加減が効かない《殺戮装置》と化す。《畔の最高傑作》でありながら《失敗作》と呼ばれる所以である。

 洋が制止すれば加撃を止めることはわかっているが、《天覧試合》の相手は並ではない。常ならぬ闘いの熱に呑まれた蓮葉の耳に、果たして洋の声は届くのか。

                 ──【前幕】畔 蓮葉 VS 八百万 浪馬 其の二


■堂島ロール

 くだんの妹が、スイーツにかぶりついているのだ。

 いや、スイーツなどという可愛い代物ではない。手にしたそれは、堂島名物・堂島ロール。大量の生クリームを抱いた、堂々たるロールケーキである。それをクレープのように箱から引き出し、齧りついている。言うまでもないが、路上で食べる代物では断じてない。

                 ──【前幕】畔 蓮葉 VS 八百万 浪馬 其の五


■兄のコーディネート

・蓮葉の勝負服は洋が選んでいる。


「確かに、オレは女の服なんざ詳しくねえ。

 あれも女の礼服がわからんまま買ったやつだ。

 とはいえ妹を笑われて、黙っちゃいられねえ。

 それがオレのせいなら、なおさらだ」

「ていうか、何であんた、妹の着替えしてんのよ。

 その時点で普通にキモいんだけど」

                     ──【二幕】畔 蓮葉 VS 八百万 浪馬


■情操教育と成長

 蓮葉と暮らす中で、洋は情操教育に力を入れた。世間知らずの妹のため、テレビを見る時間を増やし、食事や観光に連れ出した。

 その甲斐あってか、蓮葉は表情豊かになった。

 語彙が増え、洋のしぐさを真似はじめた。気になるスイーツをおねだりすることも覚えた。無感情な殺戮装置が人間に近づくようで、洋は嬉しかった。

                 ──【二幕】畔 蓮葉 VS 八百万 浪馬 其の四


■微笑む怪物

・敗北を覚悟する洋に対し、笑顔で勝利を約束する。

 この程度の苦境は、彼女には笑い飛ばせるものなのだ。


「……ありがとうな、蓮葉。

 おまえの犠牲、絶対に無駄にしねえ。

 あいつには必ず勝つ……約束するからよ」

「だい……じょ……ぶ……」

 艶やかな大理石の床を見つめながら、蓮葉が天使の微笑を浮かべた。


                              

          「すぐ……終わらせるから」 

                 ──【二幕】畔 蓮葉 VS 八百万 浪馬 其の五


■魔女の覚醒

 浪馬は、ようやく理解した。

 蓮葉は衝突の威力を利用して、骨格の歪みを正したのだ。

 もはや目に見えるダメージは、傷ついた両目だけ。

 その真紅の双眸を見開いて、女が笑い始めた。

 脳を切り裂き、この世の全てを嘲笑う、魔女の哄笑。

 

 忍野は思わず眉をしかめた。

 ──それは、海辺で解体された夜、最期に聞いた声だった。

                 ──【二幕】畔 蓮葉 VS 八百万 浪馬 其の六


 それは、ひどく耳障りな笑い声だった。

 狂乱と傲慢。挑発と威圧。相克する不協和音が地下空間にこだまし、逃げ場なく精神こころを掻きむしる。

 止めどなくあふれる呵々大笑かかたいしょうに対し、その目には一つまみの洒落しゃれもない。あるのは底なしの虚無と殺意──ただそれだけだ。

「まるで人の皮を脱いだようだな」

 雁那のつぶやきは、その場全員の代弁だった。

                 ──【二幕】畔 蓮葉 VS 八百万 浪馬 其の七


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