🔳┳術技・蓮葉

畔の技名は、妖怪の名前から。


🔳体術

■《濡女》(ぬれおんな)


「──《濡女ぬれおんな》」

 唐突に、洋が口を開いた。

「さっきの技の名だよ。舌を捉えて相手の自由を奪う《ほとり》の技さ」

              ──【序幕】魚々島 洋、畔 蓮葉と会遇する 其の二


■尻子玉(しりこだま)

男性トラウマ案件。


 尻子玉の名は、妙薬同様に河童譚で広く知られる。河童に負けた人間は尻から玉を抜かれるという迷信で、溺死体の肛門が開いているのが由来とされる。

 畔の《尻子玉》とは、性器と肛門への攻撃を指す。

 足指を用いた攻めは多岐に渡り、主に大技への導線を果たす。特に男性に有効なのは論を待たない。猿も裸足で逃げる足指の器用さも凄いが、着衣の下の一物の位置を見抜く眼力にこそ驚嘆すべきだろう。

                     ──【序幕】選抜、畔 蓮葉 其の四


🔳《化け烏》の技

■《夜叉》(やしゃ)

《化け烏》の反動に自重を乗せる移動術。蓮葉が多用する。


 組み上がった大鋏を頭上に持ち上げ、試すように蓮葉が一振りする。分厚い刃が唸りを上げ風を裂いた刹那、蓮葉は屋上から跳躍した。

 軽やかに、鋏の一部であるかのように。

 もはや滑空と呼ぶべき距離を飛び、スロープの外壁に取りつくと、長い手足を蜘蛛のように使って階下に潜り込む。

               ──【序幕】魚々島 洋、畔 蓮葉を調える 其の四


■《玉兎》(ぎょくと)

玉兎は「月の兎」。《尻子玉》から繋げる。


 一物、ついで肩を踏み台に、忍野の頭上さらに高く。

 白ジャージの脚が月に触れる。夜空に化け烏が弧を描く。

 空中で倒立した蓮葉を、ようやく忍野が見上げた、その時。

 闇を裂き旋回した漆黒の刃が、若武者のうなじに滑り込む。

「…………《玉兎ぎょくと》」 

 満月に浮かぶ少女と大鋏の影に、忍野の首級くびが加わった。

                     ──【序幕】選抜、畔 蓮葉 其の四


🔳殺気術

■魃(ひでりがみ)

圧倒的な殺気を放出し、周囲を圧する。


 爆発的な殺気が、草原を吹き飛ばしたかに思われた。

 外れに並ぶ木々がいっせいにざわめいた。梢で眠っていた野鳥の群れが、飛翔すら許されず落下したのだ。

 それはもはや、兵器と呼ぶべき代物であった。

 先刻、忍野を圧した殺気すら比較にならない。固化された夜気は巨大な氷塊に変わり、草原もろとも忍野を封殺する。

 それは《白銀さま》も例外ではなかった。糸の動きがにわかに弱まる。

 そこに、蓮葉が飛び掛かった。

                     ──【序幕】選抜、畔 蓮葉 其の五


🔳察知能力

洋を越える鋭敏な感覚を持つ。

このため、蓮葉に関する極秘の会話は、必ず外で行う。


 蓮葉の感覚の異常な鋭さには、同居してほどなく気が付いた。壁越しに気配の変化を読み、目覚めると部屋に現れる。電話の声も筒抜けだ。蓮葉の来た初日、シャワー中の青沼との打ち明け話も聞かれていたかもしれない。

 もっとも、さして問題はなかった。鷹揚な気質の兄は、知られて困るプライバシーもないと開き直り、従順な気質の妹は知り得たことを表に出さない。蓮葉の謎に限ってだけは、忍野とそうしたように秘密にすると決めたが、それ以外では不便もなく、洋は蓮葉と暮らしていた。選抜試合の凄惨な顛末の後ではなおのこと、片時も離れなかった。

                  ──【開幕】《神風天覧試合》、始まりの儀

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