第51話 いつもと違う朝

 ふぁ……中々寝れなかったなぁ。


 好きだと意識したら……。


 その子が隣の部屋にいるかと思ったら……すぐに寝れるわけがない。




 眠い目をこすり、一階のリビングに入ると……。


 スウェット姿のままの綾崎さんがいた。


「あっ——おはよ、和馬君」


「お、おはよう、綾崎さん」


「随分とお寝坊さんなのね? もう九時になる」


「いやぁ……うん、そうだね」


 貴女がいたから眠れなかったんですけどね……とは言えない。


「二人はさっき買い物に行った。弥生さんが、和馬君に朝ご飯食べさせてくれって」


「ご、ごめん」


 他人の家に一人きりとか気まずいだろうに。


「ん、平気。この家は……人が住んでる気配がするから」


「……そっか」


「……ん、早く顔と歯を洗ってきて。その間に温め直すから」


「う、うん」





 その後、俺がリビングに戻ってくると……。


「ん、座って……といっても、君のお家だけど」


「これ、綾崎さんが?」


 テーブルの上には、焼き鮭と大根の味噌汁、ご飯と海苔がある。

 うちの朝には中々出てこない食卓だ。

 なにせ、俺も母さんも時間がないのでパン系になりがちだ。


「ん、私が作らせてもらった。泊めてもらったお礼に」


「そ、そっか」


 ま、まずい……お弁当を食べるとはわけが違う。

 好きになった子の朝食を食べられるとか……。


「早く食べないとお昼来ちゃう」


「う、うん……頂きます」


 俺は大人しく席に着き、味噌汁を口に含み……。


「あっ——美味しい」


「……ん、良かった」


「いや、本当に美味しいよ」


「あ、ありがとう」


 なんだ? このお腹に染み渡る感じ……。

 朝に飲むインスタントじゃない味噌汁って、こんなに美味しいんだね。


「うん、シャケも美味しい」


「ただ、焼いただけ」


「まあ、そうかもしれないけど……うん、美味しい」


 こんなにゆっくりと食事を取るのは久々かもしれないなぁ。

 いつもは優香がいて、慌ただしいし……まあ、それが楽しくもあったりするけど。

 それでも、たまにはゆっくりと食べたいと思うのが正直なところだ。




 その後、食べ終わり……。


「ふぅ……ご馳走さまでした」


「ん、お粗末様」


「いや、ほんとにありがとね……ふぁ……」


 いかん……腹一杯なったらまた眠くなってきた。


「君は、もっとわがままになった方がいい」


「えっ?」


「優香ちゃんや弥生さんから話を聞いた。自分達の面倒や、自分のことで大変だって。でも、そうさせてる自分たちが歯がゆいって……いい家族」


「でも、そうしないと……父さんがいないし」


「ん、偉いと思う。でももっと周りを頼ったり、人に甘えたり……」


「あのね、綾崎さん……それはブーメランじゃないかな?」


「むぅ……しまった」


「ぷ……ははっ!」


「ん、笑われた」


「ご、ごめんごめん……」


 困った顔がつい可愛らしかったから。

 ……なんて言えるわけないけど。


「ん、でも元気でたならいい。じゃあ……こっちにきて」


「はい?」


「いいから」


 俺は綾崎さんに強引にソファーに座らされ……綾崎さんも、何故か隣に座る。


「あの?」


「……えい」


 急に引っ張られる!


「うわっ!?」


「ん、じっとして」


 なっ!? ひ、膝枕されてる!?

 や、柔らかい……違う違う! そうじゃない!


「お、起き……グェ!?」


「ダメ、起きちゃ」


 強引に押し付けられる!


「えっと……?」


「ん……弥生さんにお礼に何をしたらいいか聞いた。そしたら、和馬君を膝枕してあげって……よくわからないけど、それがお礼になるって……膝枕が好き?」


 か、母さん!? なにいってんの!?

 いや……そりゃ、気持ち良いけど。


「か、母さんがすみません」


「ん、問題ない。ただ、私で良いのかわからない」


 その顔は心なしか不安そうに見える。


「……その、気持ちいいです」


「……ん」


 少しだけ微笑んで、俺の髪を撫でる。


 俺は照れ臭いと同時に、何か安らぎを感じ……。


 意識が遠ざかっていく。

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