第24話 送る

 ……だからどうしたって話だけどね。


 綾崎さんは、俺のことそういう目では見てないし。


 むしろ、そういう目で見てないから俺といれるんだと思うし。


 今まで通り、なるべく普通に接しよう……できる限り。



「こら! 息子!」

「な、なに?」

「聞いてなかったの? 遅いから駅まで送って行きなさい。車で送って行こうかと思ったけど、駅前のマンションらしいから」

「い、いいです。伊藤君には、ただでさえご迷惑をかけて……」

「ううん、送っていくよ。もちろん、迷惑じゃなければね」

「……じゃあ、お願いします」


 まあ、良いや。


 とりあえず、綾崎さんを困らせないようにしないとね。






 夜の夜道を、並んで歩く。


「今日はありがとね」

「……お礼を言うのは私……楽しかったから」

「そっか、ならよかった」

「ん……またきても良い?」

「うん、もちろん」


 涼しい風が吹く中、静かな時間が過ぎていく……。


「……何も聞かないの?」

「なんのこと?」

「その……」

「いいんじゃない、別に」

「えっ?」

「話したくなったら話せば良いんじゃないかな。もちろん、俺でよければ話を聞くから」


 泣いた理由を考えたけど、正確なことはわからない。

 情けない話だけど、女の子の気持ちもわからない。

 だったら、自分にできることをするだけだ。


「……どうして、そんなに優しくいられるの?」

「そんなことないけど……あえて言うなら、優しくされたら嬉しいからかな?」

「ん……どういう意味?」

「自分がされたら嬉しいことをしてるって感じかな……深く考えたことないけど」


 これに関しては、俺も上手く答えることができない。

 別に聖人君子ってわけでもないし、良い子ちゃんぶってるわけでもない。


「自分がされたら嬉しい……だから人に優しくする……」

「ごめんね、上手く言えなくて」

「ん、そんなことない。確かに……優しくされたら嬉しい。でも、みんながそうじゃない」


 俺を見つめるその目は……とても悲しい色をしていた。

 そして、その意味も……何となくわかる。


「そうかもね。良いことをしたから……優しくしたからといって、それが返ってくるわけでもないし」

「ん……見てると君は損ばかりしてる。私の代わりに水をあげたこともそう。あの時も、お迎えがあったんでしょ?」

「まあね。はは……あの時は走ったよ。でも、損はしてないかな」

「えっ?」

「その……君と友達になれたから」


 あの行動を起こさなければ、こうして話すこともなかっただろうし。

 優香が、あんなに喜ぶこともなかった。


「…………」

「あ、あれ? 綾崎さん?」


 か、固まってしまったぞ?

 やっぱり、くさかったかなぁ。

 無表情だから、どういう反応か読みとれないや。


「……帰る!」

「えっ!? ちょっ!?」

「もう平気!」


 そう言い、駅まで走っていく……。


 確かに、もう駅は見えていた。


 俺は立ち止まり、彼女が駅の中に入るのを確認し……。


「どういう反応だったんだ?」


 ひかれた? 嬉しかった? くさかった?


 悶々としながら……家路につくのだった。

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