第14話 再び登校

 結局、何も思いつかないまま、翌日の朝を迎える。


「はぁ……どうしたもんかなぁ」


「お兄ちゃんー? 遅刻しちゃうお」


「あれ? 母さんは?」


「さっき、行ってきますって言ったおー」


「ほんと? あっ、ごめんごめん! 急がないと!」


 俺は慌ててパンを詰め込み、ブレザーを着て……。


「あれ? でも、明日も来るって……」


「お姉ちゃん、来ないのー?」


 そう言い、寂しそうな顔をする。


 ……何を残念に思ってるんだ。


 いやいや! これは優香が寂しそうだからであって……。


 でも……約束を破るようには見えなかったけど。







 ひとまず遅刻してはまずいので、家を出る。


 そして、結局そのまま二人で歩き出すと……。


「あっ! お姉ちゃん!」


「お、おはよう……優香ちゃん」


 道の向こうから、少し紅潮した綾崎さんがきた。

 少し息を切らしてる?

 こんな姿は初めて見るかも。


「伊藤君もおはよう」


「お、おはよう……きたんだね」


「ん? 昨日、来るって言った。確かに、少し遅れたけど」


「そ、そうだね」


「もしかして……待ってた?」


「えっ?」


 ま、待ってたのか?

 ……いやいや、そんなことない。

 来なければ良いとは思ってないけど……。


「お兄ちゃん、顔赤いおー?」


「そ、そんなことないさ」


「お姉ちゃんも赤いおー?」


「そ、それは……少し走ってきたからだわ」


「変なのー……あのねあのね、保育園遅れちゃうよー。あと、お兄ちゃんも学校遅れちゃう」


「「それは困る」」


「「………」」


 二人で同じこと言い、顔を見合わせてしまう。


「と、とにかく! 行こう!」


「そ、そうね」


 二人で優香を挟んで手を繋ぎ、そのまま保育園に向かう。


 ママさんや保育士達の視線が痛かったのは……言うまでもない。





 結局、そのまま一緒に学校に向かう。


 相変わらず、制服を着た人たちからヒソヒソと言われているけど……。


 綾崎さんは、全く気にした様子はない。


 ……とりあえず、先にこれだけは言っておかないと。


「あ、あのさ」


「ん、どうしたの?」


「綾崎さん、えっと……無理してこなくても良いからね?」


「……私が来ると……迷惑?」


 心なしか、少し悲しそうに見える。


「い、いや! そういうわけじゃなくて……ほら、今日息切らしてたしさ。もしかして、優香が明日も来てって言ったから無理したのかなって」


「……それは違う、優香ちゃんに誘われて……多分、嬉しかった」


「なら良いんだけど」


「遅れたのは……むぅ……」


「あ、綾崎さん?」


 なにやら、下を向いてブツブツ言ってる?


「なに? どういうこと? ただ、単にお弁当のこと考えてたら寝坊したってだけなのに……どうして、それが言えないの?」


「あの〜……綾崎さん?」


「ん……問題ない」


「いや、答えになってないよ」


「さあ、行こう。遅刻したら大変」


「ちょっ!? 手は繋がなくていいから!」


 ほんと……よくわからない女の子だなぁ。

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