第20話 部屋

 うちに到着したのは良いけど、良く良く考えてみたら……。


「すやぁ……えへへ……すぅ……」


「まあ、こうなるよね」


「ん……すごく可愛い」


 この時間は、だいたいお昼寝してしまう。

 つまり、遊ぶことは難しいってことだ。


「ど、どうするの? 起こす?」


「起こすのは可哀想」


「……綾崎さんって優しいね」


「……私が?」


「うん、そう思うよ」


「……そう」


 見た目から、もっとクールな感じかと思ってた。

 でも、よく見れば表情豊かだし、結構お喋りだったりする。


「もっと、教室でも話したら良いのに」


「……私の話、つまらないから」


「うーん、そうかなぁ。少なくとも……俺は楽しいけどね」


「変な人」


「酷くない!?」


「ふふ……ありがとう」






 その後、お茶を飲んでいると……。


「君の部屋はどこにあるの?」


「……はい?」


「見たい」


「……何故ですかね?」


 ま、まずい……全然かたしてないぞ。

 いや、優香や母さんがいるから、変なものは出してないはず。


「伊藤君、いつも本読んでる。今日も、休み時間に読んでた」


「……見てたの?」


「ん、後ろの席だから」


 今日読んでたのは、漫画だったかな。


「そ、そうなんだ。漫画とか読むの?」


「読まない。読むのは小説」


 ああ、そういや有名だった。

 なんか難しそうな本を読んでるらしいって。


「多分、綾崎さんが読むような本はないと思うけど……」


「それで良い。君がどんな人なのか知りたいから」


「……はぁ、わかったよ」


 どうにも、その真剣な表情に押し切られてしまう。

 ほんと、美人さんの目力って凄い。






 二階に上がって、部屋の中に案内すると……。


 綾崎さんがキョロキョロと辺りを見回す。


「ん、色々見てもいい?」


「うん、平気だよ」


「これはパソコン……」


「そうだね」


 大丈夫! アレはパソコンのデータに入ってるし!

 紙には残さないタイプです。

 というか、優香がいるから危ないし。


「これは?」


「ゲーム機だね。もしかして、やったことない?」


「ない」


「そ、そっか」


 ……まじですか。


 現代っ子でやったことないとか貴重だよね?


「ふんふん……知らない本ばかり」


「えっ!? ○ンピースとかも?」


「名前だけは聞いたことある」


 まあ、そういう人もいるよね。

 逆を言えば、俺なんか文芸書読まないし。


「ちなみに、どういう本を読んできたの?」


「経済学とか政治学とか、株の仕組みの本とか……」


「へっ? い、いや、そういうじゃなくて……」


「ん? あっ……料理の本とか?」


「いや、それも良いけどさ……小説みたいなのは?」


「夏目漱石は読んだ」


「ま、間違いではないね」


 流石は綾崎さんだ。


 学費なしの特待生だし、そういう本を読んできたからなのかも。


「……これは何?」


「えっと、ライトノベルってやつで……綾崎さんが読むような感じじゃないかも」


 手に取ったのは、いわゆるラブコメの王道モノだった。

 ざまぁとか寝取られとかでもなく、ファンタジーやハーレムでもないやつ。

 ヒロインと主人公の純愛物で、女の子が積極的なやつだ。


「ん……君はこういうのが好き?」


「へっ? いや、そういうわけじゃ……」


「でも、いっぱいある」


 たしかに、俺の本棚には青春ラブコメ的なものが多い。

 しかも、この一年の間で。

 多分、憧れみたいなものはあるのかもしれない。

 どうしたって、高校生モノが多い。

 でも、今の俺には……そんな時間も相手もいないし。

 勉強と家族のことで精一杯だから……。


「うん……憧れはあるかも」


「そう……じゃあ、これ借りてもいい?」


「へっ? 別に良いけど……もっとファンタジーモノとか、もしくは漫画とかあるよ? そっちのが読みやすいんじゃない?」


「ん、これがいい」


 そう言って、可愛い女の子が表紙のライトノベルを胸に抱きかかえる。


 その姿は、なんだか可愛らしく見えた。



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