第12話 友情

 浩二に手を引かれ、そのまま教室出る。


 すると、廊下でも……。


「正義のヒーローってか」


「ちげーよ、こいつ具合悪いみたいだし」


「そうなん? ああ、あいつら気づかなそーだな」


「まあ、あいつらも悪気があるわけじゃないけどな」


 突っ込んでくる人達に軽口をたたき、ずんずんと進んでいく。




 そして、そのまま……学校の外に出る。


「ふぅ……ここまでくれば良いか」


「浩二、ありがとう」


 ああいっておけば、俺への心象も悪くなりにくい。

 後は、俺が明日『昨日具合悪くて……』と言えば良いだけだ。


「なに、気にすんなよ。元はと言えば、俺が悪いしな」


「へっ?」


「朝、俺に任せとけって言ったろ? 全く、きちんと言ったはずなんだがなぁ」


「いやいや、浩二は悪くないよ。俺がはっきり言えないから……ごめん」


 優香のお世話があるからとは言いたくない。

 妹の面倒を見るのが嫌とか、恥ずかしいってことじゃなくて……。

 それで『可哀想』のレッテルを貼られるのが嫌なんだ。

 俺自身は、そんなこと思ってないのに。


「謝んなよ。俺とお前の仲じゃんか」


「……ありがとね」


「おうよ。ついてだ、たまにはお前んち行くとするか」


「……妹に手を出したらただじゃ済まないからね?」


「こわっ……おいおい、俺の守備範囲外だっての」


「優香が可愛くないと?」


「……ほんと、お前って妹のことになるとダメだな」


「……自覚はあるよ」





 そんな会話をしつつ、保育園に向かうと……。


「あっ! コウジくんだぁ!」


「あらあら! 浩二君じゃない!」


 妹も含め、保育士さんも浩二に近づく。

 ほんと、どこに行っても人気者ってやつだよね。


「ちーっす、優香ちゃん。今日は俺がお迎えに来たぜ」


「わぁーい! 今日はすごいおっ! 朝はお姉ちゃんもいるし、帰りはコウジくんがいる!」


「お姉ちゃん……ああ、そういうことね。んじゃ、帰るとするか」


 浩二が優香の手を握ろうとするので、それを遮って俺が手を握る。


「優香、帰るよ。そして、その男には近づいちゃダメだよ」


「おい? 今日、お前のピンチを救った友人なのだが?」


「それとこれとは話が別だよ」


「お兄ちゃん! わたし、今日はコウジくんとつなぐ!」


「……がーん」


「あははっ! ザマァみろ!」


 ぐぬぬ……結局、イメケンがいいのか。


 まあ、でも……こういう感じも、久々で楽しいかな。




 その後、うちに行き……すぐに優香がお昼寝を始める。


「あらら……はしゃぎ過ぎたね」


「ふっ、我ながら罪作りな男だ」


「浩二?」


「わ、わかった! わかったから怖い顔すんなって!」


 全く、しようがない奴……でも、まずはこれをしないと。


「浩二、今日は本当にありがとう。お陰で助かったよ」


「……おぅ」


「なに照れてんのさ?」


「いや……お前のそういうところ、俺はいいと思うぜ」


「ん?」


「恥ずかしげもなく、素直に言えるところだよ。お前のことお人好しとか馬鹿にする奴もいると思うが……まあ、そんなのは放っとけ。お前は、そのままでいてくれ」


「浩二……」


 浩二が、どうして俺と仲良くしてくれるのかはわからない。

 でも、どうでも良いや。

 浩二が、俺にとって大事な友達だってことさえわかってれば。


「……らしくないこと言ったな。んで、結局どうなってるんだ?」


「えっと……」


 昨日から起きた出来事を、詳しく伝えると……。


「なるほどねぇ……こりゃ、春が来たか?」


「へっ?」


「いや、互いに鈍そうだな……下手に動かない方がいいか?」


 なにやら、浩二が小声で呟いている。


「どういうこと?」


「いいや、何でもない。まあ、嫌なわけじゃないんだろ?」


「そ、そりゃ、もちろん……俺だって、一応男だし」


「ははっ! 素直でよろしい! じゃあ、気がすむまで付き合ってやれよ。優香ちゃんも懐いてんだろ?」


「でも、学校で……」


「言いたい奴には言わせとけ。どうせ、ただの嫉妬と野次だ。何かあったら、俺に言え」


「……ありがとう」


 ほんと……何で浩二が、こんなに良くしてくれるかはわからない。


 でも、今度浩二が困ってたら、何か力になれるといいな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る