第37話 デートその四

 でも、楽って感じではないかなぁ。


 ドキドキするし、緊張するし……ん? それって楽と矛盾しないか?


 父さんは、何が言いたかったんだろう?





 その後、紅茶を飲みちつ、本を半分ほど読み終える。


「ひとまず、この辺にしとこうかな?」


「ん、時間なくなっちゃう」


「それもあるけど、個人的には一気に読みたくないというか……」


「……もったいないから?」


「そう! そうなんだ!」


「和馬君、少しうるさいかも」


 そこで俺は、ここが静かな喫茶店ということを思い出す。


「ご、ごめん」


「ふふ……」


「……」


 今、物凄く自然に笑った。

 その瞬間、鼓動が速くなる。


「どうしたの?」


「い、いや、なんでもないよ。えっと……そう、勿体無いかなって。面白い本って、読み終わるのが嫌というか……」


「ん、わかるかも。あぁ、終わっちゃうんだって思う」


「そうそう、あとは読み終わった後も良いよね。こう、読了感っていうか……」


「ん、わかる。私はふわふわするかも」


「うんうん、こう椅子の背もたれに寄りかかって上とか見ちゃったり……ご、ごめん、ちょっと気持ち悪いかな?」


「ん、問題ない。私、その気持ちわかる。あと……聞いてるの楽しい」


「そ、そっか」


「それで、次はどうするの?」


「普段はこの後買い物だっけ?」


「ん、でもまだ時間ある。いつも買い物行くのは五時過ぎくらい」


 スマホを確認してみると、まだ三時半だった。


「じゃあ、まだ時間あるから……何かしたいことあるかな? 今度は綾崎さんが気になってるものでも良いし」


「……むぅ」


「あ、綾崎さん?」


 何やら睨まれてるような……?

 俺、何かしたっけ?


「なんで聞けないの……ううん、聞いてこないのかな……」


「ごめん、よく聞こえないんだけど……」


「……したいこと……あるところに行きたい」


「うん、良いよ。どこでも付き合うよ」






 その後、会計を済ませ……たどり着いた場所とは。


「へぇ、ゲーセンかぁ」


「ん、来たことない……気になってはいた」


「ああ、なるほどね。わかった、俺に任せてよ。よく通ってるからさ」


「ん、頼りにしてる」


 よし! これで良いところ見せるぞ!









 ……と思ったら、全然予想と違うんだけど!?


「おおっ! すげぇぞ! あの姉ちゃん!」

「半端ねぇ!」

「お兄ちゃん! 頑張って!」


 いつの間にか、周りにはギャラリーが集まっていた。

 その視線先には……ものすごい速さでボタンを押す綾崎さんがいる。

 いわゆるリズムゲームで、順番に光っていく部分を両手で触れていくゲームだ。

 目で追っては間に合わないから、反射神経がモノを言うとはいえ……。

 疲れ知らずに、難易度の高いレベルをクリアした。


「ん、まだまだいけそう。もう一回やる?」


「お、俺は限界だよ!」


「むぅ……任せろって言ったのに」


「ぐぬぬ……次は違うのでやろう!」


「ふふ、良いよ」




 その後、シューティング、クレーンゲーム、レースとやるが……。


「ぜ、全部負けた……」


「ん、全部面白かった」


「そいつは何よりですねー」


 俺のなけなしのプライドはズタボロですけどね!

 ほんと、ハイスペックな女の子だよなぁ。

 ちょっと教えただけで、すぐに上達するし。


「……嫌になった?」


「えっ?」


「……私と遊ぶと、みんな嫌な顔する……体育の授業でもそう……わからない。私は何かした?」


 ……俺は馬鹿か。

 こんだけ良い子なのに、人付き合いが苦手な原因があるに決まってるじゃないか。

 多分、空気が読めないとか言われちゃうんだろうなぁ。


「ううん、少なくとも俺は嫌じゃないよ。そりゃ、少し悔しいけどね。大丈夫、次は勝てるように頑張るよ」


「……じゃあ、最後は勝ち負けのないやつにする」



 そう言って、俺の手を引いて……。


「えっと……プリクラ?」


「ん、友達同士はこれを撮るって本に書いてあった」


「い、いや、間違ってないんですけどね?」


 距離が近いよ! なんで腕を組まれてるの!?


「本ではこう書いてあった。腕を組んでピース」


「いや、それは……」


 彼氏と彼女だから成立するアレでして……。


「ん、ピースしないの?」


「……ァァァ! やるよ! やりますよ!」


 恥ずかしさを抑え、俺もピースをする。


 とりあえず……腕に触れる感触のことで頭がいっぱいでした。


 ドキドキしたけど、これは好きとは違うし……。


 そもそも好きってなんだ?


 ……まあ、良いや。


 焦らずゆっくり考えますか。

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