第38話 デート最終

 時計を見ると、五時過ぎになっていた。


 そして、楽しい時間はあっという間に過ぎるってことを久々に思い出した。


「ん、もうこんな時間」


「そうだね。暗くなる前に帰ろうか」


 この辺りは夜になるとあまり治安が良くない。

 無理な客引きやスカウトなんかが出てくるし。


「ん、その前に買い物する」


「あっ、そうだったね」


「……友達同士は罰ゲームってやつをするって聞いた」


「へっ? ま、まあ、そういうのもあるね」


「私、全部勝った」


「なるほど。じゃあ、何かあれば言って。もちろん、俺にできることなら」


「……教えて」


「はい?」


 ぼそぼそ言ってて全然聞こえないや……なんだろ、少し顔赤い気がするし。


「むぅ……難しい」


「あのぅ?」


「ん……か、買い物に付き合って」


「荷物持ちってこと?」


「ん、そうとも言う」


「お安い御用だよ。じゃあ、行こうか」


「ん、こっち」


 綾崎さんの後を追って、ゲームセンターを出る。





 そして、駅前のスーパーの前に到着する。


「いつもはここで?」


「ん、大体は。ここなら近い。私、あそこに住んでるから」


 綾崎さんが指差す先には、高層ビルが建っていた。

 いわゆる高級と言われるマンションだ。


「す、すごいね」


「特に凄いことない。ただ無駄に広いだけ」


 この話はあまりしたくないみたいだ。

 やっぱり、お父さんがいないってセリフと関係あるのだろうか?


「それじゃあ、行こっか」


「ん、そうする」


 スーパーの中に入り、食材選びに付き合うが……。


 先程からホイホイと食材をカゴに入れていく。


「随分と買い込むね?」


「ゴールデンウィーク中は、この一回で済ませようかなって」


「えっと……何処も出かけないの?」


「ん、特に予定ない」


 家族とかと予定ないのかな? ……とか、聞いてはいけないよなぁ。

 でも、気になる……お節介かな?





 手早く買い物を済ませ、大人しく荷物持ちの人となる。


「ぐぬぬ……」


「ごめんなさい、買いすぎたかも」


「い、いや、平気。これでも男だし」


「男の子……ん、そうだった」


「……酷くない?」


 そう言うと、僅かに微笑んでくれた。


 特に会話が盛り上がるわけじゃないけど……これが一緒にいて楽ってやつなのかな?


「ん、ここで良い」


「えっ? 部屋まで持っていくよ」


「ん、大丈夫。エレベーターの近くだから」


 ……あんましつこいと良くないよね。

 もしかしたら、部屋番とか知られたくないかもだし。


「わかった。じゃあ、ここで。綾崎さん、今日はありがとね。お陰で楽しかったよ」


「……ん、私も。色々と知らないことがわかって興味深い日だった」


「それなら良かったよ。それじゃあ、またね」


 あんまり引き止めるのも悪いと思い、立ち去ろうとすると……。


「ま、待って……」


「綾崎さん?」


 振り返ると、もじもじした綾崎さんがいる。


「……ば、罰ゲームはまだ終わってない」


「えっ?」


「わ、私と……ライン交換して」


「……ははっ!」


「むぅ……なんで笑うの?」


「ご、ごめんごめん……全然罰ゲームじゃないから驚いちゃって。そういえば、昨日設定してもらったって言ってたね。うん、もちろん良いよ」


「ん、どうやるの?」


「それなら何とかわかるよ」


 その後、何とかライン交換をすませる。


「……えへへ」


「えっ?」


 今、聞き覚えのない笑い声が……そんなに嬉しかったのかな?

 今もスマホを宝物のように、胸の前で抱えている。


「友達二人になった」


「あ、ああ、そうだね」


 あ、あぶない! 変な勘違いするところだった!


「これ、連絡して良いの?」


「うん、いつでも良いよ……ゴールデンウィークとか暇なら連絡ちょうだいね。予定が合うかわからないけど、連絡だけは遠慮しなくていいからさ」


「……ん、わかった」


「あ、あと……遅くなったけど、その服と髪型似合ってるね!」


「……ん」


「そ、それじゃあ!」


 色々な意味で自分が恥ずかしく、慌ただしくその場を離れる。


 その途中で、スマホを見てニヤニヤしてる自分に気がつく。


 ……やっぱり、好きなのかなぁ。

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