第52話 それぞれの思い

 ……寝ちゃった。


 何故か私は、膝の上で寝ている和馬君の頭を撫でる。


「ん……」


「……なんだろ?」


 よくわからない気持ちが出てくる。


 むず痒い? ホッとする? こうしてると……安心する?


 ……好きってなんだろ?


 これが好きってこと?


「まだきちんと話してから一ヶ月も経ってないのに……良くない」


 私の両親はそれで失敗した。


 出会ってすぐに仲良くなって……結果的に別れた。


 私は、同じようなことはしない。


「……うん、もう少し確かめないと。私の気持ち……和馬君の気持ちも」


 そんなことを考えていると……私も段々とまぶたが重くなってくる。


 私だって……和馬君がいると思ったら寝れなかったんだから。


 こうなったら、責任とってもらわないと。




 ◇


 ……ん?


 なんか、めちゃくちゃ柔らかなものが……。


「ふがっ……」


 い、息ができない!?


 なんだ!? 何が起きてる!?


「んっ……ぁ……」


「……!?!?」


 上から悩ましい声が聞こえてくる!?


 お、落ち着け、俺は……膝枕をしてもらって……まずい!


 覚醒した俺は力を振り絞って、その場から起き上がる。


「プハッ……や、やっぱり……」


 どうやら俺は、綾崎さんの抱き枕と化していたらしい。


 つまり……お、おっぱいに顔を埋めていたことに。


「ん……あれ? 和馬君?」


「お、おはようございます」


「どうして……私も寝ちゃったんだ……」


 よ、良かった。


 どうやら、俺を抱き枕にしたことは覚えてないらしい。


 すると……玄関から音が聞こえる。


「お姉ちゃん! ただいま〜!」


「ただいま」


「お……お帰りなさい」


 綾崎さんは何やら照れくさそうな表情をしている。

 しかも、気のせいか顔が赤い気もする……もしかして起きてた?


「お帰り、二人とも」


「お姉ちゃん! 続き見るお!」


「うん、そうしよう」


 そして、再びテレビの前で二人並んで視聴を開始する。


 すると、母さんが手招きをしているので近づくと……。


「ふふ、どうだった? 手を出した?」


「……はっ?」


「何よ、つまらない。何をしてたの?」


「つ、つまらないって……朝ご飯を食べて、そのあと……な、何でもないし」


「……これは何かあったわね……よしよし」


「よしよしじゃないよ」


「あんな良い子逃したら、アンタに先はないと思うわよ?」


「……そりゃ、そうだけど……いやいや、そもそも綾崎さんは……」


「はぁ……我が息子ながら情けない。そういえば、あの人もそうだったわね。私が迫らないと」


「はい、ストップ。親のそんな話は聞きたくない」


「じゃあ、しっかりやりなさいね」


 ……しっかりね。


 とりあえず、好きなことは自覚したから……。


 後悔だけはしないように、頑張ってみようかな。

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