第19話 それぞれの視点
ひとまず、学校の外へと出て……。
「ふぅ……明日からどうしよう?」
何か聞かれる?
浩二ばかりに頼るわけにいかないよね。
でも、聞かれたとして……なんて答えればいいのだろう?
「むぅ……なんか違う」
「へっ?」
「手……繋いだまま」
……あっ! そうだった!
俺は、慌てて手を離す。
「ご、ごめん!」
「離すの?」
「はい?」
「もう一回繋ぐ」
すると、再び手を繋がれる。
「えっと……?」
「……何か違う? 今のは自分から繋いだから? ……わからない」
「わからないのは俺だけどね!」
相変わらず、よくわからない女の子だなぁ。
結局、わけがわからないまま……家に向かって、並んで歩き出す。
「どうして、いつも迎えに行くの?」
「いや、その……母さんは働いてるし」
「私と一緒でお父さんいない?」
「えっ? ……父さんはいるよ。ただ、転勤してるから年に一回くらいしか帰ってこれないけど」
ど、どういうこと?
綾崎さんは、お父さんがいないのかな?
……軽軽しく聞いていい話じゃないよね。
「そう……妹は可愛い?」
「そりゃもう! 目に入れても痛くないよ!」
「目に入れるの?」
「入れないよ! 比喩だから!」
「ん、知ってる」
「なんで聞いたの!?」
「ふふ……面白い顔」
大袈裟に、わざと明るく振る舞う。
なんだか、綾崎さんが——悲しそうに見えたから。
でも、最後に少しだけ笑ってくれた。
いや、笑われたが正解かも……まあ、いいか。
やっぱり、悲しい顔より笑顔の方が良いよね。
保育園に到着すると……優香が突撃してくる。
俺ではなく、綾崎さんに向かって……別に良いんですけどね。
「お姉ちゃんだっ!」
「こんにちは、優香ちゃん」
「こら、優香。まずはなんて言うんだ?」
「こ、こんにちは!」
「ん、偉い」
「えへへ〜」
綾崎さんに頭を撫でられて、ご機嫌の様子だ。
やっぱり、女の子がいると違うのかなぁ……。
◇
……ったく、世話の焼けるやつだ。
あいつが教室を出て行った後、教室は大騒ぎだ。
「なあなあ!」
「あれ何!?」
「どういう意味!?」
「何であいつ!?」
「勿体無くない!?」
というより……男子がうるせえ。
女子はどっちというと……冷ややかだな。
まあ、女子に好かれるタイプじゃないわな。
「おい、うるせえって」
「浩二! お前あいつと知り合いだろ!?」
「どうなってんだよ!」
次々と、周りから質問が飛んでくる。
はぁ……仕方ない、あいつのためならいいか。
「どうもなってないと思うが? どうみたって、付き合ってるって感じじゃないだろ?」
「い、いや、この間もそう言ってたけどよ……」
「流石に家まではおかしくね?」
そうだった。
この間突っ込まれた時は、そう言ったんだっけ。
……なんか、だんだんイラついてきたな。
「というか、付き合って何か問題あるのか?」
「へっ?」
「い、いや、別に……」
「じゃあ、ほっとけって。人の恋路を邪魔するやつは何とやらとか言うし」
「だ、だけどよぉ」
「何も、あんな地味な奴じゃなくても……」
このままだと、馬に蹴られる奴が多発しそうだな。
あいつがいけんなら、俺だってみたいな感じで。
「そうか? 俺はお似合いだと思うぜ。あいつ、昔からいい奴だし。俺、あいつから人の悪口聞いたことないんだよな。綾崎さんも割と変わってるしさ」
「そ、そうなん?」
すると、違う方から声がする。
「そういや俺、怪我した時絆創膏もらったな」
「俺……熱出した時、ノート見せてもらった」
そうだ、あいつはいい奴だ。
お人好しすぎると言い換えてもいいが。
俺が中学の時、モテるからという理由だけで怖い先輩に絡まれた。
みんなが見捨てる中、あいつだけが先生を呼んでくれた。
俺なんかとは話したこともないのに。
しかも、そのことを知ったのは大分後だった。
きっとあいつは、恩に着せたとは思ってないんだろうな……。
それ以来、絡むようになったが……。
人の悪口を言わないあいつの隣は居心地がいい。
『カーストトップでリア充の浩二』という役を演じてる俺にとっては特に。
もしかしたら……綾崎も、そういうことなのかもしれないな。
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