第58話 嫉妬?

どうしたんだろ?


息を切らして慌ててる綾崎さんは、初めて見る。


「はぁ……はぁ……まだいた」


「えっ?」


「バイト見てたの?」


「……知ってるの?」


というか、どうしてここにいるんだろう?


「萩原さんから連絡きた。今、和馬君と一緒にいるって」


……なるほど、そういうことか。


どうやら、二人して萩原さんにはめられたらしい。


「俺はバイトを見に行かないかって誘われたんだ」


「むぅ……そういうこと」


「嫌だったかな? でも、萩原さんは悪くないよ。俺も気になってたのは事実だし」


「嫌ではない……ただ、恥ずかしかったから」


彼女の頬が、心なし赤く染まる。


「そ、そうなんだ?」


「もっと出来るようになってから、見せようと思ってた。そしたら、和馬君が入ってきた時に教えてあげられるから」


「……そっか。じゃあ、俺も勉強を頑張らないとね」


「ん、私も頑張る」


「いやいや、俺が頑張らないと。とりあえず……座る?」


「ん、座る。ちょっと待ってて」


……そして、相変わらず周りの視線が凄い。


俺ってば……釣り合ってないんだろうなぁ。





その後、飲み物を買って戻ってきた綾崎さんが対面に座る。


「ん……バイト姿どうだった?」


「いや、偉そうな言い方になっちゃうけど……凄く良くできてたと思う」


「そう、なら良かった」


「そういえば、お給料も入ったんだってね。ほんと、偉いと思う」


俺なんか親からお小遣いもらってるし。


彼女もお金には困ってない感じだった。


なのに社会経験と、人を知るために頑張ってる。


それに比べて……俺ってば、何も頑張れてないな。


「あ、ありがとぅ……その、嬉しい」


「えっ?」


「和馬君が褒めてくれて……私、褒められたことないから。容姿とかはあるけど、行動を褒めてもらえることはなかった」


「……そっか」


「ん、やっぱり和馬君は優しい」


「そんなことないよ、今日だって……」


バイトをしてる姿を見て、良くない感情を持ってしまった。


「今日だって?」


「いや……」


「むぅ」


可愛らしく、ふくれっ面をしてくる。


これは、答えるまで帰さないって感じだ。


「……綾崎さんが遠くに行った感じがして、少し寂しかったかな」


「ん……どういうこと?」


「なんか、バイトもそうだし……俺以外と仲よかったりするのが嫌だったみたい」


我ながら、なんとも情けない話だ。


「そ、そう……私も、そう思った。今日、二人が一緒にいるって知って……なんでだろう?二人共、大事な友達なのに」


「それは……」


もしかして、綾崎さんも俺のことを?


……いやいや、勘違いするな。


仲のいい萩原さんと一緒にいる俺に嫉妬したに違いない。


「そ、それで! バイト代は何に使うの?」


「ん……それは決まってる」


「へぇ、そうなんだ」


すると、綾崎さんの表情が変わる。


そして、カバンから何かを取り出し……俺の前に置く。


そこには、水族館のチケットが3枚入っていた。











  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る