第25話 ヒロイン視点

 ……はぁ、はぁ、はぁ……。


 私は何故か、急いで電車の中に乗り込む。


 別に急いでたわけじゃないのに……帰っても誰もいないし。


「し、心臓の鼓動が……」


 走ったから? ううん、その前から……。


 伊藤君が嬉しそうに笑って……それを見たから?


「友達……」


 そう言ってもらえて嬉しかった?


 ……なんか、違う気もする。





 結局、わからないまま……家に到着する。


「ただいま……」


 またただいまと言ってしまった。


 もう帰ってこないことはわかってるのに。


「……あれ?」


 なんか、いつもと違う。


 ……胸が苦しい? 以前にもどっかで感じたことがある気がする。


 今日はおかしい……泣いちゃったし、走って逃げちゃうし。


「なんだろ? ……とりあえず、今日起きたことを思い出してみよう」





 ソファーに座って、考えてみる。


 今日は、お家にお邪魔して……。


「優香ちゃんの寝顔が可愛かった……あとお部屋に入って、ライトノベル?っていうのを借りて読んで……」


 男の人の部屋に入ったのは初めてだったけど、不思議と怖いとは思わなかった。

 性質上、割と男の人には警戒するんだけど……。


「なんでだろう? 優香ちゃんが下にいたから?」


 二人っきりなら、また違うのかもしれない。

 ……今度、試してみよう。


「そのあと、ライトノベルを読んで……」


 男の子がヒロインの女の子に話しかけられなくて……。


 女の子も話しかければ良いのに、全然そっけない感じで……。


「どっちも、言いたいこと言えば良いのに」


 みんなそう。


 私と視線を合わせると目をそらすし、かと思えばいきなり告白してきたり。


 用があると思って近づいたら、女の子達は避けるし……。


「ほんと、よくわからない……」


 でも、わからないのは……私も同じ。


「おままごとは初めてで楽しかった。伊藤君が面白い顔してたし……でも、楽しかったはずなのに……」


 どうして、涙が出てきたのだろう?


 涙なんかいつ以来だろう?


 そもそも、最後に泣いたのはいつ?


「泣くというのは、悲しい時に出るらしい」


 悲しかった? 何が?


 あの時、私は無意義になんて言った?


「……心配する人なんていない」


 そう……私には遅くなっても心配してくれる人がいない。


「それが悲しかった?」


 あっ——あの感覚は、両親が……私のことに無関心になった時に感じたものだ。


 一応、あの時電話したけど……両親が出ることはなかった。


 もちろん、もう期待なんかしてないけど。


「でも、もしかしたら……私は寂しくなった?」








 ひとまず答えらしきものが出たので、お風呂に入ってベットに横になる。


「不思議なのは、その後の食事でその気持ちが何処かに消えたこと……」


 あと、帰り際のこともわからない。

 私のことを送ってくれた。

 きっとつまらないに違いないのに。


「なのに、嬉しそうに笑ってた」


 それを見たら……急に身体が熱くなって。


 あっ……また熱くなってきた。


「ん……病気?」


 知らないことや慣れないことしたから疲れたのかも。


 これじゃあ、明日あった時心配かける。


 そう思った私は思考を辞め、目を瞑る。


 不思議と……その日はすぐに意識が遠くなっていった……。


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