第39話 ヒロイン視点

……楽しかった。


いつもなら、家に入ったら暗い気持ちなのに……。


今日はそんなことない。


本を選ぶのも楽しかったし、二人で本を読むのも楽しかった。


「これは新しい発見。本は一人で読むだけじゃない」


あと、ゲームセンターも楽しかった。


「クス……和馬君、負けたら変な顔してた」


でも、嫌な顔はしてなかった。


「何とか、ラインも聞くことできた」


何でかわからないけど、全然聞けなくて……あれは何だったんだろう?


「あと……最後だけど褒めてくれた」


鏡の前の私は、笑っている気がする。


笑い方なんて忘れたと思ってた。


私は洗面所の前で、今日の朝のことを思い出す……。






……何してるんだろう、私。


昨日は全然寝れないし、今日も服が決まらない。


「……こんな感覚はいつ以来?」


確か、昔はあった気がする。

小さい頃に、両親が遊園地に連れて行ってくれた時とか。

そんな日は、こんな感じで……楽しみだった気がする。


「そっか……私、今日が楽しみなんだ」


確かに、和馬君と会うのは嫌じゃない。

彼は人の悪口を言わないし、色々と気を使ってくれる。

一緒にいて、心地が良い。


「今日は私を観察するって言ってた……ますます、なに着よう?」


洋服なんかに興味はない。

恥ずかしくない程度に着れれば良いって思ってた。


「……ワンピースがあった」


高校生になるときに、久々に三人で出かけた。

その時に、珍しく両親が買ってくれた。

高校祝いのお祝いだって……二人とも珍しく機嫌が良くて……。

でも、今まで着たことはない。

何故なら……あの日に離婚が決まり、数日後あの二人は居なくなったから。

お祝い……二人にとっては義務教育を終えたいうお祝い。

これで、新しい家族のところに行けるということを知った。


「……でも、服に罪はない。これは、確かに自分が気に入って選んだもの」


何となく手に取り、鏡の前に立ってみる。

少しサイズ変わったけど大丈夫かな?


「似合ってる? ……わからない」


試しに写真を撮って、萩原さんに送ってみると……。


『可愛い! 凄く似合ってるね!』

『ほんと? 変じゃない?』

『うん!』

『ありがとう。じゃあ、これにしてみる』

『頑張ってね!』

『ん、やってみる』


……すごい、すぐに返事がきた。

友達ってすごい……これも、和馬君のおかげ。


「……何か言ってくれるかな?」






……ちょっと遅かったけど。


「でも、良い……これで嫌な思い出の品じゃなくなる」


これは、初めての友達とお出かけ記念の物。


これからは、これを見たら笑顔になれるかもしれない。






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