第57話 バイト姿

 その後も勉強会は続き、あっという間に梅雨の時期が来る。


 そんな中、俺はと言うと……綾崎さんが働いてる本屋に初めて訪れていた。


 というか、萩原さんに誘われる形で。


「あっ……しっかり働いてるや」


 俺の視線には、レジで本にカバーしたり、会計をしている綾崎さんがいる。


 相変わらず無表情だけど、無愛想ってほどではないかも。


 気のせいか、並んでいるのは男性が多いような気がする。


「でしょ? 最初は愛想もなくて店長も困ってたけど、今では少し良くなってきたし」


「ちょうど、三週間くらいだっけ?」


「うん、そうだよ。今日がバイト代が入る日なんだ」


「なるほど……凄いね」


 ちなみに今日は、バイトが休みの萩原さんと待ち合わせをし、今回は内緒で覗く形だ。


 何でも、萩原さんに見て欲しいって頼まれたからだ。


 今度は、男性と話しているのを見かける。


「あの人は大学生の先輩ね」


「そ、そうなんだ」


「平気だよ。あの人は彼女にぞっこんだから」


「な、何も言ってないし」


「ふふ……じゃあ、バレちゃう前に帰ろっか」


「そうだね」


 何故か、綾崎さんは俺に見られるのが嫌だったらしい。


 一度見に行こうとしたら、何やら止められたし。


 今回は迷ったけど……気になったので見にきたってわけだ。


 そのことを、少し後悔してるけど。






 近くの喫茶店に入って、萩原さんとお茶をする。


 最近はお昼を一緒に食べたりするので、お互いに緊張はしなくなった。


 何より、同じく綾崎さんに振り回される同士だし。


 軽く雑談や学校のことなど話した後……。


「綾崎さんのバイト姿はどうだったかな?」


「いや、想像以上でびっくりした」


 俺の勝手なイメージで、綾崎さんは上手くバイトかできない感じがした。


 少し人とは距離感が違うし、人と話のが苦手なイメージだったから。


 ……なんか、我ながら口が悪いな。


 なんだろ、この気持ち悪い感じ……。


 そっか……綾崎さんが、ああして普通にしてるのが嫌だったんだ。


 自分だけが、綾崎さんをわかってて……男子とかだと自分だけだって。


 自己嫌悪だ……俺は全然優しくもないし良い人じゃないよ。


「でしょ? あれって誰のために頑張ってるんだろう?」


「えっ?」


「綾崎さん、バイトに興味があったのは確かみたいなの。でも、それ以外にもあって……」


「どういうこと?」


「それは本人から聞くと良いかもしれませんね」


「えっ?」


「じゃあ、私は帰りますね。あとはよろしくお願いします」


「ちょっ?」


 振り返ると……そこには珍しく息を切らした綾崎さんがいた。

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