第47話 抱きしめる

 ……ど、どうしよう?


 咄嗟に抱きしめてしまったけれど……。


 そんなつもりはなくて……。


 こ、こういう時ってなんて言っていいかわからなかったから。








 そのまま、どうしていいかわからずにいると……。


「ん……」


「ご、ごめん!」


 その声で我に帰る。


「……平気」


「そ、そう……その、なんて言っていいのか……」


 この時、俺は恵まれた環境で育ったことを自覚した。

 父親は転勤してるし、母親は働き詰めで、妹はまだ小さい。

 苦労は多いけど……それでも家族は仲がいい。

 そんな俺に、彼女に何か言う資格があるのだろうか?


「……ん、平気。それより、君の方が心配」


「えっ?」


「涙がすごいことになってる」


 そこで、ようやく気づく。

 自分が涙を流してることに……同時に彼女の顔を見て気づいた。


「綾崎さんも……泣いてる」


「……えっ? ……ほんとだ……」


 どうやら、自分では気づいてなかったらしい……俺もだけど。


「どうして、君が泣くの?」


「いや、だって……」


「……多分、普通の人は気まずい顔をする。もしくは、困った顔……だから、私は驚いた……急に抱きしめられたから」


「ご、ごめん」


「……別に嫌じゃなかった」


「……うん?」


「よくわからないけど……ん……なんでもない」


「そ、そっか……」


「「…………」」


 えっ? なに? この沈黙……気まずいとは……違う気がする。


「むにゃ……はれぇ? ……ここどこぉ?」


「おっと、起きたか。優香、ここは遊園地だよ」


「おはよう、優香ちゃん」


 二人で顔を拭き、何とか笑顔を作ろうとするが……。


「…あっ! 遊園地! まだ乗ってないのある! 汽車のやつとか! は、早くしないと閉まっちゃうよぉ〜!」


「「ふふ……」」


 どうやら、その必要はなかったようだ。


 綾崎さんも俺も、自然と笑顔になっていたから。







 その後、優香ご希望の乗り物に乗り……最後に、辱めを受けることになる。


「うぅ……俺は待ってるから二人で乗ってくれ」


「ダメ」


「めっ! 馬車にはお馬さんがいるおっ!」


「か、勘弁してくれ……」


「ん、人生は諦めが肝心」


 そう言い、綾崎さんが俺の手をとる。


「それ、さっきの話の後じゃ突っ込み辛いんだけど?」


「お兄ちゃん!」


「わ、わかったから!」


 そして俺は仕方なく……メリーゴーランドの馬に乗る。


 後ろの馬車には、綾崎さんと優香が……。


 つまり……俺は一人目立っている。


 道行く人々が俺を見てクスクスと笑い……。


「ねーねー、あのお兄ちゃん一人で……」


「しっ! ダメよ!」


 ……俺も、後ろの馬車に乗せてくれませんかね?


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