第13話 対比

その日の夕飯は、とても賑やかだ。


テーブルを囲んで、四人でカレーを食べる流れになったから。


「美味いっす! 弥生さん、相変わらず料理上手ですね」


「あら〜嬉しいわぁ。どんどん食べて良いからね」


「お兄ちゃん、カレーおいちい!」


「そっか、良かったね」


久々に遊びに来た浩二を、母さんが引き止めた。

相手の家に電話して、うちで食べさせてもいいかと。

相手の家族も浩二も、快く引き受けてくれた。

おかげで、優香が楽しそうだ。

……やっぱり、

俺だけじゃ、やっぱり寂しさは埋められないのかなぁ。


「そうそう! うちの子に、朝に女の子が訪ねてきて! これが凄い美人さんで!」


「ちょっ!?」


「ああ、知ってますよ。同じクラスの子なんで。でも、付き合ってるとかじゃないみたいっすね」


「あら、そうなの?」


「う、うん、もちろん」


「こいつ、変わってるでしょ? それで、興味を持たれたって感じですかね」


「そうなの……息子に春が来たと思ったのに」


浩二! 助かったよ!

母さんは残念そうだけど、これで質問責めされなくて済む……あれ?

でも、明日もくるって言ってたから……どうしよう?







……今日はいっぱい話せた。


私と違って、彼は表情がコロコロ変わって面白い。


……楽しい?


「ん……私は楽しかった?」


男の子と話して楽しいと思ったのは初めてかもしれない。

というより、男の人は基本的に喋ってばかりだ。

自分のこととか、趣味とか、もしくは私の容姿を褒めるだけ。

私は話すの苦手だし、話しかけてる人はいつも一方的だから。


「伊藤君は、私の話を聞いてくれた……それが嬉しかった?」


……わからない。


こんな感覚、初めてかもしれないから。





そんなことを考えながら帰っていると……。


気がつくと、マンションの部屋の前に到着していた。


「ただいま」


私が鍵を開けて中に入っても、ただいまと言っても……。


返事が返ってくることはない。


この部屋で暮らしているのは、私一人だけだから。


それでもただいまというのは……何故だろう?


言ったところで、意味なんてない……非効率。


「……いつもは、こんなこと考えない」


彼と話したから? それとも、優香ちゃん?


「わからない……けど、知りたい」


この気持ちが何なのか……。


「そうだ、お弁当」


伊藤君はパンを食べていた。


あればかりじゃ健康に悪い。


洗面所の前で手を洗いつつ、メニューを考えていると……。


「ん……笑ってる?」


鏡の中の自分が……笑っていた。


自分でも気づかなかった変化だ。


やっぱり、彼は面白い。


私に、新しい発見を教えてくれる。


明日からも、観察してみよっと。








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