第23話 自覚?

 その後、綾崎さんが戻ってきたが……。


 なんだか、少し暗い顔をしているように見える。


 そこで、俺は思い出した。


 綾崎さん、お父さんがいないとか言ってなかった?


 それがどういう意味なのかわからないけど……。


 もしかしたら、それが泣いた理由だったりするのかな?


 でも……他人が迂闊に聞いて良いことじゃないよね。


「だ、大丈夫だった?」

「ん、問題ない」

「そ、そっか」

「さっきはごめんなさい」

「ううん、気にしなくて良いよ」

「ありがとう……聞かないでくれて」

「へっ?」

「ん、伊藤君は優しい」


 そう言って……少し微笑んでくれた。

 ひとまず、これで良かったのかな?

 そもそも、どうしてこんなに気になってるんだろう?






 一緒にリビングに入ると……。


「あら、平気だったかしら?」

「はい、お世話になります……母から、よろしくお伝えくださいと」

「ええ、お預かりしますね」


 すると、我慢しきれないのか……優香が、綾崎さんの制服の端を掴む。


「ねえねえ! 絵本読んで!」

「ん、任せて」

「あら、良かったわね。じゃあ、お願いしちゃおうかな」

「はい、大丈夫です」


 優香に手を引かれ、ソファーに座る。


「じゃあ、息子には料理を手伝ってもらおうかしら」

「わかったよ」


 俺が台所に行くと……。


「それで、彼女なの?」

「だから違うって」

「なんだ、つまらないわね」

「いや、つまらないって……」


 すると、急に真面目な表情になる。


「良いのよ、遊んだり彼女作ったりして。私、仕事減らすから」

「……ダメだよ、母さん。優香は、これからが一番お金かかるんだから。習い事とか、お洋服とか、小学生になったらスマホだって持たせないと」


 男はまだ良い。

 色々な意味で女の子より危険は少ないし、むしろ怪我をするくらいでいい。

 小さいうちはおしゃれなんか気にしないし、それでいじめられることもない。

 でも女の子は、生きるのが大変だ。

 色々なことを気にして生きていかないといけない。


「そうねぇ……でも、貴方だって私の大事な息子よ?」

「……わかってるよ。でも、俺は……優香に笑って暮らしてほしい」

「あらあら……優しいお兄ちゃんね」


 だって、優香が生まれるまで、俺は両親の愛情を一心に受けてきた。

 優香も愛されてるけど、母さんは働きづめだし、親父がいないから寂しいはず。

 だったら、せめて俺が……優香の側にいてあげたい。






 食事の準備を済ませたら、四人で夕飯を食べる。


「いただきましゅ!」

「「いただきます」」

「はい、召し上がれ。簡単なもので悪いわねぇ」

「そんなことないです」


 今日のメニューは、ハチミツを使った生姜焼きがメインだ。

 千切りキャベツと、あさりの味噌汁が付いている。

 もちろん、美味しいことに違いはないけど、そこまで凝っためのじゃない。


「ん、美味しい……」

「おいちい!」

「ふふ、嬉しいわ。作った甲斐があったわね、和馬」

「うん、そうだね」


 でも……。


「これ、ハチミツを使ってますか?」

「そうなのよ、そうすると安いお肉でも柔らかくなって……」

「今度、やってみます」

「お姉ちゃん! わたしたのちい!」

「ん、私も楽しい」


 女子三人と揃えば何とやらってわけじゃないけど……。

 やっぱり、三人より四人で食べた方が美味しいよね。






 食事を終え、流石に帰る時間になる。


「うぅ……」

「こら、わがまま言わないの」

「ま、また……きても良いですか?」

「あらあら……気を使わないで良いのよ?」

「い、いえ……私がきたいので」

「そう……ええ、いつでもいらっしゃいね」

「わぁーい! やったぁ!」


 またきてくれるのか……いやいや、優香のためだし。


 ……俺は誰に言い訳してるんだろう。


 いや、きっとそうなのかも。


 意外とお喋りでユーモアもあって……。


 優しくて、笑うと可愛くて……なんだか放っておけなくて。


 知り合って日が浅いけど……俺は綾崎さんに惹かれているらしい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る