第59話 泣かせる?
これ、何処かで見たことあるような……。
「そうだ……優香が行きたがっていた水族館だ」
「ん……これ、あげる」
「どういうこと?」
「私、このためにバイトしてた。優香ちゃん、行きたいって言ってたから」
「えっ? ……このためにバイトを?」
「ずっと、和馬君や優香ちゃんにお礼がしたかった。でも、私にはその方法がわからなかった。だから、必死に考えた……受けとってくれる?」
「いや……俺たちは充分してもらってるよ? 優香だって、喜んでるし……もちろん、俺だって」
「ん、そんなことない。私がもらってばかり。特に和馬君は、私に色々なことを教えてくれた。人との付き合い方も、友達の作り方も……そ、それ以外のこともたくさん」
心なしか、綾崎さんの頬が赤くなる。
でも、そっか……これは綾崎さんの気持ちだから、貰わないのもダメか。
「わかった。じゃあ、素直に受け取るね」
「ん、和馬君達は三人家族。三枚あるから好きな時に行って」
「えっ? 綾崎さんはいかないの?」
「ん、たまには家族団欒が良い……私はできなかったから」
その顔は、気のせいか寂しそうに見える。
……よし、勇気を出せ。
「じゃあ、綾崎さんもおいでよ」
「……へっ?」
綾崎さんが、きょとんした表情をする。
あんまり、見たことない感じだけど……とても綺麗だと思った。
恥ずかしくて、思わず俺が下を向いてしまうくらいに。
「その……優香だって綾崎さんのことをお姉さんみたいに思ってるし……母さんも普段からお世話になってるからお礼したいって……もちろん、俺自身も綾崎さんがいた方が嬉しいし……」
「………ん」
「いや、違うか……俺が——綾崎さんにも来て欲しいんだ」
「……ひくっ……」
「へっ?」
顔を上げると……綾崎さんが泣いていた。
「ど、どうしたの!? どっか痛い!?」
「ち、違っ……わかんない……なんで私は泣いてるの?」
「い、いや、それを俺に聞かれても……」
とりあえず、周りの視線が凄いことになってる。
涙が止まらない綾崎さんを連れ、俺はその場を離れるのだった。
そして、近くの公園のベンチに座る。
「お、落ち着いたかな?」
「ん……ごめんなさい」
「いや、平気だよ」
「……私、多分行きたいって思ってた。だけど、邪魔かなって思った……」
これは……多分、説明しようとしてくれてるんだろう。
「うん」
「私は部外者だし、家族だけで楽しんで欲しいって思ったのも……本音だと思う」
「そっか」
「だけど、やっぱり寂しくて……だから、和馬君のお言葉が嬉しかったんだと思う」
「じゃあ、一緒に行ってくれるかな?」
「……うんっ!」
夕焼けに染まる中……彼女の笑顔が輝いて見える。
……それは、とても綺麗で……俺は目を離すことが出来ない。
同時に改めて自覚する。
俺は、彼女が好きなんだと。
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