第33話 デート前

 ……昨日は勇気出したけど……。


 今日になって後悔してきた……。


「な、何を俺は……これじゃ、デートに誘ったみたいじゃないか」


 いや、俺はただ……自分の気持ちを知りたいと思って……。

 そのためには、綾崎さんのことを知る必要があって………。


「ァァァ! 誰に言い訳してるんだ!」


「お兄ちゃん? お布団にくるまってどうしたお?」


「……妹よ、いつからそこに?」


「うんと〜鏡の前で髪をいじってる時から!」


「ゴフッ……」


 何という辱め……!


「平気ー?」


「ああ……平気だから、少し放っておいてくれるかい?」


「あいっ! 優香、お昼寝してくる!」


 ドタドタと音を立てて、階段を下りていく。

 ……俺が気負い過ぎてたなぁ。

 昨日、明日遊びに行くって言ったら……優香は全然普通だった。

 これも成長したってことなのかも。

 むしろ、俺が妹離れできてなかったかぁ。


「あらあら、せっかく髪の毛セットしたのにダメじゃない」


「あのね、母さん。年頃の男子の部屋に勝手に入らないでくれるかな?」


「あら、良いじゃない。お母さん夢なのよ、息子のそういう本を見つけて机の上に置いておくのが」


「なんて恐ろしい夢を……」


 全男子高校生が親にされたら死ねるナンバーワンじゃないか!


「あとは、彼女とイチャイチャしてるところに『あら、ごめんなさい』っていうのが夢かしら」


「そ、それもひどい……」


「でも、今日はデートなんでしょう?」


「へっ? な、なんのこと?」


 昨日、母さんには『明日出かけても良い?』としか言ってないのに。


「そりゃー……そんなオシャレしてたらねぇ。髪なんか、普段やらないじゃない」


「あっ——」


「ふふ、良いのよ。学生だもの、楽しんでらっしゃい」


「……良いのかな?」


「当たり前じゃない。貴方を縛り付けるために、優香を生んだわけじゃないのよ? もっと幸せになるために産んだんだから」


「……うん」


「貴方も可愛い息子だもの。楽しく生きてもらわないと……まあ、世話かけてる親が言えたセリフじゃないか」


「ううん、そんなことないよ。好きで世話してるから……でも、今日は遊びに行っても良いかな?」


「ええ、もちろんよ。ほんと、よくできた息子だこと」


 その後、昼寝してる優香の頭を撫でて……家を出る。






 そして電車に乗り、一駅で降り……改札口の前で待つ。


「うわぁ、相変わらず一駅なのに随分と違うなぁ」


 俺の住むところは何もない田舎だ。

 有名なのは航空公園という航空発祥の地と言われるものがあるくらい。

 この所沢は都会とは程遠いけど、以前と比べたら全然違う。

 高層マンションや駅の開発、交通の便なんかもよく人気になってるみたい。


「なんてどうでもいいことを考えて気を紛らわせると……」


 はぁ……緊張してきた。


 でも、きちんと確かめないと。

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